第385話 さらばデゼルケーノと国宝に代わる本が欲しい様





「それではペルセフォスに帰ります。見送りありがとうございました!」




 翌日午前九時前、俺達はペルセフォス行きの魔晶列車に乗り込む。



「また来たまえ。君とはもっと話がしたい。それではデゼルケーノの英雄達に、礼!」


 なんと見送りにロンデイネ=デゼルケーノ王自ら来てくれ、騎士達が王の号令に合わせ敬礼ポーズ。



「悪いねロンデイネ~。滞在時間は短かったけど、社長の用事が済んだから帰るよ~」


「ラビコ様ー! ありがとうございましたー!」

「今度はぜひ長期滞在を! ラビコ様の魔法指南を望む者が多くいます!」


 一部の騎士とロンデイネ王以外には、千年幻ヴェルファントムを倒したのはラビコ、となっているから、一般の騎士や王都民、デゼルケーノを拠点としている冒険者がラビコに手を振っている。


まぁ見た目貧弱な俺なんぞ、ラビコの雑用荷物持ちに見えるんだろう。


 実際貧弱で荷物持ちですが。



 一応デゼルケーノの商店街でお土産を買ったのだが、マジで何を買っていいか迷った。


 売ってる物といえばお高い魔晶石アイテムに、修理用の細かなパーツ。さすがにお土産でジゼリィ=アゼリィスタッフ全員にお高い物は買えないし、魔晶石アイテムは当然お高い魔晶石をエネルギーとして別個に買わないと使えない。


 結局金属加工の職人のお店から果物ナイフと食卓用ナイフ・フォークセットを買った。


 今回は四日間の魔晶列車移動にフォレステイからソルートンまでは半日馬車になるから、あんまりかさばる物は無理。


 船だったら直でソルートンに行けるから多少かさばっても大丈夫なんだがね。



「多忙の身ながらデゼルケーノに来ていただき、あの千年幻ヴェルファントムを倒してくれた。ありがとう英雄達。そしてラビィコール、本当に変わったな。当時の全方向に鋭い視線を向ける孤高の魔法使いも良かったが、今の信じる者、守る者、気を許すことの出来る友が多く出来た優しい笑顔もいいと思うぞ」


 ロンデイネ王がラビコに笑顔で話しかける。


 よく昔と今のラビコが違うと言われるが、当時のラビコってどんだけ恐ろしかったんだ。


「あっはは、社長に色々変えられちゃったのさ~も~毎日が楽しくってさ~」


 ラビコが恥ずかしそうに笑う。


 俺に色々変えられた……なんかエロく聞こえたのは俺が童貞だからだろうか。


「実に可愛らしい恋する乙女の顔だ。ラビィコールほどの者が従わざるを得ない男か……お嬢さん方、その男を逃がすなよ。必ず君達を幸せにしてくれる者となる」


 王がそう言うと、ラビコ、ロゼリィ、アプティが左手薬指の指輪をザッと笑顔でかざす。


 だからそれは何の誓いで、なんで事前相談無しにポーズが揃うんだよ。



「あークソっ、遠くから眺めてねーでもっと早く近付くべきだった……なーキングーアタシにも指輪ーなーなー」


 俺の後ろに隠れ、猫耳フードを深くかぶっていたクロが不満気に背中を突いてくる。いやまぁクロには命を救われているわけだし、感謝の指輪は贈ってもかまわんが。




「あ、ラビコ様の旦那様、今度来られたときは一緒にエロ本屋巡りをしましょう! 私オススメのお店が何軒かありますので!」



 最後、騎士ジュリオルさんが俺に向かって大声で余計なことを言い、同時に魔晶列車のドアが閉まる。


 お、おいあんた……このタイミングでなんでそういうこと言うんだよ。


 デゼルケーノ民の俺を見る目が、ラビコの荷物持ちから単なるエロ少年に変わっただろうが。


 あ、いやまぁ実際エロ少年だしそれはいいんだが、そういう大事なことは昨日言ってくれ。今の今まで忘れていたじゃねーか、エロ本屋巡り。しまったなぁ……。


「…………」


 なんか周りの女性陣の無言の視線が突き刺さってくるが、俺は今度どうですかと誘われただけで行ってはいないんだ。


 本当にジュリオルさんと二人でキャッキャウフフとエロ本屋巡りをしていたのなら、甘んじてお説教は受けるけど。


 

 ちょっとロゼリィの内なる鬼が目覚めかけているが、無実の俺は愛犬ベスを抱え堂々と構える。


 エロ本屋巡りは平和なペルセフォス王都でしようじゃないか、うん。





 午前九時、魔晶列車が汽笛を鳴らし重い車輪がゆっくりと動き出す。


 見送りに来てくれた皆にドアの窓越しに手を振り、別れを告げる。


 

