第375話 砂漠の夜の千年幻5 柱魔法の使い手と神獣化様




「ティアン……エンハンス!」



 力ある声と共に千年幻ヴェルファントムの足元から六本の光る柱が出現。


 大口の顎を無理矢理持ち上げ、俺達に放たれるはずだった光は空へと消えていった。




「よぉ英雄さん。すっげぇハードに楽しそうなことやってンじゃねーの、アタシも混ぜてもらうぜぇ」



 少し離れた岩から声が聞こえ振り返ると、顔に付けたゴーグルを持ち上げた女性が楽しそうに笑っていた。



「千年幻ヴェルファントム。このクソ暑いデゼルケーノの砂漠を住処にしている上位蒸気モンスターってやつでよ、過去に国が万単位の戦力をドバっと投入したこともあンだけど、何も出来ずに数秒で全滅ってな。ニッヒヒ……笑っちまうよなぁ、この実力差によぉ」


 女性は再びゴーグルを付け、太もものホルスターから二丁の銃を取り出す。


 銃? 魔晶銃か?


「それなのにアンタらすっげぇよな、たった二人で恐れることもなくガッと立ち向かっていってよ。万単位の騎士、冒険者が数秒で消されたってのに、やりあって数十分、二人共生き残っているってンだからなぁ」


 

 ゴアアアアア!!



 六本の柱に動きを拘束され、千年幻ヴェルファントムが怒り吼える。


「ニッヒヒ……おっかねぇなぁ! 正直足がブルってけっどよ、こんなとこで英雄さんを失うわけにゃいかねーンでなっ! 頭の光るの狙えばいいンだろ? おらよ、くらいな!」


 女性が両手に持った二丁の魔晶銃を構え、千年幻ヴェルファントムの額のところにある発光体を狙い乱射する。


 次々と魔晶銃の弾が着弾、爆発。


 再び視界を奪われその巨体を暴れさせようとするが、六本の柱が強固にその動きを拘束する。


 すっげぇな、あれ。


 あの柱とこの女性、どこかで見たことあるような。



「……あ、だめだ! 五メートル先右方向、下から尻尾がくるぞ! 三、二、一……!」


 千年幻ヴェルファントムの発光体が一瞬の隙間から銃の女性をみつけ、攻撃を仕掛ける映像が見えた。


 次の瞬間、見えた映像通りの場所から巨大な黒い尻尾が蒸気とともに現れ、女性を襲う。


 ゴンと嫌な重い音が響き、尻尾がズルっと砂に潜っていく。


 くそっ……見えるだけじゃ何にも出来ねぇ……。



「ニッヒヒ……助かったぜ英雄さん。アンタの言葉がなかったら今頃アタシはバラバラの木っ端微塵だったな」


 女性の声。よかった……無事だったか。



 砂煙が引いて見ると女性の前にさきほどの光る柱が一本あり、千年幻ヴェルファントムを抑える六本のうち一本を引っ込めこっちに回し、それで身を守ったようだ。


 あの攻撃を防ぐとかとんでもなく頑丈なんだな、その柱。



「王の眼、千里眼の未来予測ってか。ニッヒヒ、まさか生きている間に本物を拝めるとは思わなかったぜ。あーワクワクが止まンねぇ、この世界にゃこんな面白れぇ男がいるってンだからなぁ! あんな古くてかたっ苦しい国出てきて正解だったぜ! ニャッハハ!」


 に、にゃ? 


 喋りはヤンキーみたいなのに、笑い方はくっそかわいいぞ。


 猫耳のついたフードにゴーグル、パンクっぽい衣装。


 どこかで……あ、この人ソルートンでカメラ買おうか迷っていたら助言くれた女性じゃないか? 


 なんでこんなとこにいるんだ。


 あとこの人、妙に俺のことに詳しいが……何者。




「──……怒れ戦いの女神、その手の槍を我に、その輝きの槍で未来を照らし遮る物全てを突き刺し、全てを貫け!」



 ラビコの声に驚き振り返ると、杖がいつの間にか地面に突き刺さっていて、横たわっていたラビコの体に再び紫の輝きが灯る。


「ラビコ! よかった……無事でよかった……うう」


「泣くなよ、てめぇが命懸けで守ってくれたんだろうが!」


 俺が半泣きで見ると、ラビコがガバッと起き上がり、地面に突き刺した杖に魔力を込める。半端ない輝きを放つ杖、これは相当の魔力が込められているぞ。



「……おい家出猫。しっかり抑えとけよ……受け継いだ王族魔法の腕はなまっちゃいねぇんだろ?」


「あぁ? っざけンなよ誰が家出だ、自分の居場所探しの旅だっつーの! つかこれ馬鹿みたいにボンボン魔力消費すっからヤベーって。あと三秒の維持が限界かもな、ニャッハハ!」


