第401話 レベルアップ無意味説と連戦緊急クエスト「ラビコと鬼を倒そう!」様





「クエスト終わりましたー」



 俺の冒険者カードの職業レベルを上げようと、ペルセフォス王都に滞在し奮闘中。



 指定されたクエストをクリアしてポイントを稼げばいいらしく、俺はゲーム感覚で次々クエストをこなしていった。



 目指すは異世界に来たら絶対に使いたかった魔法の習得。



 ゴミ拾いから始まり図書館で歴史の本読んだり観光地を巡ったりしたが、今のところ魔法的な技術が身についた感は無い。まぁこういうのはレベルアップからのいきなり習得、ってとこなんだろう。


 ポイントは「20」あれば「1レベル」から「2レベル」に上がるらしく、最後は街の人と会話をしてみようクエストで駅の警備の騎士さん、サーズ姫様、フォウティア様、リュウル様にサインを貰い、これでちょうど「20」ポイント達成。



 俺は意気揚々と冒険者センターまで戻り、クエスト完了のスタンプやサインを貰った証拠の台紙をカウンターの女性に渡す。





「はい、お疲れ様で……え、サーズ=ペルセフォス……フォウティア=ペルセフォス、リュウル=ペルセフォス……あれ、私目がおかしいのでしょうか……。もう一回っと、えーと、サーズ=ペルセフォス……ちょ……! あの、このサインは……!?」


 さすがに女性が驚いているが、それマジもんですよ。


 この国の冠ネーム、ペルセフォス一族のお子さん達の連盟サインです。


 相当な貴重品っすよ。


「あっはは~もちろん本物さ~。今さっきお城で書いてもらってきたのさ~。これが本物だって証拠に空いた一枠にラビコ様のサインも付け足そうかな~」


 そう言って水着魔女ラビコが五枠あった残りの一個にサラサラとサインをする。


 そういやラビコもペルセフォスで有名な人だった。ってことはハイラも通用したのかな。


「え……! あの……ラ、ラビコ様……ほ、本物! うわ、わ、私ラビコ様に憧れて魔法使いを目指したのですが、才能なくて……今では冒険者は諦めてここで職員さんをやっています! あ、あの出来ましたら握手を!」


 俺の後ろからのそっと現れたラビコを見て、女性職員さんが大興奮。


 ラビコが笑顔で握手に応じる。


「で、ではこのペルセフォス王族の方々のサインも本物……す、すごい貴重な物じゃないですか! サーズ様にフォウティア様にリュウル様、それにペルセフォスを代表する大魔法使いラビコ様のサインが同時に入った台紙……あ、あのこれ私に下さい!」


 女性職員さんが俺が苦労してポイント稼いだ証拠の台紙を、服をめくりお腹にしまいこんで丸くなってしまった。


 お、おい……それがないと俺の職業レベルが上がらないんですけど。



 揉めている間に「ラビコ様がいるぞ!」と人が集まりだし、冒険者センターがちょっとした騒ぎに。さすがに王都でのラビコはすごいなぁ。


 つか早く魔法が使いたいんで、台紙を提出させて下さい。



「し、失礼しました……では、この台紙は冒険者センターに証拠として収めさせていただきます。というか、あなた何者なんですか……ペルセフォス王族の方々の連盟サインを貰えて、大魔法使いラビコ様と同じパーティーに所属しているとか。もしかしてお忍びで各地を巡っているどこぞの国の王子様とか……」


 お仕事モードに戻ってくれた女性職員さんが台紙を収め、俺のカードをジロジロ見てくる。


 いや、何者もなにもそこに書いていますよ。


 確かに俺の後ろにはあなたの想像した物語に近い設定を持ったセレスティア王族のクロなんて人がいますが、俺は正真正銘職業『街の人』です。





「ではカードの書き換えが終わりましたので、お返しいたします。また何かありましたらこちらまでどうぞ」


 女性職員さんから職業レベルが上がったカードを受け取り、俺は抑えきれない興奮で鼻息荒くカードを天に掲げる。


「やった……! ついに分かりやすい形でのレベルアップだぜ! いいよなぁ、こういうステータス表記って眺めてぼーっとするだけでもニヤニヤ出来るんだよなぁ」


 今日一日の苦労が報われた。


 しかし楽しいな、こういうレベルアップ作業ってのは。


 そういや俺って、子供の頃からゲームキャラクターのレベルアップ作業が好きだったっけ。


「おめでとうございます! 私は冒険者ではないので知らなかったのですが、今回のことで冒険者の皆さんがこうやって苦労をして職業レベルを上げていることを学ぶことが出来ました」


 ロゼリィが笑顔で苦労をねぎらってくれる。


 ああ、ありがてぇ。頑張ったらその分褒めてくれる人がいるってのはいいなぁ。仲間って最高だよな。


「やりましたね先生! あまり意味がない数字かもですが、先生の頑張りは見ていました!」


 ハイラも褒めてくれた。


 でも冒険者センターの中であまり意味がない数字とか言うな。


「……マスターの落ちている裸の本を見つける速さには驚きました」


 バニー娘アプティも褒めて……くれているのか? 川に落ちていたエロ本見つけて教えてくれたのはアプティだろ……。



「ありがとうみんな。手伝ってくれて本当にありがとうな。おかげで俺はレベルアップを果たし、念願だった魔法を使いたい夢が叶う寸前まできたよ。さぁて、どんな魔法が使えるのかなぁ。こうか、気合を溜めてドーン!」


 適当に手をかざし唸ってみるが、何も出ない。


 っかしいな、こういうのってゲームみたく規定レベルに達した瞬間に使えるようになるもんじゃねーのか? どうなっているんだよ、この異世界のゲームシステム。バグってんのか?


