第380話 高額な報酬と目玉を噛む俺様





「遠方からよく来てくれた。君達の功績は遥か千年後まで英雄譚として語り継がれていくだろう」




 火の国デゼルケーノに着いた夜、俺は幻を見せられ砂漠へ出てしまう。


 そこで砂漠の主、千年幻ヴェルファントムに襲われるが、水着魔女ラビコ、そしてセレスティアの王女様クロの加勢のおかげで劣勢を跳ね返し、最後は愛犬ベスの神獣化で撃破。



 四日半の乗り物移動で疲労しているところに、さらに上位蒸気モンスターとの死闘が乗っかり精神的にも体力的にも参っているが、この国の王様に呼ばれたのなら行かねばならないか。


 豪華な宴も開かれるとのことだが、お城に来る前のクロの話ではなんか『目玉料理』が出るとか。


 目玉っても「今回の一番のメイン料理」って意味ではなく、物理的に目玉な。


 出来たら普通の豪華な感じでお願いしたいが……善意で出されたら食べるしかないのかな。





「何年ぶりかな、ラビィコール。まさか結婚しているとは驚いた。いや、なんというか、当時の記憶では色恋沙汰など全て拒否のわがまま魔女のイメージがあるのでな。いや、すまない、素直に心からおめでとうと言わせてもらおう」



 今俺がいるのは石造りの巨大なお城、というか塔みたいな外見の建物。


 砂漠のうえ、蒸気モンスターの被害が多いのもあり、お城は見た目より実用優先で出来上がったらしい。とんでもなくシンプルで飾りなどほとんどなく、頑丈さと守りやすさのみを追求した形のよう。


 イメージ的にはバベルの塔だろうか。



「いや~ついに運命的な出会いが来てさ~。真オレンジ一色の服装でひと目でコイツはやばいと興味が湧いて~、話してみたらもう考え方が今まで出会ってきた男とはレベルが違ってて~」


 千年幻ヴェルファントムを倒してくれたお礼が言いたいとデゼルケーノ王に呼ばれ、お城の豪華な吹き抜けの間にいるのだが……。


「ほう、運命的か。確かに彼のオレンジのその服は目立つし、他で見たことがないな」


 ずらりと並んだ数十人の屈強な外見の騎士に囲まれ、その彼らを従える筋肉モリモリの美形紳士がデゼルケーノ王。


 お歳は三十代中盤ぐらいだろうか。


「ね~ありえないよねこの服~あっはは~。しかも突然この世界の全てが見たいとか言い出すし~十六歳の小僧のくせに世界各地の料理に精通しているし~不思議な発想と着眼点とびっくりするぐらいの行動力でラビコさんの心をがっつり掴まれちゃった~」


「世界の全てとはなんと視野の広いことか。いやまさかラビィコールほどの者が惚れる男と出会えるとはな。それで、結婚はどちらから言い出したのかな。新婚旅行はもう行かれたのか。ああ、もしや今回デゼルケーノに来られたのも新婚旅行ということかな」


 最初は威厳のある感じで王様っぽかったのだが、途中からラビコと俺のウソ結婚話で盛り上がり始めたんだが。


 女子か、この人。



 デゼルケーノ王の斜め後ろに優しそうな顔で微笑んでいる美人様がいらっしゃるが、彼女がデゼルケーノ王の奥様なのだろう。


 王の素早い剣技で一瞬のうちに裸になる奥様の姿が、見たこともないのに頭に浮かぶのだが……これは一言余計騎士ジュリオルさんのせいだな。お尻のラインがとても魅力的な奥様だ。



「こら社長~さすがに人妻に手を出すなよ~。ロンデイネはつっよいぞ~」


 奥様の魅惑のボディラインをぼんやり眺めていたら、ラビコに小声で小突かれた。


 ち、なんで俺のエロい視線にすぐ気づくんだよこの魔女は。


 ここにいるのは俺、ラビコ、ロゼリィ、アプティに愛犬ベス。


 クロは身分的に面倒事は嫌だと、ジュリオルさんと先に祝宴会場に行ってしまった。



「ああ、失礼。言い出したのは私からかな~こんな面白い男には二度と出会えないとすぐに行動したのさ~あっはは~。あ、でもこれ内緒ね~。この少年はまだ十六才で~法的に結婚は出来ないから~十八才から二年余裕を持って二十歳になったら正式に結婚しようってことで、今回は予行演習的な新婚旅行なのさ~」