 復活したラビコと銃の女性が乱暴ながらも軽妙なトーク。どうにも知り合いっぽい感じ。


 王族魔法? なんだそりゃ。



「三秒で充分だ、──来たれ無限の槍、トライヴァルキュベル!!」


 ラビコの力ある言葉と共にキャベツの刺さった杖が紫に輝き、三メートルほどの輝く槍状の物が次々と生み出されていく。


「ニッハハ……わりぃけど限界……」


 銃の女性が作り出していた光の柱が消え、拘束されていた千年幻ヴェルファントムが自由を取り戻し吼える。



「あっはは! そんなに喰いてーんならコレでも喰っとけ千年ヘビ!」


 だがその開いた大口にラビコの放った輝く槍が次々と突き刺さっていく。


 本当に無限にラビコの杖から光る槍が生み出され、途切れること無く連射のように千年幻ヴェルファントムの大口に刺さり、一本がついにその身体を貫通した。


 

 この魔法……見覚えがある。


 ソルートンでの銀の妖狐との戦いのとき、あいつが生み出した水龍の顔の一部を貫いた魔法じゃないか。あのときは無詠唱魔法だったが、今回のはしっかり魔力を溜め込んだ詠唱あり版、その威力は見ての通り。


 貫いた一本を皮切りに、次々と槍が千年幻ヴェルファントムの大口を貫通。下顎から首の部分を大きくえぐり取った。


 巨体の動きが止まり、空いた大穴からおびただしい量の蒸気が噴き上がる。



「やったのか!?」


 俺は身を乗り出すが、ラビコがガクンと膝をつき下を向いてつぶやく。


「だめだ……寸前で気付いて顔上げやがった……発光体を潰せなかった……か」


 見ると、確かに頭にひょろっとついている発光体は無事。


 大穴空いた場所の蒸気が収まり、消えた肉体が再生を始めている。


 自己再生とかマジかよ……巨体に自己再生とかチートの塊じゃんか。



 さすがにラビコは今のに全ての魔力を込めたようで、二発目は撃てない様子。


「ニッハハ……もう無理無理、魔力スッカラカーン……あとは煮るなり焼くなり好きにしろよ……。でもすっげぇ楽しかったぞ。なんつーかこう、恐怖と快楽が同時にドカンときて自分の実力以上の力がモリモリーって感じだったな!」


 興奮しながらも、銃の女性の足の力がヘナヘナと抜けていきしゃがみ込む。


 相当の恐怖の中、勇気を振り絞って助けに来てくれたのか……ありがとう。あなたがいなければ俺はこうして立っていられなかった。


「あーくそっ、せっかくアタシの求める答えをバッチリ持っていそうな男に出会えたってのによ……ラビ姉に見つかンねーようにコソコソしてねーで、もっと早く話かけりゃよかったぜ……」



 ──千年幻ヴェルファントムがラビコの放った魔法のダメージから自己再生で動けるようになるまで、あと五十秒。


 大丈夫、それだけあれば俺の最強の相棒が間に合う。




「……申し訳ありませんマスター。どうにもあの白炎という物は私の眠気を増大させ、感覚を鈍らせるようです」


「うわわっ、なんですかこの状況……みんなケガを……ひっ、この巨大で気持ち悪い黒い物はなんですか!?」


「ベスッ!」


 俺の背後に三つの声が届く。



 バニー娘アプティがロゼリィを背負い、俺の愛犬ベスを抱えて到着。


 やっぱそうか、アプティの動きが鈍くて不思議に思っていたが、各所に噴き上がっている白炎が影響していたのか。



「時間がない、行くぞベス。俺に力を貸してくれ!」


「ベスッ!」


 俺はフンフンと鼻息荒く足元に絡んでくる愛犬の頭を優しく撫で、心をしっかりとつなぐ。


「狼武装!」


 ベスが俺の声と想いに応えてくれ、額から青い光を放ち、みるみる全身を覆い巨大化。俺の頭より少し大きいぐらいまでになる。


 光が形となり、巨大な狼のシルエットが完成。


 大きく太い爪のついた手足、鋭い牙のついた口を開き、力強くベスが咆哮する。


 オオオオオン!



「あっはは……出たよ神獣化。これだからうちの社長はおっそろしいんだ」


 ラビコが杖を支えになんとか立ち上がり、光を纏ったベスと俺を見てニヤァと笑う。


「ニッハー! すっげ、すっげぇ! なンだこのビンビンくる圧倒的なパワー。これが噂の英雄の切り札ってやつか!」


 諦めたような目でしゃがみこんでいた銃の女性の目が、一気にバチンと見開き笑顔になる。



 ──再生完了まであと十秒か。



「出し惜しみ無く攻めるぞ、ベス! ケルベロスラージュ!」


 ベスの体が三つに分身し、交差走りをしながら一気に千年幻ヴェルファントムとの距離を詰める。


 迫るベスに気付いたらしく、無理矢理尻尾を振り回すが、悪いがうちのベスにはそんな貧弱な尻尾じゃ遊び道具にもなんねーんだよ。


「尻尾ごと貫け! シールドアタック!」


 巨大化したベスの額から青い光が漏れ、前方を覆うシールドとなる。同時に分身の二体にもシールドが発生。


 三身のベスがスピードを落とすこと無く尻尾を砕く。そのまま巨体の頂点にある発光体を目指し加速。



「俺の大事な仲間を傷つけやがったお返しだ……消え去れ、千年幻ヴェルファントム!」


 

 ベスが三身の突進をかまし、自己再生が完了した瞬間の頭部全てを吹き飛ばす。




 頭を失った千年幻ヴェルファントムの巨体から激しい蒸気が吹き上がり、その身体がゆっくりと夜空に消えていく。












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