第387話 大事な日に大事なお話とアプティの静の極意様
「それで、今日という聖なる祭典の日にとても大事な話があるとのことだが、ぜひ聞かせてもらおうではないか」
クロのことでサーズ姫様に相談がしたかったので、真面目な顔で大事なお話があるんです、と言ったらお城の応接室を開けてくれた。
駅から飛車輪で俺達を乗せてお城まで飛んでくれ、まだ仕事中ということでお昼まで待つことに。
サーズ姫様のほうにラビコとロゼリィ。ハイラのほうには俺とベス、アプティにクロが分乗。
知らないメンバーがいる、とサーズ姫様がチラと猫耳フードを深くかぶったクロ見る。
しかしクロがさっと俺の後ろに隠れたのを見て安心したように頷き、飛車輪でお城に向かってくれた。
ハイラもしきりに謎の猫耳フードの女性クロに敵意の視線を向けていたが、頭を撫でて飛ぶことに集中してもらった。
「……おい変態~。まさかそのお色気衣装とメイクアップの為にお昼まで待たせたわけじゃないよな~」
お昼過ぎ、午前のお仕事を終えたと思われるサーズ姫様とハイラが応接室に現れ、俺にフレンドリーな笑顔を見せる。
しかしその二人の格好を見た俺達は目を丸くし、ラビコが引きつり顔で突っ込む事態に。
「まさか。そんなことで大事な客人を待たせたりはしないさ。急いで午前の仕事を片付けていただけだ。な、ハイライン」
「はいっ、もちろんです! この衣装は以前サーズ様と最終決戦用にと一緒に買った物なんです」
サーズ姫様とハイラが目を合わせ、楽しそうに笑う。
二人が着ているのはどう見てもウエディングドレス。
それを全体的に短めに加工し、女性の身体を実に魅力的に見せる工夫が施された、ひと目で質が良いと分かる物。
うーん、素晴らしくお胸様とお尻が綺麗でいて魅惑的に見えるデザインだ。下品ではなく、上品。
化粧もさっきとは違い、紅を目の下、頬に入れている。口紅もピンクに近い紅で、統一感と柔らかさがある。
なんというか、男なら絶対見惚れるやつだ。
「社長~まんまと変態の罠にはまってるぞ~。顔、顔~」
おっと、ラビコがちょっと怒った顔で俺の伸びきった顔に鋭い視線を向けてきた。いや無理だって。こんな格好をこの二人にされたらエロい顔で見るしか為す術がない。
少年は無抵抗だ。
「はは、格好は気にしないでくれ。さ、君の私への大事なお話というものを聞きたい。耳元で吐息混じりに囁いてくれてもかまわんぞ」
「先生、どうぞいつも通りの先生の言葉で包み込むような甘い感じでお願いします! 聖なる祭典の日に大事なお話とかもったいつけて、もう! 夜はお城が幻想的にライトアップされるんです。そのときが一番抱き合うにはいいかと!」
二人があさっての方向にフルスロットルなんだが。
「ブフッ……ニャッハハハ! だめだもう我慢出来ねぇ……おんもしれーな、これ! サーズ様ってこんな冗談言うような人じゃないと思ってた! なんだよ、すんげぇ面白い人だったんだな!」
俺の後ろに隠れ、無言を貫いていたクロが堪えきれず笑い出す。
「はは、残念ながら冗談ではなく本気だ。私は選んでもらうのをただ待つような女ではないのさ。そこそこやっかいな女であると自負もあるが、サンディールン女王から私の内面のことはあまり聞いていないのかな? クロックリム=セレスティア殿」
クロのちょっと失礼な発言を気にも留めず、サーズ姫様がニヤっと笑う。
あ、とっくにお気付きになられていましたか。さすがサーズ姫様です。
ハイラがビクンと体を震わせ、慌てて姿勢を正す。
こちらは気付いていなかったご様子。
「な~んだ、気付いてたのか~。このしょうもない寸劇も、こっちが何の用で来たか分かった上でからかったのかい~?」
ラビコが心底だるそうに溜息を吐く。
まぁ、クロは猫耳フードを深くかぶっていただけだし、変装とかしていたわけじゃあないからな。
セレスティアと繋がりの強いサーズ姫様はすぐ気がついたんだろ。
「何度も言うが、冗談でもからかっているわけでもない。実に誠意を持って千年幻ヴェルファントムを倒したデゼルケーノの英雄殿に色仕掛けをし、子を三人はもうけようという作戦だが」
サーズ姫様が真顔で答える。
ああ、そうだった……こちらのお姫様はこういう感じだった。
クロがまた腹抱えて笑っている。どうにもツボに入ったっぽい。
「あっはは~じゃあ私は四人~。んで、デゼルケーノでの情報もとっくに入ってたってこと~?」
ラビコとサーズ姫様が言った人数の話はスルーとして、デゼルケーノでのお話はラビコが倒したと宣言し、それで通っているはずだが。
「一応デゼルケーノとも繋がりはあるのでな、情報はすぐに入ってきたさ。大魔法使いラビィコールが千年幻ヴェルファントムを倒した、とな」
あれ、まんま伝わっているじゃないか。
なんで俺がやったと知っているんだ。
「悪いがラビィコールのことはそれなりに長年の付き合いがあって詳しくて、な。上位蒸気モンスター千年幻ヴェルファントムを倒せる力は魔女には無いし、あの巨大ヘビを倒せる人間なんているわけがない。不思議に思って詳しく聞くと、魔女の他に魔法使いの女性一人と犬を連れた少年がいたらしい、と情報が出てきてな」
サーズ姫様とラビコは付き合い長いみたいだしな。冷静に戦力分析が出来ているんだろう。
