第382話 魔晶石分配とクロ馴染みのお店様

 





「ああ、そういえば社長~もらった魔晶石どうすんの~?」



 猫耳フード王女様クロの先導でカメラを買いに街中を歩いている途中、水着魔女ラビコが持っていたトートバックから大きな魔晶石を三個取り出す。




 これは火の国デゼルケーノを悩ませていた蒸気モンスターである砂漠の主、千年幻ヴェルファントムを倒した褒美に国王であるロンデイネ=デゼルケーノさんからもらった物。


 ラビコ鑑定では一個百万Gから五百万Gの価値があるとか。


 まぁ日本円換算すると、一億円から五億円ってとこか。びっくりするほどの報酬だが、これを対価として出してくれたぐらい今までの被害が大きかったのだろう。




「どうっても貴重な物らしいし、換金するのもなんだしな。倒すのに参加していた三人で分けるのが一番いいだろ」


 俺、ラビコ、クロの三人の命を懸けた戦いの見返りってことでいいだろ。


「ニハー! い、いいのかよキング! こんなでっけぇ紫魔晶石、個人じゃ滅多に手に入らないぜ!?」


 俺の発言に猫耳フードのクロが目を見開いて歓喜の顔。


 大きさは俺の手のひら一杯ぐらい。えーと、ソフトボールぐらいという表現が一番合っているだろうか。


「ま、それが妥当かね~。ほい家出猫、一応社長と私を助けてくれたお礼もいっておくよ~」


 ラビコがひょいっとクロに放り投げる。


 それをクロが猫のような俊敏な動きで空中で両手キャッチ。


「すっげ、すっげぇ! 普通の魔晶石ならまだしも、紫魔晶石のこのサイズ! セレスティアで換金すれば一生遊んで暮らせンぞ! ニッヒヒヒヒ」


 あ、クロの目がお金のマーク。


 まぁ、クロはお金なくて大変な思いをしていたらしいしなぁ。


 でもこの人、本来お金に困るとかは無縁の王女様なんだよなぁ。


 セレスティアで換金って、もしかしてこういう物の換金レートって各国違うのか。


 そういやこの異世界はネットとか通信手段がないんだっけ。文書のやり取りじゃあ情報伝わるのも遅いし、なかなか離れた場所では金額の足並みそろえにくいか。




「魔晶石の換金はセレスティアが一番高いだろうしね~。なんせ魔法の国だし~魔晶石の需要がすごいからね~」


 ラビコがニヤニヤしながら言うが、やっぱ場所によってレートは違うのか。


 セレスティアは魔法が全てみたいな国らしいし、みんな魔法使いだからそりゃあ魔力ブーストが出来る魔晶石は欲しいだろうしな。


 当然買い取り値段もお高いのか。



「各自どうするかは自由だな。俺は売らないよ、いざってときに使わせてもらう」


 ラビコから紫魔晶石を受け取り肩掛けカバンへ入れる。


 とんでもなく貴重な物らしいし、お金にするよりは保険で持っておきたい。



 千年幻ヴェルファントムクラスとの戦闘はあまりしたくないが、そういうときラビコに渡せば魔力ブーストで使えるし、アプティが魔力を求めているときにも使える。


 今後も少なからず蒸気モンスターの被害はあるだろうし、お金より命を守る手段として考えておきたい。



「さっすが社長~お金に目のくらんだ、どこぞの家出猫とは格が違うね~あっはは~。千年幻クラスの上位蒸気モンスターとかと出くわした時に、お金なんていくらあっても生き残れないけど~この紫魔晶石があれば可能性は生まれるからね~」


 意地悪そうに笑い、ラビコが俺の右腕に絡みクロを見る。


「う、あ、ああそうだな! 金より命、当然の判断だぜ! さっきのは冗談で、アタシもお守りとして保管しておくか! 金、命……金、命……でも今現在お金がないと生きていけないって邪悪な思想がモヤっと浮かぶし振り切れないから、やっぱキングにガッポリたからせてもらうぜ! ニャッハハ」


 高々と掲げた紫魔晶石をヨダレを垂らしながらうっとり眺めていたが、ラビコに言われ、クロが慌ててポケットにしまう。


 本当にお金がないんだな、この王女様。


 お金以上に威厳やオーラもないが、この庶民感はすっげぇ親近感湧いて俺は好きだけど。




「あ、あのクロックリム様、お二人を助けていただきありがとうございました。改めてお礼を言いたいです」


 豪快な笑顔で俺にたかる宣言をしている王女様に、ロゼリィがかしこまった顔で頭を下げる。


 あれ、クロが王女様ってことでずっと遠慮していた雰囲気だったが、彼女から漂う雑な感じに雲の上の王族様ではなく、一人の人間と感じれたのかね。


「んぁ? いや気にすんなって。確かにズバッと加勢はしたが、最後助けられたのはこっちってやつでよ、キングには頭が上がらねーや。ニッハハ!」


 クロがロゼリィをじっと見て笑う。


「あと前も言ったけどよ、クロでいいって。確かに生まれの身分は王族だけどよ、アタシの今の肩書きは日雇い冒険者なんだ。こっちもアンタのことはロゼリィって呼ばせてもらうしよ」


