第383話 クロとおじいさんと俺のカメラの行方様






「まさかデゼルケーノを救った英雄様がこんなさびれた店に来てくれるとはな! くわっはは!」



 カメラを買いにクロの馴染みのお店に来たが、店主のおじいさんがラビコを見た途端豪快に笑いだし、クロの背中をバンバン叩く。



 あーおじいさん。軽く叩いていますがその御方、ラビコクラスの権力者っすよ。




「いてーって、くそじじい! た、助けてくれキング!」


 たまらずクロが俺の元に走ってくる。


 おじいさんとクロ、付き合い長そうな雰囲気だし、仲良いんだろうなぁ。


「ほう……。んで、カメラだったか? いいぞ、好きなの一個持ってけ。英雄様にはデゼルケーノに住む者としてお礼がしたいしな!」


 おじいさんがクロが駆け寄ってきた俺をじーっと見て、すぐさま豪快に笑いだしカメラ売り場を指した。


「あっはは~いいのか~カメラは高価な物だけど~?」


 ラビコがチラっと俺に視線を向け、どうする? と見てきた。


 ふーむ。好意は嬉しいが、さすがに高価な物だしな。でもそれ以外の方向でお金払えばいいか。



「ありがとうございます。ほらラビコ、好意に甘えておけ」


 カメラが欲しいのは俺だが、その好意はラビコに向けられたものだし、ラビコに選んでもらおう。つかどれでもいいよ、そんな性能変わんねーだろ。


 日本じゃあるまいし、そこまで機能差があるとは思えない世界だし。



「それでおじいさん、クロの借金ってのはどのくらいなんですか?」


「あぁー? クロの借金だぁ? あーそうだなぁ……どれぐらいだっけな、一、二……忘れちまったぞ、くわっはは!」


 ラビコに適当にカメラを選んでもらっているあいだ、クロの借金総額をこっそり聞くが正確な金額は出てこなそうか。



「クロ、総額は分かるか?」


 俺はくるっと後ろを向き、俺の影に隠れていたクロを見る。


「そ、総額? あーうー、えーと、そんな正確には数えてねーけど、最低でもこれぐらいは……」


 クロが申し訳なさそうに指を二本出す。


 二万Gぐらいか? 日本円だと二百万円か、まぁいいか。


 どうせカメラを買うと決めていたんだ、それぐらい出そうじゃないか。


 ああ、お金ならあるんだ。



「アプティ、カバンからお金を出してくれ」


「……了解です、マスター」


 お金は俺のカバンに入れてあるが、さすがに大金はかさばるのでアプティが背負っているカバンにも入れさせてもらっている。


 一応高額な物買う予定できたから、お金は多めに持ってきてある。




「選んだよ~これなんかいいんじゃない~?」


 ラビコがカメラ売り場から持ってきたのは二万G、俺感覚二百万円相等の物。


 俺はアプティのカバンからお金を出し、おじいさんに渡す。


「おじいさん、カメラありがとうございます。大事に使わせていただきます。それと、これは友であるクロがご迷惑をかけていたお詫びです。お受け取り下さい」


「え、い、いいのかよキング」


 クロが驚いた顔をしているが、元からカメラに払う金額だったし。


 千年幻ヴェルファントムから俺の命を守ってくれたお礼としては安いもんだろ。


「お、おお。さ、三万G……ほー、おめぇ小僧の割に金持ってんだな。なるほどな、理解した。カメラはデゼルケーノの英雄様に贈った物だ、好きに使え。この金もクロの今までの整備代として、ありがたくいただいとく。よかったなクロ、これで身軽になったろ! くわっはは!」


 おじいさんが俺を不思議そうに見るが、すぐにニカっと笑顔になり豪快に笑う。


「あーそうだ、こないだ貰ったお高いお茶あっから飲んでけ! おらクロ、台所にあっから煎れてこい!」


「あー? なんでアタシがやンだよ! ち、相変わらず人使いが荒いな!」


 クロがブツブツ文句を言いながら、普通にお店の奥に入っていく。


 どこに何があるか完全に分かっているんだな。もしかして住まわせてもらったりもしたのか?