 俺を小突いたラビコがすぐにデゼルケーノ王に向き、笑いながらウソ話を進めていく。


「なるほど……と、随分若く見えたが、まだ少年であったか。いやこれは末恐ろしい。その歳で千年幻ヴェルファントムを倒されるほどの実力とは。そうか、正式には二十歳になってからとなるのか。了解した。ではこの話もそちらのご意向に沿おう」


 ラビコは結局まだ結婚はしていないとうまくまとめてくれはしたが、二十歳になったら結婚とか決めてねーぞ。


 お酒が飲める二十歳まで待ってくれ、俺が一人前になれるまで側にいて欲しいとは三人に言ったが。




「それでは今回はこのように言わせてもらおう。ラビィコールとその友よ、よくぞ千年幻ヴェルファントムを倒してくれた。数百年に及ぶデゼルケーノの民の想い、勇敢に戦い果てた友の想い、それがついに報われた」


 デゼルケーノ王がラビコとの女子トークの顔から切り替え、ビシっと真面目な顔になる。


 聞いた話では、過去には数万単位の戦力を投じたらしいしな。


 今までどれほどの被害があったのだろうか。



「数年周期で訪れる国の危機、それが無くなる日が来るとは……。これにより民の心に安寧が訪れ、この国にはさらなる発展と繁栄が約束された。ありがとう、国を代表して、民を守る王として感謝を言わせてもらおう。誇って欲しい、強大な相手に臆することなく立ち向かったその行動を。誇って欲しい、過去の民の無念の想いを晴らし、未来の若者の命を保証してくれた勇気あるその心を」



 王の横にずらっと並んでいた騎士達がざっと剣を抜き、胸の前に掲げる。


 王も優雅にスラっと剣を抜きゆっくりと俺達に向けてくる。


 ラビコが杖を王の剣に合わせ、軽く交差させる。



「デゼルケーノを救った英雄、私はそなた達をこう呼ばせてもらいたい。英雄達の活躍はデゼルケーノの民に語り継がれ、その英雄譚は千年の物語になるであろう。ロンデイネ=デゼルケーノは約束しよう。国を救ってくれた英雄の危機には必ず馳せ参じ、英雄の剣になると。ロンデイネ=デゼルケーノがこの左目に誓う」


「我が騎士達に問おう、英雄に左目を捧げられるか」


 王が騎士達に視線を送ると、剣が空高く掲げられ、全員が雄叫びを上げる。


 な、なんかすごいぞ。



「英雄の誕生に立ち会えることを嬉しく思う。ささやかではあるが贈り物を受け取って欲しい」


 王がそう言うと、一人の騎士が豪華な布に隠された箱を持ってくる。



「うっは~! すっごいの持ってきたねロンデイネ。極大紫魔晶石とか~」


 布を外した途端ラビコが嬉々とした顔になり、興奮した声を漏らす。


「それでも少ないぐらいではあるが、今後の英雄の活動の足しにして欲しい」


 

 ラビコが大興奮で綺麗な魔晶石を俺に見せてくるが、確かに大きいのって値段すごいんだっけ。


「これすごいよ~この大きさの紫魔晶石って得られる魔力が桁違いで~作られている数も少なくて~国家単位で数個確保出来れば御の字ぐらいの価値と値段なのさ~。一個最低でも百万G~五百万Gかね~それが三個だってさ~大奮発したねロンデイネ~あはっは~」


