第384話 永遠の美肌の湯の正体と謎の戦いにクロ参戦様







「よし、帰ろう」



 火の国デゼルケーノをもう満喫した気がする俺が、夕ご飯の巨大砂トカゲの尻尾断面ステーキなるものを突付きながら言う。



 なにやら砂漠には人より大きいトカゲがいるらしく、その直径五十センチはあろうかという尻尾を豪華にも三センチほどの分厚さで輪切り。


それを豪快に焼いたステーキが巨大砂トカゲステーキ。





 俺達はクロ馴染みのお店でカメラを頂いた後、軽く商店街を見てホテルに帰宅。


 商店街は細かなパーツだったり武器防具が売っていたり俺は興味津々だったのだが、クロ以外の女性陣はどうにもこのロマン溢れる魔晶石アイテムと武具に興味がないらしく、すぐに撤退した。


 もうちょっとこの世界の機械を見たかったが仕方ない。



 ホテル夕食に頼みもしないのに出てきた、店主のおごりだというステーキに一同言葉を失う。一応高級品らしい。



 例によってちょっと塩振ったぐらいの味付けで、素材の味をフルに活かした調理法なんだろうが、デゼルケーノ素人の俺達にはもうちょっと味が欲しいところだ。せめてこれがトカゲなんだということを忘れさせてもらえるほどの強烈なやつが欲しい。


 決して不味くは無いが、素材の元の形を想像してしまい箸は進まない。




「あれ~? もう帰るのかい~? 来たばっかじゃん」


 普通にトカゲステーキを食いながら水着魔女ラビコが俺を見てくる。


 さすが世界を股にかけた冒険者ラビコ。臆することなく食ってるなぁ。


 クロも普通に食ってる。俺、ロゼリィ、アプティは少量食ってもう満足状態。愛犬ベスもステーキのカケラを食ったが、すぐにリンゴに切り替えた。お前正直だな。



「いや、ここのデゼルケーノに来た目的はカメラだったしな。それはもう達成されたわけだし、もう帰ってもいいかなーなんて」


 クロの馴染みのお店のおじいさんから貰ったカメラは、俺がエロい写真を撮ろうとしてロゼリィに取り上げられてしまったがな。


 まぁ普通に記念写真を撮るなら貸してもらえるだろうけど。



「うっわ、お前らマジで金持ちなのな。まだ一日たってねーぞ。来たからにはデゼルケーノを存分に満喫してから帰ったほうが得なンじゃねーのか?」


 クロも不思議そうに俺を見てくるが、デゼルケーノに着いて数時間後に千年幻ヴェルファントムなんかと死闘繰り広げたんだぞ。こちとら観光で来たってのに。


 金がある無い関係なしに、死にかけたら普通にもう帰りたいって言っていいだろ。



「…………紅茶、おいしいです。でも眠いです……」


 まぁ他にもうちのバニー娘アプティがこんな感じで調子悪そうなのが気になってな。


 デゼルケーノで普通にあっちこちに噴き出している白炎。


 これがどうにも蒸気モンスターであるアプティに悪影響を出すらしく、反応が鈍かったり、朝俺より遅く起きたり。貴重なアプティの寝顔なんてのが見れて収穫はあったが、いつものアプティじゃないのが心配。



「あ、あの、その、温泉……本場の温泉に入りたいなぁと」


 トカゲは諦め、果物を食べていたロゼリィが申し訳なさそうに手を上げた。


 ああ、そういやデゼルケーノって火山地帯だから天然温泉があちこちにあるんだっけ。このホテルも天然温泉らしいし。


「そういや永遠の美肌の湯があるとか言っていたよな。それってどこにあるんだ?」


 デゼルケーノに来る前に、ロゼリィが冒険者に聞いたことがあるとか熱弁されたような。


「ん~? どこって北の砂漠を何個も越えて、火山を二、三越えたとこの先にあるよ~」


 ラビコに聞くが、砂漠を越えて火山を二、三……それは無理だろ。


 自然環境的に無理だし、千年幻ヴェルファントムがいなくなったとはいえ、他にも蒸気モンスターやらがうろついてるんだろ。



「あっはは~タネ明かしをすると~昼は灼熱夜は極寒、不安定な砂地を重い装備背負って歩き~突如襲ってくる蒸気モンスターと戦い、精も根も尽き果てかけ~肌はボロボロ、体力も限界。口にする物もトカゲにカエル。その極限状態で天然の温泉に入ってごらんよ~肌はいつも通りツヤツヤ、温泉で疲れも取れ元気回復~。奇蹟の温泉だ~美肌の温泉だ~ってね、あっはは~」