「小僧。クロを頼むな」


 クロが見えなくなったところで、おじいさんが俺の肩を抱き小声で言う。


「クロはあんな口調に性格だからな、よく不良娘だと誤解されるんだ。でもあいつにはずっと心に決めた目的があるみたいでよ、それを叶えるために誰とも群れず一人で頑張っていたみたいなんだ。辛かったろうなぁ、でもやっと心を開ける仲間が出来たみたいだ。俺は嬉しいぜ」


 心を開いたっつーか、金欠で最後の手段で俺にたかりに来た感じだが。


 しかしクロが俺のところに来たのは、何か目的があったっぽいしなぁ。余程の事情があったのか。


 で、なんでそれを俺に言うんだ。


 英雄であるラビコならまだしも。



「最初、英雄ラビィコールが率いるパーティーかと思ったんだが、リーダーお前だろ。お嬢さん方、全員お前の反応を待っていたし、あの怖いもの知らずのクロが男の後ろに隠れるとか初めて見たぞ。この目を疑ったわ、くわっはは! 随分とお嬢さん方に信頼されてるじゃねぇか、小僧」


 リーダーというか、俺のわがままに付き合ってもらっているだけだけどな。信頼は……分からないが、俺が皆を信じているのは確かだ。


 しかし、おじいさんがクロを見る目は、なんとなく娘を見るような優しさを感じるな。



「一年ぐらい前かな、あいつが来たのは。なんだか生きるのに不器用なヤツでな、お金も無いとか言うからしばらく泊めてやったんだ。手先が器用だったから、ちょっと機械のこと教えたらすぐに覚えてな、今じゃあそれで食っていけるぐらいの技術の持ち主よ」


 よく見たらカウンターのところに、おじいさんとクロの仲良さそうな写真が飾ってある。なんか親戚のおじいさんって感じでいい写真だなぁ。


「あいつは役に立つぜ、この俺が保証する。俺じゃあクロの進もうとしている道には入れなかったが、お前さんなら出来そうだ。老いぼれからのお願いだ、クロの力になってやってくれ。あいつにゃ共に歩む仲間が必要なんだ」


 おじいさんが俺に向かって頭を下げてくる。


 ちょ、そこまでしなくても。



「大丈夫さ~。うちの社長は面倒見いいし~それにお金もあるってね~。残念ながら嫁候補は定員オーバーだけど~あっはは~」


 水着魔女ラビコがニヤァと笑い俺の右腕に抱きついてくる。ロゼリィも頷き笑顔だし、アプティは……マジで興味なさそう。


「ほう、あの大魔法使いで英雄ラビィコールの信頼を得た男ってやつか。もしかしたら俺はすごい男と話しているのかもな、くわっはは!」







「なんか、いいおじいさんだったなぁ」


 クロの出してくれた紅茶をいただき、俺達はお店を出た。



「あぁ? あンなのただの偏屈怪力じじいだっての。まぁ魔晶銃とか魔晶アイテム制作の腕は一流だな。そこはアタシが保証すっぞ、ニッハハ」


 クロがお店のほうを振り返り、まだ見送ってくれていたおじいさんに元気に手を振る。


 少し寂しそうな目をしているが、またいつかみんなで会いに来ようじゃないか。




「さて、それじゃあデゼルケーノに来た記念に一枚撮るか。みんなそこの階段の中段ぐらいまで上がって……モハッいっつつ……」


 カメラも手に入ったし、このいい余韻の雰囲気を利用して皆に階段を登ってもらい、俺が下からの素敵ローアングルからのベストショットを決めようとしたが、ロゼリィがとてもいい笑顔で俺の左腕をつねってきた。



「なぜ階段の下から撮るんですか? ふふ」



「さ、さぁなんででしょうか……風の神様が微笑まないかな、と。はは」


 運が良ければロゼリィのスカートが風でめくれてオーイエーショットが撮れるかなーなんて、あはは。



「ぶっはは~ブレないな~うちの社長は~。いいのかい~クロ~この社長の側にいたら毎日こんな感じで大変だぞ~?」


 ラビコが大爆笑しながら言うが、毎日はしねーって。


 二、三日に五回だっての。


「あー……でもまぁ金出してもらってるし、キングにゃー命も救われてっしなー多少はしょうがないんじゃねーの。うっわ……な、なーんて、ニッハハ」


 クロが俺擁護をしようとしたが、ロゼリィの鬼の視線にビビり誤魔化し笑いをする。お、おいロゼリィ、王女様をビビらせるのはよくないんじゃ……。



「カメラは私が管理します!」



 ついに俺は異世界で念願のカメラを手に入れたのだが、一枚の写真を撮ることもなく鬼に取り上げられましたとさ。








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