「さすがに魔法使いの女性のほうは今ここで会うまで想像の範囲を出なかったが、犬を連れた少年というのはヒントが出過ぎだろう、はは。ああ、それは間違いなく君だな、と。ならば千年幻ヴェルファントムを倒したのも君とベス殿なんだろうと確信した」
俺と俺の後ろで猫耳フードを取り顔を出したクロをじっと見た後、サーズ姫様が真面目な顔でラビコのほうを見る。
「彼ではなく自分が倒した、と宣言したのはいい判断だったと思う。突出した力というものは時に異端と烙印を押され、世に混乱を生むこともある」
その辺はラビコとサーズ姫様は同じ考えなのか。
ラビコ曰く、俺とベスの強い力は、同時に人の心に不安を生むかもしれない。奪って自分の物にしてやろうと考える人も出てくるかもしれない。だったっけか。
「前例を嫌ってほど見てきたからね~。自然とそう動いていたよ~」
すっと右手で髪をいじり、虚空を見てラビコが何かを思い出すかのような目になる。
前例、それはやはりルナリアの勇者の元お仲間、回復魔法を使う女性、だろう。かなり大変な状況になったと聞いたしな。
「……すまない、思い出させるつもりはなかった。配慮が足りなかったな、謝る」
「いいさ~楽しい思い出のほうが多いしね~。それにそんな男を誘う目的一点の露出多めのエロい服着てしんみり謝られても面白でしかないし~あっはは~」
真面目に謝るサーズ姫様をラビコが笑うが、まぁ……今はその短めウエディングドレスが全てを持っていってしまうわな。
「はは、すまない。これはつい夜に起こるだろうことを想像し気合いが入ってしまってな。それではこの服装に合った話題に戻そうか」
そう言ってサーズ姫様がくるっと方向を変え、俺のほうに近付いてくる。
うう、その格好……近くで見ると余計やばい。いい香りもするし、歩くたびにお胸様が揺れ……。
「さぁ、君の聖なる祭典の日に私だけにしたいという大事なお話を耳元で囁いてくれ。さぁ……この私の火照った気持ちにとどめを……!」
サーズ姫様がぐいぐいと俺に体を押し付けてくる。
いや、俺がしたいのはクロの処遇の相談……あああ、二の腕あたりに柔き物が……。
「あ、ここは攻めないと……! そうですよ先生! この高ぶりは普通のやつじゃ治まりませんよ! いいですよね? もう二人はそういう関係なので、見せてもらっても……いたーっ!」
興奮したハイラも攻め入ってきて、どさくさで俺のジャージのズボンを下げようとしてきたが、ラビコの杖がハイラの頭にゴツン。
「い、いたいですぅーラビコ様ぁ……」
不満気にハイラがラビコを見て、杖はそのままサーズ姫様の頭にもゴツン。
「う、結構硬いんだな……この杖……」
ちょっと痛そうに頭に手を当て、サーズ姫様がジロっとラビコを見る。
「いい加減にしろ~この発情女ども~。うちの社長が怖がっているだろうが~」
ラビコが俺の前に立ち、サーズ姫様とハイラを引き剥がす。
助かった……ジャージのズボン、紐結んで無くてあとちょっとでマジで丸出し君だった。
「はは、まるで彼の保護者だな、ラビィコールよ。しかしいいのか? 保護者では彼の恋人にはなれんぞ?」
サーズ姫様が負けじと言い返すが、その隙に俺はズボンの紐をがっちり結ぶ。よし。
「悪いけど保護者でも恋人でもなくて~私はすでに社長の妻なのさ~見ろこの指輪を~あっはは~」
ラビコが例の俺が贈った感謝の指輪をかざすが、事情を知っているサーズ姫様には効き目薄いんじゃないスかね。
「ふん、なんだそんな物。こちらは彼からもらった二連の指輪のネックレスがある。数ならこちらの勝ちだな、ははは!」
「はぁ~? 数とかバッカじゃないの~。こういうのはどれだけ愛していますと気持ちを込めた贈り物か、だろ~」
だからその指輪と二連の指輪ネックレスは愛だのではなく、俺の感謝の気持ちを同じぐらい込めた物だっての。
あと改めて言うまでもないが、ラビコは俺の保護者でも恋人でも妻でもないからな。
「ニャッハハハハハ……ニッハーああ面白れぇぇ、お前らマジで面白いな! キングと絡むとなンでこんな楽しくなるんだ……決めた決めた、アタシもうキングから離れねぇわ。とんでもなく強くてとんでもなく面白い男なんて、もうアタシの理想の全てが詰まってるしよ!」
クロがサーズ姫様・ハイラとラビコとのバトルを見て腹抱えて大笑い。
ロゼリィも混ざりたそうにしているが、さすがにサーズ姫様相手には一歩踏み出せず困り顔。
クロは立場上サーズ姫様に近く、ある程度の乱暴な言葉遣いは許してもらえるだろう……と思う。誰に対してもヤンキー風なのはブレなくていいと思うか、見境いがないと捉えるか分からないが。
ああ、こんな状況だがバニー娘アプティは全てに無関心だ。
ぼーっと窓の景色を見ている。
その何事にも動じない精神力は俺も見習いたいところである。一体何を支えにすればアプティのように静の心を習得出来るのだろうか。
窓の外を眺めながらも何事か呟いているが……あれがその極意なんだろうか。
どれ……そっと耳を……。
「……マスターは私のことが好き……マスターは私のことが好き」
違った。
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