第399話 サーズ姫様と話そうと夜のタイムマスター俺様





「よ~変態~トレーニング中に失礼するよ~」




 俺の冒険者カードに記載されている職業レベルを上げようと、クエスト消化中。



 指定された街の人と会話してみよう、の一人目はお世話になっている駅の警備の騎士さんにお願いをし、クリア。


 一つのクエストは最大五回までスタンプを押してもいいらしく、残りの四つを埋めようとペルセフォスのお城まで来てみた。


 ゴミ拾いや観光地巡りと違って、有名な人か指定の人と会話するだけでポイントゲットとか美味すぎだろ。


 

 現在の累計ポイントは「14」。説明書によると、初期レベル1からだと「20」ポイント貯めればいいらしい。


 会話クエストは一人「2」ポイントなので、あと三人で目的達成となる。


 お城の隠密であるリーガルとかに頼もうかと思ったら、ラビコがどうせなら王族を攻めようとか言ってきたのだが……。





「お、これはこれは皆さんお揃いで。ああ、もしかしてそろそろソルートンに帰ってしまうのかな? それはまた寂しくなるな」


 ラビコに先導され城内警備の騎士さんに挨拶をしながら歩き、一階の食堂横にある騎士専用トレーニングルームに到着。


 多くの騎士達が汗を流す中、奥のほうで普通に腕立てをしていた女性、この国の第二王女であられるサーズ姫様にラビコが声をかける。


「いんや~まだ帰らないみたいよ~。社長がさ~冒険者カードの職業レベルを上げたいとか言い出したからさ~ラビコさんも妻として協力をしようと思ってさ~あっはは~」


 ラビコが笑いながら話しかけているが、いいのかよ……。コネを使う気ではいたが、さすがにサーズ姫様クラスとは考えていなかったんだが。


「ほう? それでは君の伴侶としての将来が決まっているこの私も名乗りを上げねばならんな。トレーニングルームに来たってことは、体を鍛える為に来たのだろう? いいぞ、この私が手取り足取り、体を限界まで密着をさせて耳に吐息をかけつつほぼ裸で熱く指導といこうじゃないか、はは」


 サーズ姫様がすっと立ち上がり、軽く汗ばんだ色っぽい顔で俺の腰に手を回してくる。うへ、トレーニングウェアーが薄いやつなもんだから、体のラインがばっちり見えるぅ。ああ、胸はでかいぞ。


 もう妻だのなんだのは面倒だから、挨拶の一部としてスルーするぞ。



「あ、ち、違うんですサーズ姫様! その、俺今クエストの途中でして、街の人と会話をってやつをこなしていまして、リーガルあたりと話してクエスト終了の証拠のサインをもらおうかと……」


 レベル上げの為に体を鍛えようではないっす。


「ああ、そういえばそういうクエストが冒険者センターであったな。お城では門番の騎士が担当していたと思うが、確か指定人物以外でも有名な人であればいい、みたいなルールだったか。それで私のとこにきたのか、了解だ。いいぞ、サインをしよう」


 え……いいのかよ。


 サーズ姫様が笑顔で俺の手に持っている台紙を覗き込んできた。



「ただし、この私と君、二人きりで個室で朝まで話すことが条件だ、はは」


 サーズ姫様がニヤァと嫌な笑顔になる。


「お仕事中悪かったね~ド変態。じゃあ帰るよ~」


「ま、待て、冗談だ、冗談。十分ぐらいでどうだろう。個室は譲れんがな、はは」


 ラビコがむんずと俺の腕を引っ張り帰ろうとしたら、サーズ姫様が慌てて俺の腕に抱きついてきた。うぉぉ……柔みが腕にくる……!



「十分間か~。やろうと思ったら出来そうだな~……ね~アプティ~社長って一回何分ぐらい~?」


「……マスターのお一人での作業は早い時ですと一分で完了します……長く楽しまれているときは三十分ほど、最長で一時間を超えることも……」


 ラビコがクルっとアプティのほうを向き俺の股間を指すと、アプティがペラペラと俺の一番守りたいピュアな部分をメガトンオープン。


「うぉぉああああ! ほあああ! な、なんの話してんだ! アプティー! 適当なこと言っちゃいか……」


「……いえ、時計を見ながら測っていたので、間違いはないかと……連射を含めますと……」



「ああああああああああああああああ!!」






 小さな個室の窓からはペルセフォス王都内が見下ろせる。


 俺はまるで小鳥にでもなった気分で窓からの景色を眺め、自分という小さな存在が今後どうやって生きて行こうか思案する。



 なるべく人と接触しない場所で暮らそう。


 そう、森の中とかで動物たちと共に過ごし、自然のその厳しさと優しさを胸に刻み、日々大地の恵みに感謝を──



「紅茶が入ったぞ。いやすまなかったな。まさかあんな展開になろうとは微塵も思っていなかったのでな……はは、くくっ……あははははは! だめだ、我慢が出来ないぞ……あはは……はぁはぁ、すまない……くくっ!」


 以前何度か見たエロい服、スカート部分が短いウエディングドレスみたいなお姿のサーズ姫様がお腹を抱え笑う。紅茶がその振動で大波小波。露出しているお胸様の北半球も揺れている。


