第388話 強い子を願って午後とサーズ姫様の信頼する男様
「そ、それで相談というのは、国宝の本とクロのことなんですが……」
火の国デゼルケーノからの帰り道、俺達はサーズ姫様に相談をしようと王都ペルセフォスを訪れた。
本来魔法の国セレスティアの国外に出ることがないはずの本、オウセントマリアリブラ。
数百年以上前、大魔法使いであるマリア=セレスティアという魔法の国の女王様が子供のために残した遺産。
それを俺がソルートンの怪しい魔晶石アイテムのお店にいた女性から千G、日本感覚十万円で購入。
ラビコと商売人アンリーナの鑑定では本物だが、ペルセフォスの王女様であるサーズ姫様は立場上、無用なトラブルを避けたいので確定は出来ないと保留になっていた物。まぁ他国の門外不出の国宝がペルセフォスにありました、なんて言いにくいわな。
仲の悪い国なら、盗んだのか? と面倒なことになりかねないし。
幸いペルセフォスとセレスティアは友好国。
その上、サーズ姫様とセレスティアの女王であるサンディールン様は個人的に仲が良い。
そしてデゼルケーノで知り合った女性クロ。
千年幻ヴェルファントムとの戦いで俺達をその強固な柱魔法で助けてくれ、撃破後お金が無ぇんだよ、と軽い財布を怒りのままに地面に叩きつけられあそばれたので、一緒にペルセフォスまで連れてきた。
彼女のフルネームはクロックリム=セレスティアと言い、どうにも魔法の国セレスティアの現女王、サンディールン様の妹さんらしい。セレスティア第二王女様なんだとさ。
クロは言動がモロにヤンキータイプなのでそうは思えないが、本当に本物のお姫様らしい。
話を聞いてみたら、ソルートンの怪しいお店の店員に扮して俺に本を売りつけたのはこのクロ本人であると判明。金に困ってやったとか。ラビコがいるから本の価値に気が付いて、悪くは扱わないだろうと判断したそうだ。
結果、盗んだ盗まれたのお話ではなく、国宝であるオウセントマリアリブラを持っていたのは、魔法の国の王女様であるクロ。一度俺の手に渡り、元の持ち主であるクロに戻った状態だ。
なんにしても国宝を売るなよ、と。
「ふむ。まぁ、強い子を願って作戦の午後の部はこの辺にしておくか。夜の部と深夜の部が本番だな」
サーズ姫様が短いウエディングドレスを翻し、応接室の机に置いてあった書類を手に取る。
なんで夜と深夜で演目が別れているんですかね……。
第一印象は言葉遣いから仕草までザ・王女様って雰囲気なんだが、よくよく話してみるとかなりクセのある人だよな、サーズ姫様。
あと何かたまにピンクのクマさんの着ぐるみ姿が頭にフラッシュバックするのだが、これはなんの映像だろう。
ヤンキーみたいなクロといい、普通の王女様って奴はこの異世界にはいないのだろうか。俺が子供の頃から憧れてきた、ゲームの世界での王女様はいずこ。
「唯一そのオウセントマリアリブラを売ってきた女性を見た君頼りではあったのだが、一応こちらでも兵を派遣しソルートン周囲を探ってみた」
なにやら報告書みたいな書類をサーズ姫様が見ているが、フードをかぶった俺と同じか一個上ぐらいの歳の魔法使い風の女性、という情報だけで探せと派遣された人、マジでお疲れ様です。
