第379話 デゼルケーノ王に弟子入りしたい俺様





 千年幻ヴェルファントムを倒した翌朝、お金も寝る場所もないクロをホテルの部屋に招くことに。


 俺のことは王の眼の持ち主だからキングと呼ぶんだと。





「ニッハハ、いやー助かった。マジでスッカラカンだったからよ。身バレ覚悟で命懸けでキングにたかりに来てよかったぜ。しばらくアタシを養ってくれていいぞ!」


 ホテルの朝食の席でクロが笑う。


 養うどうのは置いておいて、本当にお金なかったっぽいし、まぁいいか。


 助けてもらった恩もあるしな。


 

「あっはは~ま~いいんじゃない~? お金はいずれセレスティアに請求すればいいし~。しばらくうちの社長にたかるのはかまわないけどさ、絶対に迷惑かけるなよ~。ちょっとでも変なことしたら……分かってんな、家出猫。その時は理由も聞かずにセレスティアに突きつけるからな」


 ラビコがトカゲの丸焼き片手にいつもの柔らかな感じで言うが、後半は完全な脅しの視線。


「わ、わーってるって、ラビ姉。お金はいつかコツコツ返すし、アタシは半端な気持ちで国をひょいと出てきたわけじゃあねぇんだ。中途半端じゃ帰れねぇし、何かしら掴まねーと迷惑かけているディー姉達に会わす顔がねぇよ。だからアタシは絶対に帰らない。お、脅したって無駄だからな!」


 ラビコに本気で睨まれ、さすがのクロもびびっているぞ。


 慌てて席を立ち、俺の背後に回ってきたし。



 クロはラビコのことラビ姉と呼ぶんだな。


 まぁ家出前の、ラビコが勇者と世界を巡っている時に出会っているんだろう。


 そしてその家出にはどうにも理由があるっぽいが。詳しく聞くのはデリケートな問題でナンセンスなのかね。




「おはようございます! 皆様昨日は本当にお疲れ様でした! お怪我の具合いなどはいかがでしょうか。あ、でも昨夜はお楽しみでしたでしょうし、その元気があれば平気なのでしょう」


 そろそろ朝食を切り上げようとしたら、ニコニコ笑顔で一人の騎士さんがホテルのラウンジに入ってきた。


 彼はこのホテルを紹介し、お金を出してくれた火の国の騎士ジュリオルさん。


 背中に三本爪の武器を背負い左顔半分の仮面をつけている、ちょっと独特の格好。



 あと相変わらず一言余計。


 俺をチラチラ見ながら笑顔でグイっと親指を立ててくるが、それは一体なんのサインなんだよ。


 悪いが俺は異世界のそういうハンドサインはまだ理解していなくてね。


 つーかジュリオルさんの中では俺ってラビコの旦那さんなんだよな。デゼルケーノ着いてから色々慌ただしくて、未だに勘違いされたまんまなんだっけ。



「おや、しかもお一人女性が増えていますが……いやさすがラビコ様の旦那様になられるお方だ。それだけのご婦人がいながら、さらに現地調達とは恐るべきパワー。英雄と呼ばれるのは腕っぷしの強さだけではないのですなぁ」


 朝食の席についている女性陣のラビコ、ロゼリィ、アプティそしてクロを見てジュリオルさんが笑う。


 だから一言余計だっての。


 そんなひょいひょい女性を誘えるなら、ほぼ毎日やっている俺の夜の儀式が矛盾するだろ。しかもアプティに影から見守られながらやっているっぽいし。



 クロはジュリオルさんがくると、すぐに猫耳フードを深くかぶる。

 

 国を代表する騎士クラスだと、自分のことを知っているかもしれないと思ったのかね。



「ジュリオ~ル。素直と余計は紙一重だぞ~。あと、昨日の約束、分かっているんだろうね~」


 ジュリオルさんがフードをかぶったクロを不審そうに覗こうとしたところ、ラビコが話しかけ、その動きを止めさせる。


「はっ、それはもちろんでございます! ラビコ様とのお約束通り、千年幻ヴェルファントムはラビコ様が友である私の依頼受け、激闘の末、数人の勇気あるお仲間と撃破なさってくれたと王都中に話を広めておきました! しかし私が左目を捧げている我等が王、ロンデイネ=デゼルケーノには真実を告げております。そしてラビコ様のご意向も理解した、と言っております」


 昨夜、俺達は砂漠の主、蒸気モンスターである千年幻ヴェルファントムを倒した。


 ラビコやクロに助けられ、最後はベスの神獣化で止めを刺したのだが、強すぎる力だとラビコが判断し、ジュリオルさんに口止めをお願いした。


「助かるよ~ジュリオル。そっか、ロンデイネ王には迷惑かけたかね~。あの男前の剣は健在かい~? 以前、大規模戦闘に参加したときの豪快な神速四連撃は昨日のことのように覚えているな~」


 さすがにこの国の王様には黙っていられなかったか。まぁ、仕える身だろうしな。


「はっ、もちろんであります。王の剣はさらなる磨きがかけられ、私など数秒で鎧が剥がされ裸にされてしまいます。聞くと、夜に奥様のご衣装を脱がすときにもご利用なさっているとか。公私問わず、常に鍛錬を欠くことのないその精神が王たる者の姿なのだと教えられました!」


 ジュリオルさんが笑顔で言うが、後半、全員苦笑いになった。


 奥さんの服を脱がすことに剣技を使うことが常に鍛錬を怠らない王たる姿、じゃねーだろ。


 やっぱこの人、一言余計である。



 あと、俺はそのロンデイネ=デゼルケーノ王に弟子入りを志願したい。


 え、いや、剣の極意をお聞きしたいってことだぞ。






「では行きますよ。あ、馬車内は見ないようにしますので大丈夫です!」


 ホテル入口に停められた、王族が乗るような豪華な馬車。ジュリオルさんが御者となり、俺達は馬車室内へ。


 また俺にぐいっと親指を嬉しそうにサインしてくるが、なんなの、それ。



 ジュリオルさんは別に王様の余計なことを言いにわざわざ朝一で来たわけではなく、この国の王、ロンデイネ=デゼルケーノさんがお礼を言いたいのでぜひお城に来てほしいとのこと。


 豪華な宴の用意もあるんだと。


 なんだ、それならホテルのトカゲとカエルの丸焼きとか、微妙な水煮巨大魚なんか食べなきゃよかったぜ。



「お昼はお城で豪華な物食えるのかー。朝ご飯食べないで、昼まで我慢すりゃよかったぜ」


 馬車内で揺られながら想像の美味いものを頭に浮かべ笑顔で俺が言うと、右隣りのラビコがニヤニヤと見てくる。


「あ~豪華は豪華だと思うよ~。でも~それはこのデゼルケーノ基準での豪華であって、社長が何やら妄想している料理は多分一品も出てこないと思うよ~」


 う……やめろよラビコ。知らないからってからかう目的で俺達を脅かすなよ。ロゼリィもちょっと引きつった顔になったぞ。アプティはいつもの無表情。愛犬ベスは……まぁいつものリンゴだろう。



「ニッハハー、ザウトフィッシュより豪華なの食えンのかーやったぜ! 久しぶりだなーなんてーかツルンとしててよ、視線が合った後に噛むとブチュンってなってジュワーってなる感じなンだよ、あの目玉」


 どうやらクロは知っているらしく、なにか得体の知れない物を想像してヨダレをたらしている。



 目玉?


 だ、大丈夫だよな? 豪華なんだよ……な?










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