第373話 砂漠の夜の千年幻3 噛み合わないけど通じ合う想い様
さらわれたロゼリィを助けようと砂漠まで来たが、そこで俺は砂漠の
砂漠から出ている部分だけでも百メートルは超える巨体。
手足はなく、風呂上がりにラビコが描いてくれたヘビのような外観。硬そうな鱗に覆われた太い胴体の直径は一般的なコンビニより大きいぐらいだろうか。
開かれた大口は無数の牙が生え、大型トラックを余裕で飲み込めるほど。
頭頂部あたりにひょろっと細い紐状のものが出ていて、その先に紅く光る発光体がついている。
イメージとしてはアンコウのそれに近いだろうか。大きさは桁違いだがね。
「た、助かった……ありがとうラビコ」
砂漠の
「一番近くの砂漠に千年幻ヴェルファントムがいるとはいえ、よほど魔力に敏感じゃないと街で幻を感じることはないんだがね……とんでもない感覚を持つ社長の王の眼を舐めていたよ」
ラビコが真下で恐ろしい声量で吠えている砂漠の
幻……俺はまんまとロゼリィの幻を見せられていたのか?
「ロゼリィは、ロゼリィは無事なんだな!?」
「ああ、ジュリオルが血相変えて部屋に来るまでぐっすり寝ていたよ。ロゼリィがさらわれたって……一体何人が出て来る幻を見たのさ。砂漠の側ならまだしも、距離のある街ではせいぜい声が聴こえる幻聴、かなり魔力強い者でやっと一人の幻がぼんやり見えるぐらいのはずなんだけど」
ロゼリィは無事なのか……よかった。
俺が見せられたのは、ゴツイ冒険者五人にロゼリィがさらわれる幻でした……ってそういや今思えばおかしいよな。あれだけ走っているのに、足音まったく無いって。
街の人も、追っかけて走っている俺ばかり見ていたもんな。
「あと、まさか貧弱な社長がデゼルケーノ騎士達の厳重な警備を単独で突破するとか想像もしなかったよ。二十人近くが出張っていたそうだけど、どうやったのさ」
ど、どうって……俺も必死だったからな。
なんとなく動き予想して、まぐれ当たりが連発したぐらいなんじゃないかな。うむ、今なら宝くじがあたりそうな気がする。誰か代わりに買ってきてくれ。
ゴアアアアアアアアア!!
餌を食いっぱぐれた砂漠の
腹の底にビリビリくるぞ、この咆哮。
正直マジで怖い。早く帰りたい。
「うるっせぇぞ、くそヘビ! 人の男を勝手に喰おうとしやがって……! この男を最初に喰うのはこの私なんだよ! ぶっっ潰してやる!!」
ラビコさん、めっさ怒っているんですけど……え、俺どっちに喰われんの。
「喰らえ天の怒り、そして私の怒り……オロラエド……ベル!!」
ラビコがキャベツの刺さった杖を高く掲げると、上空が一瞬眩しく光り、生まれた光が一点に収束。
深夜の砂漠を明るく照らし、収束光が砂漠の
極太の雷が背中あたりに命中するが、主の鱗が数枚焦げたぐらいで本体には影響なさそう。
「うっわ、効いてねぇぞラビコ! ……ってやばい、左に避けろ!」
主が大口を細く閉じ、砂を勢い良く吹き出してきた。
「ちっ……! これならどうだ……! 喰らえ、天の七柱……ウラノスイスベル!」
俺を抱えながらラビコが左に飛び、避けながらも杖で照準を合わせ上空に七つの光を生み出す。
七本の強力な光の柱が砂漠の
ゴアアアア!
効果あり! しかし本当に表面の一部を焼いたぐらいで、砂漠の
「ちっ……効かねぇか。これ以上の高位魔法は地に足付けてねーと使えねーなぁ」
さすがのラビコでもこいつには致命傷は与えられないのか。
千年で溜め込んだ力ってのはよっぽどなんだろう。
正直、コイツが出てきたのは俺が幻にまんまと引っかかったからなんだよな。腹空かせたこいつが砂漠飛び出して街にでも行かれたらたまったもんじゃない。
やるしか……ねーか。
「……やってやろうぜラビコ。倒せないまでも、遠くの砂漠に追い返すぐらい出来ねーかな」
「ふん、我が夫の願いなら私はそれを叶えるまでだ。一人でどこまで出来るか分からんが、私の男を喰われそうになって、はいそーですかと帰るほど優しい妻じゃないんでな」
夫だの妻だのはこの際置いておいて、目の前に出てこられた以上放置も出来ない。あとコイツにはロゼリィの幻を見せられた怒りもある。
幻とは言えロゼリィをもてあそびやがって……絶対許せない。
どうせなら裸のロゼリィが迫ってきて、キャッキャウフフの追いかけっこの果てに気付いたら砂漠にいたとかの演出は出来ねーのかよ!
ゴツイ高レベル冒険者の五人分はラビコにアプティにアンリーナにハイラにサーズ姫様に置き換えるとかどうだろう。
もちろん全員裸な。
いや、いきなり裸じゃ情緒がないな、少しずつはらはらと脱がしていく日本人的奥ゆかしさが欲しいところか。
いいかヘビ、お前に足りないのはこういう発想なんだよ。
千年も生きていてこんな簡単なことに気が付かないとか、無能の極み。
分かったか砂漠の
「俺も幻とはいえロゼリィを利用されたことに怒りが治まらなくてな。この眼で全力サポートしてやる。大事な人を利用された人間の怒りってのを見せつけてやろうぜ」
「あっはは、王の眼のサポートを受けられるとか頼もしい以外ないね。我が夫ながら格好いいじゃねーか。いいだろう夫婦の怒りってのを見せてやるか」
俺とラビコは互いに見つめ合い、全く噛み合っていない想いを重ねる。
「行くぞラビコ!」
「あいよ、通じ合う夫婦ってのはこうでないとな」
二人がコツンと拳を合わせ、千年幻ヴェルファントムを睨みつける。
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