 ラビコの言葉にロゼリィが口開けてポカン。ちょっとぷるぷる震えている。


 多分、想像と違ったんだろう。



 砂漠の乾燥空気に何日もさらされ、蒸気モンスターとの戦いで傷付き、食べ物も日持ちする物なうえ、デゼルケーノで手に入る食材は正直美味しくはない状態。


 乾燥と栄養不足のダブルパンチで肌がカサッカサのところに温泉に入ったら? 肌は温泉効果でつやっつやのプルップル。この温泉すごいぞ! と思いそう。



「いや~ロゼリィの少女の夢を壊してしまって申し訳ないけど~、その永遠の美肌の湯ってのと~ここのホテルの天然温泉と成分は同じだよ~あっはは~」


「や、やめるんだラビコ。それ以上は良くない」


 爆笑しながら永遠の美肌の湯のトリックを暴露するラビコ。


 夢破れ、震えだしたロゼリィを察しラビコを止めるが、震えているとロゼリィの大きなお胸様が一緒に揺れてこれはなかなかパラダイス……。


 ロゼリィ、今すぐカメラを……と思ったが、魔晶石カメラに動画撮影機能はないよな。ならばこの目にしっかりと揺れるお胸様を焼き付けておこう。


 目の前で見ているんだ、4Kなんて目じゃないぜ。じーーーー。


「あっはは~社長~どんだけエロに飢えているのさ~。どんなときでもブレないのはいいけど~」


 う、ロゼリィ本人は震えているから気付いていないが、さすがにラビコに気付かれたか。


 ああ、いつだってエロには飢えているさ。外面はかわいい子羊だが、内面はいつでも飢えた狼なんだよ! 十六歳の童貞男子を舐めんな!



「キングは目の力だったり、今までの功績はバリすげぇなって思うけどよ、こういうとこ普通の男の子って感じだな。ん? でも今気付いたけどよ、将来絶対すげぇ男になるのが分かってンだから、まだ子供っぽい不安定なうちに女の色気でひょいっとモノにしておくってのは悪くねぇ判断なのか? キングがいれば魔法の国の将来は安定……ふんふん、アタシかなりキングの見た目も性格も好みだし」


 横で冷静に見ていたクロがなんかとんでもないこと言い出したが。


「おい家出猫~余計なことは言わないように~うちの社長は絶対に渡さねぇからな~」


 ラビコがマジで怖い顔でクロに迫る。


「普通に考えて、コイツ以上の男なんてそうそういねぇよな。そっか、みんなそれに気付いてンのか、なるほど! 納得したぜ。さっさと子供作っちまえば既成事実完成ってか。ニッハハ」


 水着魔女ラビコにマジで睨まれながらもクロが天才の発想。


 つかそれロゼリィのお母様、ジゼリィさんと同じ考え方じゃねーの。ちょっと危険なやつ。


 あと既成事実とかそういう計算高いこと、澄んだガラスのように純粋な心を持つ少年の前で言うなよ。想像して俺が興奮しただろ。



「アタシ男とか一切興味なかったけどよ、キングにはすっげぇ興味あンだよ。もう十七だし、アタシも女になってみよっかなってか、ニッハハ」


「あぁ~? このラビコ様に宣戦布告とはいい度胸じゃないか~。指輪もない出遅れ途中参戦組に勝ち目なんてあるわけないだろ~? あはっは~」


 ラビコが左手薬指につけた指輪をかざす。


 震えから正気を取り戻したロゼリィも慌てて指輪をかざし、アプティもスッと無表情に指輪をかざす。



「うっわ、もう全員持ってンのかよ指輪。手がはえーなぁってキング、アタシにもくれよ結婚指輪。ニッハハ」


 猫耳フードをかぶったクロが笑いながら気軽に言うが、結婚指輪ってそういうノリでもらえるもんじゃねーだろ。



 あとその指輪は感謝の指輪、な。








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