 基本外向けの対応はラビコがやってくれ、本当に上手に話をまとめてくれる。


 今回も色々助けられたなぁ。なんか格好いいよな。


 俺もいつかこういう大人になりたいものだ。


 今ラビコは二十歳で、四年後に俺も二十歳になるが、たった四年で自分がそこまで変わっているビジョンは全く浮かばないがね。



「うっわうっわ、すっげすっげぇ! 最後尾ってこんなふうになっていたのかよ! なンだよこれ、もうホテルじゃねーか!」


 いつもの魔晶列車最後尾のロイヤル部屋を取ったのだが、入った瞬間クロが猫耳フードをヒョコヒョコ揺らし大興奮。


「あーマジで助かるわキング! もう四日間の自由席はこりごりだ。行きの列車は最悪だったぜ……狭いし椅子硬いし背中もお尻も痛いし寝れねーし……あーすげぇベッドあンぞベッド! ニッハー帰りは楽々だぜぇドーン!」


 子供のように目を輝かせ、クロがロイヤル部屋を走り回る。


 突如走り出したクロに愛犬ベスが反応し俺を見てくるが、頭をなで追走欲を抑える。


 人間クロは満足したように最後はズラリと並んだベッドに大の字ダイブ。


 うむ、そのダイブしたくなる気持ちはとてもよく分かる。本当に列車内とは思えないんだよな、このロイヤル部屋。


 豪華で居心地がいい分、お高いんですけどね。



 今回は王都ペルセフォスで降りるから一部屋で五千G。日本感覚で五十万円な、五十万円。


 四日間四人用の硬い直角椅子で過ごすのを考えたら、五千Gは払う価値あるだろ。クロは行きにその地獄を味わったらしいし。


 

 とりあえずラビコと話し合い、クロの処遇は保留としてある。


 どんな事情があれ、さすがに一国のお姫様を放っておくわけにはいかないし、ペルセフォスのサーズ姫様に相談しようと話がまとまった。


 オウセントマリアリブラという魔法の国の国宝もクロに返した。


 ま、正直俺には全く必要のない物だったしな。


 だって本の中全部真っ白なんだぜ。魔法が使えるようになるのならありがたい本だが、そうじゃないんなら単なるメモ帳だろ、これ。



 ということで俺の大事な本が一冊減った。


 これはまずい。


 至急ジゼリィ=アゼリィの俺の部屋に飾る本が一冊必要になったわけだ。あの棚は二冊飾れるからな。


 人口の多いペルセフォス王都ならそれはそれはヨダレ物のエロ本があるに違いないし、俺の部屋に飾るに相応しいだろう。ぐふふ。



「あの、ヨダレが出ていますよ?」


 ちょっと未来の俺の理想の部屋を想像し立ち尽くしていたら、至近距離にロゼリィの顔があってびびった。うーん、やっぱ美人さんだなぁロゼリィ。


「あ、な、なんでもない、なんでもないんだ。ペルセフォスに行けば、カフェジゼリィ=アゼリィのシュレドの美味い飯が食えるんだと想像してつい、な」


 健全で実に素晴らしい誤魔化し台詞だ。


 これが瞬時に思いつく俺ってすごいよな。


「ふ~ん」

「あー……キング、座ったほうがいいぞ」


 なぜか女性陣の視線が俺の下半身へ集中しているが……。



「……マスター、深夜一人でなさっているときの顔になって……」


「ちょ……! お、おいアプティ想像で変なことは言わないでもらおう。というか本当にその……見てんの?」


 な、なんてことを言い出すんだ、このバニー娘は。


 確かに一人でしていると、たまに気配を感じることがあるが、それは敏感な思春期の少年の見せる幻かもしれないじゃないか。……と思いたいんだが。


 俺が鬼気迫る顔で詰め寄ると、アプティは無表情のままコックリ頷いた。



「あっはは~! アプティはウソ言わないし~本当に社長のアレを見ているんだね~。今度それをみんなでこっそり眺める深夜ツアーでも組む~? あっはは~!」


「ニャッハハハ! この子、おンもしろいなー! キングのパーティーメンバーって面白いヤツばっかだな!」


 ロゼリィがなんともいえない顔になり、ラビコとクロが腹を抱えて大爆笑。


 俺は少年のはかない想いが打ち砕かれ、ヒザから崩れ落ちた。



 というか本当にその深夜ツアーは開催しないでくれよ、ラビコ。


 マジで傷心家出するからな。








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