「わ、分かりました……ク、クロ……はぅ、慣れていないと緊張します」


 二人が軽く微笑み握手をする。


 アプティはクロにあまり興味がない様子。つかアプティは誰に対してもそんな感じか。



「わ、私には何の力もないので、ああいうとき何も出来ないのがとても悔しいです。私では大事な人達は守れない……でもラビコもアプティもベスちゃんもいますし、さらにクロがいてくれれば安心が出来ます……」


 ロゼリィが少し辛そうに下を向く。



 その気持ちはとてもよく分かる。


 俺だってベスがいなければ何の力もない。なんか目の力があるみたいだが、見えるだけではどうしようもない。目以外のスペックは一般的な高校生レベルだし。




「ふぅん、アタシにはそうは見えないけど」



 クロがロゼリィを真面目な顔で見つめ言う。


 途端、ラビコが強めの視線をクロに向ける。な、なんだ?


「キングのついでに側にいるアンタ等もよく見てたけどよ、その一途な想いの強さは真似出来るもンじゃねーと思うぜ。揺らぐことのない想いと、どんなときでも信じている視線ってのは必ずキングの力の後押しになっていると思うけどな」


 確かにいつでも信じていてくれている人がいるというのは、とても強く心を保つことが出来る。


 俺は一人ではないんだな、と立ち上がり顔を上げることが出来る。


「そうさロゼリィ~。何も魔法を使うことが、武器を振り回すことだけが大事な人を守る手段ではないのさ~。後ろにいて、信じて待つってのも重要な役目なのさ。大事な人が帰ってくる場所を守るってのは、ロゼリィにしか出来ない力だと思うよ~」


 クロの話にラビコが重ねて言う。


「それに、ロゼリィが戦いの前線に出てきたら~うちの社長が心配しすぎて大変なことになるよ~あっはは~」


 ああ、俺は過保護なほどロゼリィを守るぞ。



 でも前も思ったが、ロゼリィのご両親は元勇者パーティーのお二人。ジゼリィさんもローエンさんも相当の実力の持ち主なのだが。


 その二人の血を引いているロゼリィに力は受け継がれていないのかね。







「さぁ着いたぜ。ここがカメラも扱っている、アタシの馴染みの店だ」



 千年幻ヴェルファントム撃破で盛り上がる人で混雑する商店を歩いていたら、クロが通路の先の薄暗いお店を指す。


 さっきまでいた飲食店とは一変、この辺りは工芸や機械職人の店がずらりと並んでいる。


 おお、なんか電気街っぽい雰囲気だぞ。ちょっと懐かしい感じ。


 何に使うのか分からない細かな機械のパーツが箱にもっさり入っていて、一個一Gと書いてある。魔晶石ランプ専門店だったり、魔晶石コンロに魔晶石冷蔵庫など、キッチン系のお店もあるなぁ。


 なんかわくわくするぞ、ちょっと見て回りたい。



「よぉじじい、生きてっか?」


 クロがお店カウンターの奥にいたご老人に気安く声をかける。随分なあいさつだが、知り合いなのか。


「あぁ? お前が借金全部返すまでくたばれるかよ! なんだ、また銃壊したのかクロ! 貸せ、おおかわいそうに、すぐに直してやるからな」


 険しい表情のおじいさんがクロを怒りの目で見て、腰に付けている魔晶銃を盗賊がごとく一瞬で奪い取りメンテを始めた。


「あ、コラ! まだ壊してねーよ! 今日はアタシじゃなくて連れがカメラ欲しいって言うからここに来たんだっての!」


 借金してんのかよ、クロ。あんた魔法の国の王女様だろうに……。


「あー? お前の連れ? 誰とも群れず一人でこそこそやってるお前に連れ? って、こりゃあたまげた……噂のデゼルケーノの英雄、ラビィコール様じゃないか。くわっははは! どうやって知り合ったんだクロ!」


 激怒の顔だったおじいさんが、ラビコを見た途端ゲラゲラ笑い出す。


 さすがにラビコは元から有名なうえ、今回の件でさらに名が知れただろうしな。



 とりあえずクロの知り合いの店っていうのなら安心だ。ついに俺も念願のカメラが手に入るのか……もうすぐ撮れる肌色満載の写真に心が踊るぜ。


 今からシャッター押す練習しとくか、シュッ、シュッっと。



 おっと、ラビコとロゼリィが怖い顔してるからこのへんにしておくか。


 ヨダレ垂れていたけど、今の俺には野生動物のシャッターチャンスを逃さない写真家の魂が宿っている風の顔をしてやり過ごそう。









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