第378話 カエルと王女様とキング様





「アプティー朝ごはんだってよー」


 翌朝七時過ぎ、ジュリオルさんに用意してもらったホテルの朝食の時間。




 豪華な部屋のベッドで目を覚ましたが、真横にびったりくっついたバニー娘アプティがいるいつもの光景。


 だが大きく違うのは、俺がアプティを起こしていることか。


 うーん、アプティのマジ寝顔が見れるって地味に貴重だよな。


 いっつも先に起きていて、俺が起こされる立場だったからなぁ。



 本当にこの国のあちこちに噴き出している白炎という火柱は、蒸気モンスターであるアプティに影響が大きいらしい。強烈な眠気と感覚が鈍るとか言っていたか。


 目覚めて三分ほど待ってみたが、全く起きてこないので流石に声をかける。


 とっくに起きていたロゼリィが軽い化粧を済ませ、みんなの布団を整頓し始めた。さすが実家が宿屋の娘さんだ。



「…………おはようございます、マスター。もう朝でしたか……」


 俺の声に気が付いたアプティがパチっと目を開き、すっくと上半身を起こす。ちょっとボーっとしているが、寝起きもいつもの無表情なのか。



「ニッヒヒ……ニヒ、ヒヒ……スコー」


 ラビコも起きて髪をとかし、愛犬ベスなんかとっくに目覚めていたらしく、俺の足元で元気に朝ごはんリンゴを所望しておられる。ベスは昨日頑張ってくれたからな、しっかり食ってくれ。


 そして聞きなれない寝息が一つ。


 ベッドに大股広げた状態で仰向けになり、満足気な笑顔で寝ている女性。


 寝るときの服なんて持っていないらしく、服を脱いで下着一丁のお姿でお眠りになられている魔法の国の王女様。


 そう王女様。


 その雑な態度からは全くイメージに合わず戸惑ったが、ラビコに聞くとマジで魔法の国セレスティアの現在行方不明となっている第二王女様なんだと。


 家出とか言っていたか。


 何があったか知らんが、セレスティアにいればなんの苦労もせず過ごせるだろうに。お金だって気にしないで暮らせるだろうし、豪華な王族専用の部屋に美味しいご飯の毎日だろ。


 なんかヤンキーっぽい言動だし、反抗期的な喧嘩でもしたのかね。まぁ、想像で決めつけるのはよくないか。


 さてヘタに身分の高いこの人、どう扱ったもんだか。



「ふふ、あんまり見てはいけませんよ?」


 俺が深く考えるフリをしながら下着一丁大股開きの女性の寝姿を楽しんでいたら、瞬時に気が付いたロゼリィが俺の前に立ちふさがる。くっ……すっごい真面目な顔で将来の漠然とした不安に悩む少年を演じていたのに。





 結局千年幻ヴェルファントムを倒した後、俺達はホテルに戻り寝ることに。夜中も夜中だったし、疲労が半端なかったしな。


 ラビコも俺もケガしているし。



 途中加勢してくれた女性。


 魔法の国の王女様が戦いの勝利の余韻をブチ壊す、金も無いし寝るところもねーんだよ、と怒りのままに雅な感じで薄い財布を地面に叩きつけられたので、さすがに放っておけないかとホテルの部屋にお招きした。


 なんか酒場で朝まで粘るか野宿するつもりだったとか言っているし、多分一個上ぐらいだと思うが、年頃の女性はそういうのマズイだろ。しかも王女様らしいし。



 そうしたらすぐに笑顔で下着一丁になり、大股開きでベッドに潜り込む始末。


 ロゼリィが王女様という身分の女性に怯えながらも、ホテルのレンタルの部屋着を勧めるがド無視で即寝。




 そして今に至る、というわけだ。



「ニャシュン! ……ンゴ……な、なんだこのフッカフカの布団に豪華な部屋は……って、ああ、そういや英雄に泣きついたっけか。ニッハハ、こういう人並な感じひっさしぶりだ」


 くしゃみをしてガバッと起き上がり、周囲に鋭い視線を向ける王女様。


 この寝起きすぐに身の安全を確認する余裕のない感じ、これは野宿とか普通にやっていたっぽいな。ロゼリィが王女様の豪快な起床の仕方にちょっと驚いている。



 とりあえず服をきてもらい、ホテルの朝食をいただくためにラウンジへ。





「い、いただきます……」


 テーブルに並べられていたのは、大皿に乗せられた五十センチはあろうかという魚。塩で茹でただけの感じ。


 ラビコに聞くと、このデゼルケーノでは高級魚らしく、ザウトフィッシュというものらしい。


 料理長やスタッフさんがニッコニコ笑顔で次々料理を運んでくれるが、そんなに食えないっス。カエルの丸焼きもあるし……。


 もちろんトカゲもあるぞ。全く食欲が湧かないシルエット。


 誰も丸焼きには手を付けず、高級魚らしいお魚をちょいちょいつまむ。身は柔らかく、まぁ食べられる。でも味が塩以外のダシとか欲しい感じ。足元でリンゴを頬張るベスが一番ご機嫌か。



「あぁ? なンだぁお前ら、少食なんだな。食わねぇンならいっただくぜ! ニャッフーかりかりー! ボソボソー!」


 俺達がスローペースで譲り合うようにもそもそ食べていたら、元気爆発な感じの王女様が笑顔でトカゲとカエルの丸焼きに手を付けた。


 かりかりにボソボソか、うまそうじゃぁねぇな。


「いや、どうにもまだデゼルケーノの料理に慣れていなくて……王女様は好き嫌いとかないんですかね」


 俺が魚と見たことのない野菜サラダを食いながら言い訳をすると、王女様が不機嫌そうに俺に食いかけのカエルの丸焼きを突きつけてくる。あ、身は白いんだ……。


 でもシルエットが、無理。


「あのよ、その王女様ってのやめろ。国からワガママ言って出てきたわけだから、アタシはそんな大層な身分じゃねぇ。気軽にクロでいい。他のメンバーもそう呼んでくれ。ニッハハ」


 そう言うと、彼女は最後ニカっと笑う。


 お名前がクロックリム=セレスティアさんだっけか。まぁ、王女様王女様って道中呼ぶのはまずいか。


「分かりました。クロさんで……」


「あー! だからよ、なんで敬語なんだよ。クロだクロ!」


 俺の話の途中でイラっとした感じで、今度は食いかけのトカゲを突きつけてくる。


 丸焼き二刀流はやめてください……。


「アタシはクロ、な、英雄……ってお前のこといつまでも英雄じゃあ他人行儀だよな。そうだな……王の眼の持ち主なんだからよ、キングってのはどうだ。かっけーだろ、うん、お前キングな、今日からアタシを養ってくれていいぞ! ニッハハ」


 俺の背中を豪快にバンバン叩きながら笑う、えーと、クロ。



 王女様と呼ぶな、でもお前はキングなってどっかおかしくないすかね。



 あと俺この人養うの?













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