「さすがに条件が君から得た情報だけでは探せないのでな、当たりをつけはした。セレスティアの国宝を持ち出せる人物、若い魔法使いっぽい風体。まぁこれで該当する女性はただ一人、現在勉学のために諸国を漫遊中となっているセレスティア王国第二王女クロックリム=セレスティア殿なんだがね、はは」
うっわ、もうピンポイントでヒットしてたんじゃん。
そういや以前本の相談をしたときに、サーズ姫様はその本を売ってきた女性の身元を確認したいと言っていたが、聞く限りクロなんだろうけどってことだったのか。
確証がないし、想像の範囲を出なかったともさっき言っていたか。
「正直すぐに見つかった。君の周りをウロウロしている条件にピッタリの女性がいる、と報告が来てな」
若い魔法使い風の格好の冒険者はたくさんいるが、俺の周りをうろついていたのはクロただ一人だったってことか。
「あー、そういやたまに何人かに後ろからコソコソ見られてうざかったけどよ、あれペルセフォスの兵だったのかよ。金くれれば全部話したのに」
クロがつまんなそうに呟くが、こちらも気付いていたのか……って王女様が他国の兵士に金をせびるな。
「そういうことだ。その時点ではクロックリム殿であるとの確証がなかったのでな、無礼を承知で探らせてもらった」
つーかラビコも消去法で分かったとか最初相談に行った時に言っていたな。
「確証が出来た時点で接触を試みてもよかったのだが、クロックリム殿がそこまで固執し、側を離れないのが君だと分かり、兵には休養を取ってもらった。その後、プライベートで連日ソルートンのジゼリィ=アゼリィを訪れ、食べられる限りのメニューを制覇したと嬉しそうにしていたよ」
そういや数日連続でジゼリィ=アゼリィに来る冒険者でも観光客でもない、やたらに身なりの良い動きのしなやかな男性を何人か見たが、あれがそうだったのかな。
「その報告を聞いて羨ましくてな。王都に新しく出来たカフェジゼリィ=アゼリィにはもう何度も行っているが、私も君がいるジゼリィ=アゼリィ、ソルートン本店に行きたいと思ったよ。はは」
サーズ姫様は王都でのお仕事が忙しそうだし、なかなかソルートンにお招きすることは難しそうだが、今度ぜひご招待したいもんだ。
いや……その、多分トラブルが起こる予感がする。絶対に。
「おっと、話がそれてしまったが、君の相談を受けよう。そして答えはクロックリム殿の思うがまま進めばいい。私に言えるのはこれだけだ」
え、あれ、てっきりすぐにでも魔法の国セレスティアに帰らせるのかと思っていたが。
ラビコがやっぱそうなるのか、と大きく溜息を吐く。
「あ、あの、セレスティアには……」
「はは、本当のことを言うと、セレスティアのサンディールンに個人的に手紙を書いたのだが、妹君を見つけ次第セレスティアに帰らせて欲しいと返ってきた」
俺の不安気な問いにサーズ姫様がちょっと微妙な表情で答える。
いやまぁ、普通そうだろう。
クロは家出したらしいし、この状況は家族として心配だろうし。
表向きは勉学のために諸国漫遊となっているが、本当は王族の一人が行方不明って自国民に対して体裁悪いだろう。
「国宝であるオウセントマリアリブラ。これが持ち主であるクロックリム殿の元に無事帰り、その本人の無事も確認出来た。過程はどうあれ、今の状況に何の問題もない」
サーズ姫様がすっぱり言うが、行方不明だったクロがここにいるんだから、無視は出来ないんじゃないのか?
