第389話 気が付いたら新たな仲間がとカフェジゼリィ=アゼリィ様
「それで、先程からクロックリム殿は君のことをキングと呼んでいるが、どこかに国でも作ったのかな? はは」
とりあえずクロは何か理由があって魔法の国には帰らないそうだ。
俺が突っ込んで聞くのも変だし、そのへんはラビコやサーズ姫様に任せよう。
国を変えたいとか、街の人である俺には荷が重いだろ。
「君が作った国ならすぐにでも友好国として名乗りを挙げたいし、政略結婚でもなんでも理由を付けて君の元へ行くのだが? 見ろ、もう身支度は万全だ」
先程までの真面目なお話が一段落ついたのか、サーズ姫様がにこやかな笑顔で短いウエディングドレス風衣装を翻す。もうちょいで見えそう……ああ、見えない。ギリギリのラインを攻められた……。
「ああ、そうか。聖なる記念日にわざわざ来てくれたのはそういうことか。この私を君の国のプリンセスとして迎えに……」
なんだかノリノリで話し始めたが、キレる寸前のラビコが魔力のこもった杖をかざす。
「愛称だよ、変態~。国なんて作っていないし、久しぶりに社長に会えたからって浮かれすぎだろ~」
そういや以前、ラビコだったかに俺とラビコとアンリーナの資産を合わせれば小さな国ぐらいなら作れるとか言われたな。
俺は賭け事大穴当選の一時金しかないが、ラビコとアンリーナはマジの金持ちっぽいしなぁ。
いや、国なんて作る気一切ないですけどね。面倒そうだし。
「はは、もちろん冗談さ。私は生涯ペルセフォスに身を置くと誓っているし、それが私の血の役目だ。確かに久しぶりに君に会えて心がフワフワしているが、少ないチャンスは活かしていかないとな。今君は私の短いスカートの動きに熱い視線を送っていた。どうだろう、この紙にサインをしてくれればスカートのその先の世界も君の物になるのだが」
サーズ姫様がラビコに本気で睨まれながらも、負けずに何やら書類をひらつかせている。
スカートのその先の世界……ゴクリ……。
そ、想像力の乏しい俺なんかじゃどんな世界が広がっているのか思い付きもしないが、異世界の全てを見るんだと誓ったんだから当然そのエロ三千世界にも目を通しておきたい……いってぇ!
「社長さ~とんでもなくエロい顔になっているけど~こんな見え見えの誘惑に乗って婚姻届にサインとかしないよね~?」
怒りのラビコが杖を俺の頭にゴツンとぶつけてきた。
サーズ姫様がひらつかせていたのは、どうやらこのペルセフォス王国の正式な婚姻届の書類だそう。
「あ、ず、ずるいですサーズ様~! いつの間に書類まで……私と先生用にも一枚下さいー!」
真面目なお話が終わったと気付き、ハイラが俺の左腕に絡みついてくる。
そういや商売人アンリーナも似たような手口使うよな。
サーズ姫様といいアンリーナといい、普段から書類に関わる仕事をしているとアプローチの方法も似るものなのかね。
「ニャッハハハ! あーマジでお前らおもしれぇな。サーズ様はなンかキッとした目で怖そうだから避けていたけどよ、こんなに考えが柔らかい面白い人だったンだな!」
俺達のやり取りを見ていたクロが腹抱えて大爆笑。
身分の違いを気にする宿の娘ロゼリィや、俺と紅茶以外に無関心なアプティは一歩引いて見ているだけなのだが、ついにラビコやサーズ姫様とのやり取りに普通に入ってこれる身分の人が来たぞ。
やっかいな奴が増えた、とも言えるが。
「ラビィコールが目に見えて変わったが、私も彼に出会い変わったからな。なんと言うか思考に余裕が出来たというか、視野が広がった感じだろうか。以前は日々仕事に追われ、人生を楽しむ暇も無かったのだが、ご飯の一つが美味しいとか、誰かの為にオシャレをするという楽しみを学んだ。今は毎日がとても充実しているよ、はは」
サーズ姫様がとてもいい笑顔で微笑む。
これはアカン、見惚れてしまう。
おっと、ラビコが睨んできたので万能誤魔化しスキル咳払い発動だ。
そういやサーズ姫様も最初出会ったとき、っても戦闘中だったからってのもあるが、結構キツめなイメージだったな。
「やっぱサーズ様もキングの影響受けてンのか! だよなぁ、うまく言えねーけどキング見てると今まで感じたことねードキドキ感つーかワクワク感があンだよなぁ。こいつの見る未来が見てぇっつーか一緒に見たいっつーか、ニャッハハ」
クロがゲラゲラ笑うが、ラビコがすげぇしかめっ面。ロゼリィとハイラもちょっと焦った顔になっているが、なんだろうか。
「わりーけど、今はサーズ様の厚意にガッツリ甘えておくぜ。変な迷惑はかけねーよ、そこまでアタシもバカじゃない。キングも快諾してくれたし、これからしばらくキングにたかりながら学ばせてもらうぜ、ニッハハ」
ん? 俺が快諾? 何を?
