第386話 帰還ペルセフォスと聖なる祭典様





「アプティが怖い……ああああ見てる、俺を見てるぅうう!」


「……? マスター?」




 午前九時過ぎ、俺達はデゼルケーノ駅を出発。


 なんだかあまりデゼルケーノという国を堪能せずに帰ることになってしまった。



 着いた深夜に千年幻ヴェルファントムとかいう蒸気モンスターと戦い、家出中の魔法の国の王女様クロと遭遇。


 翌日クロの知り合いのお店で目的だったカメラを購入。


 これにて俺の中でのデゼルケーノは満喫満足、すでにペルセフォス行きの列車の中だ。


 まぁカメラは俺がエロい写真を撮ろうとして、ロゼリィに取り上げられてしまったが。



 ちなみに魔晶石カメラは横から印紙という紙を一枚差し込み、上部のフタから魔晶石を入れると準備完了。ボタンを押せば魔晶石の放つ魔力の光で印紙に焼き付けられ、少し待って印紙を取り出せばいい。


 印紙はソルートンでも雑貨屋とかで買えるそうだ。


 まぁ日本産のカメラに慣れていた俺にとってはローテクだが、この異世界では最先端らしいからな。一枚ごと手作業にはなるが、これからは記念写真を多めに撮るとしますか。


 ロゼリィにカメラを使いたいと、毎回お伺いを立てなきゃならんが。



 と、そんなことはどうでもいいんだ。


 デゼルケーノに行った、今帰り道。


 以上。


 今俺が至急なんとかしなければいけないのは、俺の俺による感謝の深夜事情だ。


 まさか本当にアプティにほぼ全ての回見られていたとは。どうにも俺はアプティの無表情フェイスに影から見守られながら毎回していたことが確定した。


 かといってしないのは無理だし、俺は今後しばらくアプティの視線に耐え、感謝の儀式をしないとならないのか。


 もう開き直るしかないのだが、俺はアプティの視線に恐怖を覚えるようになってしまった。




「あっはは~! こそこそしてるからそういうことになるのさ~。もう堂々と皆の前でしちゃえばいいんだって~」


 水着魔女ラビコが笑いながら言うが、それをやってしまったら俺が俺ではなくなってしまう。


 ラビコの言葉にロゼリィが期待の目で俺を見てくるが、ああああ……ロゼリィはこんな子じゃなかったのに。魔女の悪影響がモロに……。


「キングのなら興味あンな。どういうのが良いのか好みも知りたいし、ニャッハハ」


 クロもラビコグループに属するのか。


 思春期の少年の情事はそっとしておいてくれ……。


 


「……マスター、私のことがお嫌いになってしまったのですか……?」


「ち、違う、俺はアプティのこと好きだし、いつも感謝している!」


 ちょっとアプティの視線に怯えていたら、アプティが無表情ながらマジで悲しそうな目になった。俺は慌てて頭を撫でフォロー。


 もう受け入れるしかない。


 アプティに悲しい思いをさせない為に、俺はアプティに見られながらも儀式を頑張るしか無いんだ。もう何言っているのか分からなくなってきた。



「……マスターは私のことが好き……マスターは私のことが好き……」


 頭を撫でていたら、機嫌を直したっぽいアプティが無表情ながら嬉しそうに二回呟く。


 なぜそこを二回強調して言うんですかね。



「うっわ、最近のアプティは計算高いな~。私も今度やろ~っと」


「な、なるほど、ああやって情に訴えかければ甘えさせてもらえる……ふんふん、勉強になりました」


 その様子をじーっと見ていたラビコとロゼリィが感心しながら頷いている。今のアプティから何を学んだっていうんだよ。純粋少年にも分かりやすく教えてくれ。






 豪華な車内に子供のようにはしゃぐクロを眺め、なんだかわざとらしくよろけてみたロゼリィを支えたり、お酒を飲んだ勢いで馬乗りになってくるラビコをどかせていたら三日経っていた。


 ロゼリィはなんとなく分かるが、ラビコはアプティから何を学んだんだよ。



 ああ、俺の愛犬ベスは元気だぞ。


 ペルセフォス行きの列車に乗ると分かったのか、鼻をフンフンさせ、美味いもんよこせアピールが始まったしな。大丈夫、王都のカフェに寄るからシュレドの美味い飯が食えるぞ。




 デゼルケーノを出てから三日後の朝、列車は広大な森を避けるように敷かれたレールを辿り、王都ペルセフォスへと向かう。






「見えたよ~王都ペルセフォスさ~。見慣れた景色ってのは安心するね~」


 ラビコが窓から見えるペルセフォスのお城を指す。


「ああ、そうだな。あとペルセフォスにはカフェジゼリィ=アゼリィがあるからな。みんな、今日は美味いもん食うぞー!」


 俺が飢えた獣のように吼えると、クロが目を見開き喜びだす。


「うおおお! あれか、キングが出した王都の支店か! あそこいっつも混ンでてよ、並ぶのたるくて入ったことないんだ。でも今ならオーナー同然のキングにオーナーの娘ロゼリィもいるし、ビップ待遇でスルッと入れるンだろ!? やったぜぇ! うま飯食うぞぉ!」