俺がモゴモゴ何か言おうとしていると、サーズ姫様がキッと視線をクロに向ける。
「問おう、クロックリム=セレスティア殿。あなたが国を出た詳しい理由は知らない。だが、大事な本であるオウセントマリアリブラを手放してでも得たい物があった。そしてあなたが求める答えは彼が持っている。そういうことだろうか」
サーズ姫様が俺を指し、言う。
「……その通りだよ。アタシが国を出た理由は、あのかたっ苦しい国にいたんじゃ何も変えられない、そう思ったからだ。ンで噂で聞こえてきたキングの話に、いてもたってもいられず付きまとってた。アタシが求める答えはキングが持っている」
口調と態度こそヤンキーのままだが、ちょっと真面目な顔でクロがサーズ姫様の目をしっかり見る。
おっと、何か話がでかくなったぞ。
国を変えられない、ときたか。
さて……そろそろ街の人である俺は帰りましょうかね。
「そうか、いいだろう。先ほども言ったが、クロックリム殿は思うがまま進めばいい。そしてあなたが選んだ男は正しい。私も強い言葉で後押しをしたい。クロックリム=セレスティア殿の生存報告をサンディールンに個人的にはするが、私の保護下にあるから安心して欲しいと送るつもりだ」
ん、どういうことだ、それ。
なんかさっきから俺の頭の上を言葉が飛び交っている状況なんだが。
「あっはは~それってクロのことは全部変態姫が責任取るってことかい~?」
ラビコがニヤニヤ言うが、他国の王女様の責任を取るって……結構どころか、かなりやばい重さの責任だろ。
「そうだ。名目上は元ルナリアの勇者の大魔法使い、ラビィコールのパーティーで学んでいるとするがね。魔法の国でラビィコールの評価は最高クラス。その下で魔法を学ぶとなれば、国の為になると納得してくれるだろう」
そうか、セレスティアは魔法の国。その王女様が世界に名を馳せた大魔法使いラビコの下で学ぶのは何の問題もない、と言えるか。
「ふぅ~ん。それはいいけどさ、一国の王女様の責任なんてどう取るのさ。相当重いぞ~? サーズがそこまでする理由は何さ」
さすがのラビコもちょっと心配そうに、いつもの変態呼ばわりではなく、サーズ姫様の名前を呼んでいるぞ。
「理由? はは、そんなのは簡単だ。私は彼を信じている、以上だ」
あっけらかんとサーズ姫様が言うが、彼って俺かい。
「ソルートンでの銀の妖狐戦。そして今回のデゼルケーノ王国での千年幻ヴェルファントムの撃破。人類が誰も成し得なかった、上位蒸気モンスターと対等以上に戦い勝利を収めた事実。そして次々と世界の実力者を引き寄せまとめ上げる交渉術に人間性。あのワガママ魔女、ラビィコールですら彼を信じ、付き従っている」
ラビコって俺に付き従ってないぞ。
完全に俺を面白い玩具扱いしていると思うが。
「さらに彼は自分の殻を破れず、停滞していた私の部下ハイライン=ベクトールに的確なアドバイスをしてくれた。結果ハイラインは飛車輪のコーナリングが苦手という弱点を補うのではなく、この私をも上回る爆発的な直線加速を最大限活かした壁を蹴って方向転換するという奇抜な飛行法、バウンディングダンスを習得し、今や国を代表する騎士になった」
サーズ姫様のお話を、当のハイラがうんうんと頷き聞いている。
ハイラは元から才能があったしなぁ。俺は背中をそっと押し、きっかけを与えただけ。
「私はペルセフォスの人間で、セレスティアを変えたいというクロックリム殿に何もしてはいけない立場だ。外部からの力は余計なお世話だろうが、内部の人間であるクロックリム殿が国を想い行動する流れは自然とも捉えられる」
他国の内部のことに干渉するのは難しい問題だしなぁ。
サーズ姫様はペルセフォスの王族でもあるから余計に何もしないほうがいいわな。
「だが家出中……おっと、勉学の為に諸国を回っているクロックリム殿に護衛、魔法の指南役として我が国を代表する魔法使いであるラビィコールを。そしてそのラビィコールが寝泊まりしている宿屋の従業員である君をクロックリム殿に紹介することは他国干渉ではないだろう?」
さすがサーズ姫様、うまい言い訳ですわ、それ。
「君の下で学ぶことは必ずクロックリム殿の力になる。しかも正しい方向に、な。うちのハイラインを見てもらえばそれは一目瞭然。そしてこれは私見だが、君にはこの世界を変える何かがあると思っている。君に引き寄せられる人物は、何かしら今後の大きな流れのピースになるのではないかという予感がビリビリ来るんだ」
大きな流れのピース?
俺はせっかく来れた異世界の全てが見たい、というだけで、この世界を変えてやろうとか一切考えていないですが。
そうだな、世界各地で素晴らしいエロ本達と出会い、俺の部屋の飾り棚に置くエロ本が毎日変わる世界なら目指したいところではあるが。
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