「ま、そーいうわけだからよ、よろしく! ジゼリィ=アゼリィで下働きでもなんでもすっから、アタシをキングの側に置いてくれ」
クロがニッコニコしながら俺を見てくるが、え、この人ジゼリィ=アゼリィに来るの?
俺、ほぼ一言も喋っていないけど、流れに任せていたら魔法の国の王女様がパーティーに入りました……。
お昼。
デゼルケーノの行き帰りにまともな物を食べた記憶が無いからなぁ。
トカゲとかカエルとか目玉とか目玉とか。
俺達は昼食を求め王都のお城の前に以前作ったジゼリィ=アゼリィの支店、カフェジゼリィ=アゼリィに行くことに。
「うおぉおおおお! 旦那! 旦那じゃないすか! あ、奥方の皆さんもお揃いで来てくれるとは嬉しいっす! ロゼリィお嬢、お元気そうで……あれ、一人増え……いや、旦那ならこれぐらいの人数の奥さんがいても不思議じゃないっす!」
お店はランチタイムで大行列が出来ていたが、もうお腹の減り具合いがマキシマムだったので、強権発動。お店を任せたイケメンボイス兄さんの弟であるシュレドに頼み、お店裏口から入れてもらい三階の王族専用の部屋を開けてもらった。相変わらずの筋肉ボディ。
俺の後ろにいる女性、クロを見てシュレドが一瞬不思議な顔をしたが、謎の理論で納得したご様子。
俺、未婚。
裏口入店については、代わりにこの後お店手伝うんで勘弁してくれ。
「あ、サーズ姫様にハイラさん! いつもご贔屓にありがとうございます! さすが旦那だなぁ、このお二人にラビコ姉さんを引き連れて来店とか、この国の覇者じゃないっすか、わはは」
そういやサーズ姫様にハイラもよくカフェジゼリィ=アゼリィに来てくれているんだっけか。シュレドがお得意様、という慣れた感じで二人に頭を下げている。
というかこの二人、普通に着いてきたんだが。
まだお昼休みで、ご飯食べていないそうだけど。まぁ俺達がお昼休みに相談して時間使ってしまったからなぁ。
「やぁシュレド殿。いつも美味しいご飯をありがとう。今日は夫婦で来店と洒落込んでみた」
「私もです! 先生と同じメニューをお願いします! なにせ夫婦ですから!」
サーズ姫様とハイラが普通にシュレドと妄想会話しているが、NGワードは夫婦、な。
あ、さすがに短いウエディングドレスみたいのはもう着ていないぞ。いつものペルセフォス王国の制服に着替えてある。
「うっわうっわ、すっげぇ! 初めて入ったぞここ。いっつもアホみたいな行列で並ぶの諦めていたけど、さすがキングとオーナーの娘のロゼリィがいると待遇がすげぇな」
クロがキョロキョロ店内を見ているが落ち着け。
ジゼリィ=アゼリィ神の料理人の一人、シュレド特製の美味いもん食わしてやっからよ。
「外観がソルートンのジゼリィ=アゼリィに似ているせいもありますが、ここにいると落ち着きます。ふふ」
ロゼリィも席に座って安心した顔でにっこりしている。
このお店はアンリーナに頼んで、ソルートンのお店と似た外観で作ってもらったんだ。しかも見慣れたシュレドもいるし、ちょっと実家に帰ってきた雰囲気になれる。
「……マスター、マスター、紅茶が……紅茶が美味しいです」
先に頼んだ紅茶を飲み、アプティがほぅーっと息を吐く。
分かる、分かるぞその気持ち。
デゼルケーノでも紅茶があったが、なんか抜けた味だったんだよなぁ。うん、美味い。紅茶はこうでないとな。
「ベスッ」
お、珍しく愛犬ベスも待ちきれないようで、舌出してうまいもん寄越せアピールがきた。
「お待たせいたしましたオーナー代理に皆様! カフェジゼリィ=アゼリィ本日のランチメニュー、シュレドさん特製炭火焼き鶏肉が乗った贅沢パスタになります! あとデザートに私が作った輪切りオレンジが入った濃厚チョコレートケーキもどうぞ!」
お店の経理を任せてある、アンリーナ側から派遣されている女性、ナルアージュさんが料理を持ってきてくれた。
ナルアージュさんは元パティシエで、デザートを作るのが神クラスの実力の持ち主。
「おお、さすがシュレドにナルアージュさんだ。よしみんな、準備はいいな。食材と、作ってくれた料理人のみなさんに感謝を込めて……いただきます!」
俺が立ち上がり、待ちきれない女性陣を抑え食べてOKの言葉を発すると、皆一斉にパスタに手を延ばす。
「あっはは~これこれ~やっぱご飯ってのはこうでないとね~」
ラビコがご機嫌にパスタをすすり、セットの野菜ゴロゴロスープにスプーンを入れる。
うん、やっぱジゼリィ=アゼリィのご飯は最高だな。王都に支店を出して正解だった。
俺は笑顔でご飯を頬張る女性陣を見て口元を緩ませる。
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