「はぁ……くくっ……あぁ面白いなぁ、君といると本当に面白いことが次々と起こるのだな。こんなに心の底から声を上げて笑ったのは生まれて初めてだよ」


 そうですか……日々激務でお疲れのサーズ姫様の癒やしになれたのなら、それだけでこの小鳥にも生きていた価値があったってもんです。


 僕の体は汚れてしまいましたが、サーズ姫様の歩む美しい覇道にか細いさえずりを添えられればもう満足です。思う存分踏みつけてさらなる高みを目指して下さい。



 アプティの一言でラビコとクロが大爆笑、ハイラとロゼリィがなんとも言えない顔で微笑。


 放心状態の俺を、ラビコが笑い堪えながら「十分だけだぞ~」とサーズ姫様に引き渡した。


 連れて行かれたのは、サーズ姫様がよくお一人で休むときに使っているという八畳ほどの個室。


 俺とサーズ姫様二人きりという状況。




「僕……こんなにお美しい女性達にお近付きになれたのが生まれて初めての経験でして、嬉しい半面、ふと間近で見えたり柔らかいものの刺激が来ると、欲がドカンと脳天を突き抜けていくんです……。でもその欲は僕の個人的な物であり、それを女性の皆様に一方的に向けるのは自分勝手で無責任だし、絶対にしたくないんです。僕はみんなのことを尊敬しているし、家族のようにも思っているし、でもどうしても物理的に貯まるものはあるので、結果一人でそういう行為をしたり……」


 俺が死んだ魚のような目でボソボソ覇気無く、誰にも言ったことのない本音を喋ると、サーズ姫様が優しい目で俺を見てくる。


「君は本当に優しい男なんだな。欲を律し、自分を律し、周囲の人間に出来る限り最大の配慮をしている。だが逆に言えば、君は常に自分を殺し続けていることになる。優しさは大事だと思う。だがそれが本当に君が望んだ幸せな状態なのだろうか」


 俺の望んだ幸せ? さて……どうだろう……。


「一方的はよくないことだ。では双方が望んたときはどうだろう。それはとても人間らしく、幸せな輝きを放つものだと私は思うが。与えられた時間も少ないので色々端折るが、私はいつでも君の欲を受け止める心構えは出来ている。というか、多分私のほうが君より欲が強いと思う。ああ、君なんて生ぬるいと思えるぐらい男に興味があるし、君がクマさんだったらそれはもう私は大興奮でクマとなり抱き合いたい……! そして最終的には二人で一つのクマさんとなり結果強い子が……!」


 サーズ姫様が途中から恍惚とした顔になり、自分に酔った感じで言葉を叩き込んできたが、君がクマで二人で一つのクマさんって何? 


 結果強い子? 


「あああ……! もう我慢出来ん……! 頼むから誰にも言わないで欲しいのだが、王族というのは華やかそうに見えてそれはそれはストレスの貯まる役柄でな。嫌なものもいっぱい見てきたし、これからもこの目で見ていかなくてはならない」


 ガタンと勢い良く立ち上がり、サーズ姫様が目を光らせ俺に飛びかかってきた。


「捌け口が欲しいんだ……! 現実逃避の世界がなくては精神が保たないんだ! 君は一人での行為を恥ずかしいと思っているのだろうが、そんなの誰でもやっている。この私だってそうだ」


 え? 今なんて……すごくとても録音しておきたいセリフを言いませんでしたか。


 サーズ姫様が俺をソファーに押し倒し、上から覆いかぶさってくる。うわわっ、髪からいい香り……。



「どうだろう、一人で寂しく楽しんでいる者同士、今回は仲良く二人で一緒にしてみるというのは。お互いがしたいと思っているんだ、一方的ではないだろう? ホラ、あと二分もある。先程君は最短で一分と言っていた。ならばじゅうぶん二回も出……」


「おいド変態~! 開けろ! ここ籠城用の部屋だろ~! どこに連れ込んでんだこのクソ変態! 私の男に変なことしてみろ……お城ごとぶっ壊してやる!」


 サーズ姫様の髪から香るフェロモンに心半分持っていかれていたら、ドアを激しく叩く音とラビコの怒声が聞こえだした。


 はっ! ……あ、危ねえ……心が弱っているときにエロで囲い込まれて流れのままに身を任せるところだった。



「ちっ……はは……まだあと二分あるぞ魔女! いや、もう手遅れさ……悪いが約束の壁を越え、朝まで二人で欲のままに抱き合わせてもらう。察しの通りここは籠城用の部屋でな、外からでは決して開かない仕組みになっている。物理的にも魔法的にも二重にプロテクトが張られていてな、例え魔女であろうとも突破は不可能さ、ははははは!」


 サーズ姫様がどこまで本気か分からないが、もしかしたら落ち込んでいた俺を慰めるために演技で体を張ってくれたのかもしれない。



 演技どころじゃない顔ではあるが。



「ありがとうございますサーズ姫様。落ち込んでいた俺に気を使って一芝居打ってくれたんですよね。でもまぁ、これ以上は魔女とか鬼とかの怒りが怖いんでやめときましょう。アプティ、入ってこい」


 俺は上体を起こし、サーズ姫様の頭を優しく撫でる。


 あの水着魔女、マジでお城破壊しそうでこえーし。


「いや、本気だが? ほら頭以外も撫でていいんだぞ。どうせ誰も入ってこれないんだ、遠慮せずお互いの肉体をむさぼり……」


「……お呼びでしょうか、マスター……」


 俺がアプティの名を呼ぶと、瞬時に俺の背後にバニー娘が無表情で現れた。



「な……ば、ばかな……! ラビィコールですら解けないようなペルセフォス王国の粋を集めた魔法プロテクト技術だぞ……!」


 いきなり音もなく目の前にアプティが現れ、サーズ姫様が驚愕の顔。



 ああ、よく知らないですけどこの子、どんな堅牢な鍵だろうが一瞬で突破してくる蒸気モンスターなんです。


 なにせさっき言っていた部屋に鍵かけてやっていた俺の一人演舞をほぼ全ての回、ご覧になっているそうですし。








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