第377話 砂漠の夜の千年幻7 ヤンキー王女クロックリム=セレスティア様




「こいつはクロックリム=セレスティア。あの魔法の国の現女王サンディールンの妹で、セレスティア王国第二王女様だ」



 千年幻ヴェルファントムとの戦いで、俺たちのピンチに颯爽と現れた女性。



 やたらに強固な柱の魔法と二丁の魔晶銃の使い手。てっきり手練れの冒険者かと思っていたら、水着魔女ラビコ曰く魔法の国の王女様だとさ。


 なんでそんな高貴な身分の人がこんなとこに一人でいるんだよ。



 あ、ラビコの口調が間延びせず歯切れいいのはキャベツ状態だからだぞ。





「な、なんにせよお礼を言わせて下さい。あなたがいなければ俺は今ここに立っていられなかった。助けてくれてありがとうございます」


 王女様だろうがなんだろうが、命を救われた事実は変わらない。


 俺は丁寧に頭を下げお礼を言う。


「あー、いーっていーって。こンなところで英雄様にポックリ死なれちゃーアタシも困っからよ。もーこっちも生きるか死ぬかのギリッギリの状態だったもンだから、酒場から必死で追っかけたってな。ニャッハハ」


 猫耳フードを脱ぎ、付けていたゴーグルを外し首にダランと下げながら王女様が笑う。


 うむ、お顔はさすがに映像のマリア=セレスティアさんの血筋らしいお美人様だ。


 でも……ちょっと髪がボッサボサで自分で切ったみたいだったり、着ている服がパンク調で格好はいいんだが、女性らしさはないかな。


 出るとこ出ているし、スタイルも抜群。素材は最高級なんだがなぁ、実にもったいない。


 ちょっとやわらかい化粧して髪整えて、フワッフワのスカートとかにすれば、それこそザ・王女様という感じになりそう。



「初対面で女性の胸を測るように眺めるのは失礼ですよ? ふふ」


 王女様の身体を舐めるように上から下から見ていたら、宿の娘ロゼリィがいい笑顔で腕をつねってきた。いっつつ……ご、ごめんなさい。やっぱ俺独断お胸様ランキング一位はロゼリィさんで不動でした。




「みなさーん、細かな後処理は明日にして、今日はもうホテルでお休みになられて下さい」


 集まってくれた騎士や冒険者達を街へ戻るように指示し、火の国の騎士ジュリオルさんが俺達に声をかけてきた。


 まぁ確かにもう夜中も夜中だしな……俺は大きなケガはしていないが、さすがに体力は限界だ。



「ラビコ、背中は大丈夫なのか」


 俺はすっとラビコの背後にまわりケガの具合を確認する。


 千年幻ヴェルファントムとの戦いで、俺を抱えて飛んでいる時にラビコは背中に重い一撃もらっているのだが……あれ、確かに腫れてはいるが、軽い感じに見える。


「ああ、大丈夫さ。ジゼリィとまではいかないが、自分に簡単な魔法障壁は張れるんでね。さすがに衝撃までは打ち消せず、動けなくなってしまったが……あはは。でも……その後のお前はちょっと格好良かったぞ。必死に私を背負い守ってくれていた。あの状況であれをやられて惚れない女はいないだろ。今日はこのままお前に抱かれてもいいぐらいさ」


 ラビコがすっと身体を絡めてくるが、鬼がそれを許すはずもない。


「ふふ、お二人とも怪我人なんですよ? 黙ってホテルまで戻って至急おやすみくださいね? ふふ」


 微量に鬼のオーラを放つロゼリィが俺とラビコの首根っこをつかんでくる。


 うむ、ぜひそうしよう。正直この鬼の握力が一番痛い。



「あー、あのよ、イチャイチャ盛り上がってっとこわりーンだけどよ、アタシも英雄と一緒に寝てーンだけど」


 ロゼリィに引きずられてゲンナリしていたら、王女様がとんでもないことを言い始めた。あ、ほーらロゼリィの顔が引きつっている。


 一緒に引きずられているラビコもキレる寸前の顔だぞ。アプティはいつもの無表情。



「ニッハーおっかねぇ顔。いやでもマジ頼むわ。さっきも言ったけどよ、本当にギリッギリの状態でよ。もう酒場で朝までうなだれてっか野宿か、しか選択肢なくてよ、そこに英雄様が外に出てきてくれたもンだから、もうこれ逃したらヤベェと思って慌てて追っかけて成り行きで加勢したってわけなンだけど」


 王女様が笑顔で言うが、ん? この人途中に通り過ぎた酒場にいたのか? 王女様、なんだろ? なんで?