「あのさ~……面白いポーズで決めているところ悪いんだけどさ~その職業レベルをいくら上げたって魔法を使えるようにはならないよ~? だって一般的な魔法の才能が無いから『街の人』って判別されたわけだし~、その職業レベルを上げたってカードの数字表記が変わるぐらいでな~んも意味がないかな~あっはは~」


 俺が仲間の大切さを再確認し魔法の試運転を、と頑張っていたらラビコが最高につまらない冗談を言う。


 ああ、あれか……俺が魔法を使えるようになると自分のキャラ立ちが弱くなるとか思って焦ってんだろ。


「大体、魔法の才能があるなら職業がなんだろうが気が付いたら使えるもんだし~生まれ持った才能の無い人がなんとか努力して使えるようになる救済システムが冒険者センターでの職業ってやつで~魔法を使いたいのなら『街の人』から『魔法使い』に転職をして、魔法使いのクエストをこなさないと~」


 て、転職……? 確かにそういうのゲームで聞いたことがある……戦士のレベルをいくら上げようが、魔法を使えるようにはならない……。


 いやいやいや! 俺は転生者だぞ……そういうつまらないシステムを飛び越えて、バグの向こう側の世界へ行けるはずだ!


「街の人のレベル上げなンてよ、趣味とか自己満足の世界だぞ。あまりにキングが楽しそうだったから止めなかったけど。魔法が使いたいならよ職業魔法使いになったほうがいいぞ。あーでも転職にも試験あっからなぁ。キングって王の眼、千里眼とかいうズバ抜けたものは持ってっけど、なーんでか魔法使えねーンだな。ニャッハハ」


 クロにも突っ込まれる。


 くそ、俺の努力は無駄だったってのかよ。


 

 いや落ち着け、俺。


 右ポケットの膨らみを忘れたのか。


 俺はこれを手に入れるために頑張った。それでいいじゃないか。


 魔法が使えることよりも、よっぽど価値が高い。


 そう、これさえあれば全ての怒りが静まり、世界の全ての男達が笑顔になれる。



 伝説の剣、大魔法……それを手にした者は、多くの人を救うことが出来るだろう。だが、擦れた男達の心は救えない。そんな簡単なものじゃないんだ、思春期の男ってやつは。いや、簡単か、これさえあればいいんだ。うん。


 しかも至高の中でも至高。ペルセフォス第二王女様であられるサーズ姫様の愛用品。


 美人で気高く、多くの国民からも慕われ、ラビコに次ぐ人気を誇るだろうお姫様。そんな彼女のディープな装備品、水色おパンツ様。それが今、ここにある。



 街の人クエストを頑張った結果、俺はサーズ姫様のおパンツ様を手に入れた。


 ではこれを踏まえ、次のステップに進めばいい。



「お次はブラジャー……じゃない。俺は転職をするぞ! そして下着魔法を……」


 アカン、俺の頭の中をエロい下着がぐーるぐる。


「はぁ~? ブラに下着~? な~んかリュウルと男同士の会談して以降、社長の行動がおかしいんだよな~。やけにズボンの右ポケットに視線送ったりしているし~それ、確認するからズボン脱いで社長~」


 ラビコが不審そうな顔で俺のズボンに手をかけてくる。


 ま、待て……! その確認もしてはいけないが、ここはお前見たさに多くの人が集まって混雑している冒険者センターだぞ……! そんな状況で脱いだら、ソルートン以上に俺の悪い噂が広まるだろ! 王都の人口って半端ねーんだぞ!



 周りに集まっている冒険者諸君に緊急クエスト発生だ。共にラビコを倒そう! 


 報酬は期待してくれ、お金以外に一週間カフェジゼリィ=アゼリィで食べ放題券も追加しよう! 俺と濃密なデートが出来る権利は……いらないか、ああそう。


 さぁみんな、俺の明るい未来のために命を張ってくれ!



「せ~のっ、ドーン!!」


「……なんでしょうこれ。女性物の下着……」



 討伐メンバーが集まる前に魔女の奇襲を受け、俺のズボンがパンツごと一気に降ろされる。すぐさまロゼリィの連携攻撃が発動しズボンのポケットを確認、その右手に俺の至高の戦利品が握られている。


 あ……


 あ…………


「……これは誰の物ですか? ふふ……」


 鬼か悪魔しか放てないような黒いオーラを噴き上げ、ロゼリィが俺に迫る。


 

 き、緊急クエスト第二弾『人ならざる黒き宿屋の鬼を倒そう!』が発生したぞ……。



 異世界にいるという勇者よ、俺に力を──











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