 一個百万Gから五百万G、それって……一億円から五億円ぐらいの価値ってことかよ。それが三個も。


「換金するもよし、ラビィコール殿の魔法の増幅に使うもよし。自由に使って欲しい」


 ロンデイネ=デゼルケーノ王がにっこり笑うが、いいのかよこんなに貴重な物を貰って。







 その後、場所を移し祝宴会場に行くことに。



 そこで先に来ていたクロと合流。


 猫耳フードを深くかぶり、顔にはしっかりとゴーグルを付けている。


 まぁ王とは顔を合わせたくないんだろう。


 デゼルケーノ王も会場に来ているのだが、彼女は目が弱く、明るさを抑えるためにゴーグルを付けているとラビコが誤魔化してくれた。




「さぁ食べてくれ、今日は国を挙げて英雄を讃えようではないか」


 王が宴の始まりを告げ、お酒の入ったグラスが掲げられる。


 なんとも豪華っぽい料理が次々と運び込まれ、お高そうな飲み物が並んでいる。

 

 ほとんどがお酒だし、俺飲めないけどな。



 基本ラビコが騎士達の質問を受けてくれ、俺とロゼリィ、アプティ、クロは座って食べ物をいただくことに。



「豪華……なのか。うーん、うーん」


 テーブルに並べられた料理を見るのだが、やっぱりあるカエルとトカゲの丸焼き。朝に食べた巨大魚の水煮。


 でっかい木の実に穴が開けられストロー的な筒が刺さっている物。どうにも中の甘い汁を吸う高級果物らしい。


 普通にお肉とか野菜とかもあるのだが、なぜか俺の席の前だけに異様な存在感を醸し出す料理が置かれている。



「すっげ、さっすがキングだけ特別扱いだな。それ桁一個違う値段すんだぜ」


 正面に座ったクロが教えてくれるが、どう見てもその……俺には高級な物には見えないのだが。



「あっはは~うっわ、やっぱ社長の前にだけ超高級料理置かれてるね~。遠慮せずに食べなよ~。まぁデゼルケーノ以外ではあまり食べられていない物だけど~でも王の感謝の気持ちは無下には出来ないよね~ププ……あっはは~」


 ラビコが『高級』とされる料理を出され困惑している俺を見て笑うが、やっぱこれは食べ物で、俺が食べなきゃいけないのですかね。


「この国ではさ~左目がとても神聖な物として扱われているのさ~。それは色々な魚の左目だけを集めた高級料理のアリステウイユっていうやつさ~」


 あーそういやジュリオルさん含む騎士達が左目を隠す仮面を付けていたり、王の言葉にも節々に左目がどうのと言っていたが……そういうしきたりがあるのか、この国。



 いや、いくら神聖とか言われてもな……さっきからすっごい目が合うんだけど、料理と。




「おお英雄殿、さぁ食べてくれ。これはアリステウイユというとても神聖な食べ物でな。大きな物から小さな物まで入っていて、大きさによる食感の違いも楽しめる遊び心もあってな」


 デゼルケーノ王がわざわざ側に来てくれ、ニッコニコ笑顔でその料理を俺だけに勧めてくる。


「……は、はい……」



 だめなのか、俺はこれを食わねばだめなのか。



 ラビコがニヤニヤしながら見ているし、ロゼリィはなんとも言えない困り顔。アプティは我関せず紅茶満喫。クロは羨ましいといった顔で見ているが、王様がいなければ喜んでそっちのお肉と変えてもらうのだが。


 くそ、今だけ俺は犬になりたい。足元では愛犬ベスが美味しそうにリンゴを頬張っているが、それが一番無難で美味そう。




 王や騎士、ラビコ達が見守る中、俺はその目玉スープっぽい物にスプーンを入れる。


 うわ……目が合う……回りから含め、たくさんの視線が俺を見ている……。



 ええい、行くしか無い!


 俺は意を決し、えいやっと一個の小さめの目玉をすくい口に入れる。



「どうどう~? ね~ね~社長~どう~あっはは~!」


 ラビコが目玉を頬張った俺を見て楽しそうに煽ってくる。


 くそ……表向きに英雄になったのはラビコってことならお前が食えよ……! 



 噛む、噛む……噛むぞ……俺は今から目玉を噛むぞ!



 ボチュン! ジュワッ……トローリ──



 

 俺は今まで生きてきた十六年という年月と異世界に来れた奇蹟に感謝をし、口を半開きにしながら涙を流していた。













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