「あ、酒は飲んでねぇぞ。未成年だしなニッハハ。まっずい茶で朝まで粘るつもりだったンだけどよ、さすがに四日間の魔晶列車の直角椅子は背骨とか関節がギシッてな。きつかったな……まじで……これ帰りもかよ……とか考えたら冷や汗止まんなくってな、ニハハ……」


 話の途中から王女様のテンションが面白いくらい下がり、最後に意を決した顔で勢い良く俺の右手を握ってきた。形のいい唇を動かし、上目遣いで彼女は言う。



「金がねぇンだ! 頼むからお前にたからせてくれ!」



 ちょっとお綺麗な女性、しかも王女様。今は共闘し命懸けで巨大なモンスターを倒し、喜びを分かち合うタイムなはず。


 妄想異世界なんかでは、こういう場面じゃ無双した俺が王女様に一目惚れだのなんだので告白されて困りながらも俺ニンマリ顔パターンじゃねーのかよ。


 金がねぇ、ですか……そうですか……。


 しかしこうハッキリたからせてくれっていう人を初めて見たわ。



「もう無理……今まで日雇いでチャリチャリ稼いで、船以外の陸路は行ける限り頑張ってこっそりお前らの後をつけて回ってたけどよ、今日で限界……いくら稼いでも追いつかねぇ……。ましてやこっちは魔晶銃なんて金食い虫があっからよ、金が全然足りねぇし回らねぇんだって!」


 王女様が懐からペラペラのお財布を出し、怒りのままに地面に投げつける。


 ペスン、と軽い音が鳴り、薄い財布……というか、布を二枚合わせただけの粗悪品が夜風に舞う。


 なんも入ってないな、アレ。


「つかお前ら短期間であっちこちポンポン回り過ぎだろが! ついていくこっちの身にもなりやがれ! こっちゃーコネもない、しがない日雇い冒険者なンだぞ! 家出だからディー姉に頼りたくねーし……金だけボンボン出ていってよ……もうやってられっか!」


 ほう、この人やけに俺のことに詳しいと思ったら、後をつけて来ていたのか。


 すごいな、その根性。


 あと最後やっぱ家出って言ったぞ。確か自分の居場所探しがどうのとか言ってなかったか、最初。



 そしてこの格好、ソルートンに新しく出来たお店デュアメロディ以前に見覚えがある。


「えーと、お怒りのところ申し訳ないのですが……もしかしてソルートンで俺に本、というかオウセントマリアリブラを売ってくれた店員さんじゃ……?」


 港街ソルートンの怪しい魔晶グッズ店で魔法が使えるようになる本、とか言われて買ったんだが、ラビコとかに聞いたら魔法の国セレスティアの国宝だとか。


 しかも楽して魔法が使える物じゃなく、ただの自習ノートだったっていう。俺には全くの無用な品。


「そうだよ、アタシだよ。もう売る物ねーからいい感じに騙してお前に売ったんだよ! さすがにあれは市場には流せねーし、お前ならラビ姉と仲よさげだからすぐに本の価値に気付いて悪くは扱わねーだろ、と思ってな」


 ……俺を信頼してくれたのは嬉しいが……国宝売るなよ。


 しかも千G、十万ぽっちで。金なくて、どんだけ追い詰められていたんだよ。



「あー……あなただったんですか。にしては喋りかたが真逆というか、全然違いましたが……」


 こんなヤンキーみたいな感じじゃなかったよな?


「あぁ? っせーな、店員ってのは敬語使わなきゃいけねーンだろ? 怪しまれねーように必死でやったンだよ。お前が店に来るようにちょっと誘惑魔法かけたり、店のじじぃ魔法で眠らせたりしてな。まぁクソ面倒だった。千Gとか言わずにもっとボレばよかったとマジ後悔したよ、あのあと。ニッハハ」


 色々一気にぶっちゃけられて、俺口ポカン。


 さすがのラビコも話聞いて驚いているぞ。


 

 たしか王女様とか紹介されたんだが、聞けば聞くほど極貧ヤンキーさんというイメージが固定化されていくんだが、俺の思考は間違っているのだろうか。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る