 開店のときしかいなかったから分からないが、報告書ではあれからも相当の混雑っぷりで、売り上げがとんでもないことになっているからなぁ。


 久しぶりにシュレドのごつい筋肉ボディが見たいところだ。





 午前九時過ぎ、王都ペルセフォス駅到着。


 駅に降りた途端、白を貴重とした鎧を纏ったペルセフォス騎士達が号令をあげ、ラビコに道を作る。もう慣れたが、最初はびびったもんだ。



「はいどうも~ラビコさんですよ~騎士の皆様ご苦労さま~。変態姫は元気かい~? あ、元気、あ、そう~。はい隊長さん握手~」


 ラビコを先頭に騎士達で作られた道の真ん中を通り、駅の外へ。


 最後隊長さんと思われる騎士さんにラビコが手を差し出し握手。


 ああ、以前もあの人いたな。恥ずかしそうにしながらも、すっげぇ嬉しそうにラビコと握手をしている。



「おお、ペルセフォスだ! 砂がない! 空気が乾燥していない! 噴き上がる白炎がない! 安心して街中が歩けるぜ」


 クロが混雑する駅前で両手を上げ、元気に俺達の周りを走る。


 デゼルケーノも住めば都なんだろうが、やはり俺にはペルセフォスの空気が合っているかな。温暖で緑の豊かな風景は心が落ち着く。



 ゴォン


 ゴン……ィィイイイイイン



 久しぶりのペルセフォス王都の空気を満喫していたら、上空から重い打撃音と風切音が聞こえてきた。


「あ~……」

「着いて数分ですけど……」

「……マスター、衝撃に備えて下さい」


 ラビコ、ロゼリィ、アプティの指輪三銃士は何か分かったようで、諦め顔。


「この音……ああ、そういやキングがペルセフォス来たら毎回鳴ってたな。近くで聞くと結構ビビるな、これ」


 クロが上空を見上げ、もうすぐ来るであろう物を想像し俺から一歩離れる。


 俺もベスをロゼリィに預ける。



 周りの王都民が巻き込まれないように女性陣で手を広げて場所を円状に確保してもらい、俺は出来上がったサークルの真ん中へ。


 未確認なんたらでも呼び出しているかのような異様な空間が出来上がり、俺はY字ポーズで待つ。この儀式、なんとかならんもんか……。



 ゴォン……ドン……!



 打撃音が近くなり、王都民が上空を見上げ、その下に俺がいることを確認。ああ、といった顔で普通に皆が通り過ぎていく。


 慣れてます、的な。




「……んせーー! 先生ーー!!」



 遠くから聞き慣れた声が聞こえてくる。


 空飛ぶ車輪を操り建物の壁を蹴り、緑の光を放ちものすごい速度で彼女が俺めがけ飛んでくる。


 風の魔法的な光の塊が放たれ、それが俺を丸ごと包みふわっと浮く。

 

 その瞬間、鷹が小動物を捉えるがごとく乗り手の女性が俺を抱き上空へ一気に舞い上がる。



「あああ……お久しぶりです先生! さすが先生です、ちゃんと聖なる記念日に会いに来てくれたんですね!」


 ん、なんすかその聖なる記念日って。


 俺は飛車輪の乗り手、見事レースに勝ち今年の国を代表する騎士になった女性、ハイラの頭を優しく撫で落ち着かせる。



「ひ、久しぶりだなハイラ。よく俺達が来たこと瞬時にわかったな……」


 ロゼリィも言っていたが、マジで着いて数分だぞ。


 駅にいた騎士がお城に走っても間に合わないだろ。


「はいっ! 先生の愛の波動が私の心にビンときたんです! 王都内の見回り飛行中でしたが、先生のお出迎えは将来の妻として最優先事項なんです!」


 ハイラが興奮した様子で語るが、仕事中に来たのか……大丈夫なのか、それ。愛の波動だの将来の妻だのは意味が分からないのでスルーさせてもらう。


「何日か前も愛の波動を感じたのですが、そのときは先生がいなくてしょんぼりしました……でも今回はちゃんと先生がいました! ああ、本物はいいです……」


 何日か前って、そりゃあデゼルケーノに行くために魔晶列車で王都ペルセフォスは通り過ぎたが……そのときも駅に来ていたのか、ハイラ。


 なんか特殊なレーダーでも搭載されてんの、この子……。



 今回のハイラは金属の鎧は付けていなく制服だけなので、じゅうぶん大きめなお胸様が俺の顔に存分に当たるな。うむ、素晴らしい……。


 気付かれない程度に顔を動かし、ハイラのお胸様を楽しみながら下の街並みを見ると、確かにいつもとは違い、建物やお店などに華やかな飾り付けが施されている。



「全く……また不思議なこと言い出して駅に飛んで行くのはやめろとあれほど……と、今回は当たりなのか。本当に君達が来ているとは。はは、ようこそ王都ペルセフォスへ、デゼルケーノの英雄殿。聖なる祭典の日に来てくれるとは嬉しいよ」



 浮いている俺達の上から声が聞こえ、見るとそこにはもう一つ飛車輪が浮いていて、この国のお姫様であるサーズ様がいらっしゃった。


 呆れ顔でハイラを見て、次に優しく俺に微笑みかけてくる。


 うん、これぞ王族、ザ・お姫様だ。身なり、雰囲気、喋り方、仕草と全く隙がない。


「今回は王都に泊まっていってくれるのか? 今日は初代様とその奥様がご結婚され、このペルセフォス王国が出来た記念日でな。ペルセフォスにとってとても大事な日を君と過ごせるとは、なんとも感慨深いよ」


 相変わらずの美人様だなぁサーズ姫様。



「そうなんです先生! 運命を越えて出会う奇蹟の日。最近では初代様と奥様の出会いにあやかって、今日という日を一緒に過ごせば必ず恋人関係になれると若者が浮足立つ日なんです! なので先生、今日は私とずっと一緒にいて下さい!」


 ハイラが興奮しながら抱きついてくるが、あれか、クリスマス的なやつか? 


 しかし若者が浮足立つ日とか、身も蓋もない言い方はよせ、ハイラ……。


 サーズ姫様との温度差がすごいぞ。









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