第365話 火の国エキサイトツアー10 千年燃える白炎様


 列車は無事プロミネンス火の輪くぐりポイントを抜け、ひたすら海岸線を南下。



「な、なんだったんだ、あれ……」



 目覚めに強烈なアッパーくらって脳天揺らされた感じだぜ。おかげで一気に目が覚めた。


 この列車より数倍太い白い炎が真上を通過していったぞ。


 そして列車内すっげーあっついし。これ緯度的な暑さに加えてそこら中で噴き上がっている炎の熱も加わってんじゃねーの。


 考えたくないが、さっきの場所の線路管理ってどうやってんだよ。


 マジで命懸けか……。



 ロゼリィなんかベッドの上で正座で目を見開いて動かないぞ。アプティは興味なし無表情。愛犬ベスは起きもせずスヤスヤ。




「あっはは~あれがこの火の国デゼルケーノのそこら中で噴き上がっている白炎ってやつさ~」


 水着魔女ラビコがやっと俺の上からどいてくれ、説明をしてくれた。


 白炎、確かに白い炎だったな。普通は火って言ったら赤とかだが。



「白い炎ってあんまり見たことないんだけど、なんなんだ、あれ」


「ん~? 何って言われてもな~、白炎は白炎だよ~。デゼルケーノに残る伝説によると~むか~し昔にとても大きな戦いがあって、その時に放たれた炎が未だに燃え続けているとかなんとか~」


 昔の大きな戦い、か。


 その昔話が本当だとしたら、デゼルケーノ全体に残るほどの規模ってどんだけの戦いだよ。


「放たれたってことは、あれは誰かが使った魔法ってことか? 昔がいつのことか知らんが、魔法ってそこまで長期間継続して効果出し続けられるものなのか?」


「お? さっすが社長~目のつけどころが普通じゃないね~。本人は魔法なんて一切使えないくせに~あっはは~」


 ち、確かに俺はこの異世界で魔法は使えないが、日本では使いまくっていたんだよ。……ゲームでな。


「これは私の主張だけど、白炎は魔法さ。魔力で燃えている人工的な炎、だね。期間はおよそ千年……ってもデゼルケーノに残る伝説は正直、真偽の程も定かではない、人から人に伝わった噂話だから~途中で誇張やウソも入っていると思うけど~。ほら、来る前に千年燃え続けている火の海がある~って言ったじゃない~。あれが本当だとして、その時から燃え続けているとしたら、人間業じゃあないよね~あっはは~」


 千年……まぁ誇張された話、なんだろうと思うが。千年って単位も、語呂がいいとか、人間が誇張で出しやすい長期間の例っぽいしな。


 話半分で聞くとして、五百年から千年単位燃え続けている人工的な魔法の炎、か。


 人間業じゃあない。そういや以前、魔法の国に行ったとき、魔法の種類の話でその単語を聞いたな。



 魔法には種類があって、大いなる者の力を借りて放つディスティネーションタイプ。借りる先の元の力は越えられない最終到達点ありのもの。


 これが人間が使える一般的な物だったか。


 それに対し、世界でも有数の大魔法使いであるラビコからして人間業じゃあない、という魔法の種類。何の力も借りず、個人の持てる純粋魔力のみを元にして放つイマジネーションタイプ、だったか。



「人間業じゃあない魔法。それが出来るのは、膨大な純粋魔力を持つ者が使えるイマジネーションタイプの魔法ってことか」


「うっは~……よく気がつくなぁ、さっすが社長。私もそう考えているよ~。イマジネーションタイプ。魔法の形、属性、規模、継続時間など、全てを個人でコントロールしなければならず、しかもその全てに魔力を消費するので、莫大な純粋魔力が必要になる~って、さすがに千年規模はありえないけどね~。だって人間は百年すら生きられないし~放った魔法に千年も魔力を送り続けることが出来ないからね~あっはは~」


 まぁそうだわな。


 人間レベルでは扱うのが難しいイマジネーションタイプ魔法。それを使った上、放った魔法を千年規模で保つなんて出来るわけがない。


「ってことは伝説やらが本当だとしたら、やったのは人間じゃねーな」


「あっはは~まぁ噂で伝説、だからね~。自然現象とは考えにくいし~白炎には確かに魔力を感じるし~。ま、過去のことなんて調べようのない今の私達は想像して楽しむ、これが平和的かね~あっはは~」


 過去にこんなことがあったんじゃないか、と想像するのは平和的だが、今目の前で白い炎がボンボン噴き上がっている光景はとてもデンジャラスなんだが。




 寝ていていつ火の国に入ったか知らないが、想像以上に危険な場所っぽい。


 窓から見える風景だけでもそう思える。


 黒ずんだ岩肌の鋭利な輪郭の山が連なり、地面は基本砂漠か黒い岩のどちらか。地面のあちらこちらから先程の白い炎が噴き上がっていて、全く観光をしたいとは思えない風景。


 ちょっと前まで花の国フルフローラの牧歌的な心和む風景だったのに、少し南下したら黒い山々に砂漠に噴き上がる白炎とかいう地獄みたいな景色なんだが。


 ラビコがデゼルケーノの伝説とか噂話を教えてくれたが、花の国フルフローラから急激に変化しているよな、環境が。自然に起きた変化より、なにかあって人工的に変化が加えられたと考え、そういう想像物語が語られるのも分かる気がする。



 大魔法使いラビコ曰く、白炎からは魔法的なものを感じる、というぐらいなんだからあれは魔法の炎なんだろう。


 過去の大きな戦いで放たれたものか。


 千年残るってどんだけの威力だよ……。




 魔晶列車は海岸線の比較的平らで頑丈な土壌の上を走っているようだ。たまに分岐路があり、その線路の先は白炎で包まれていたり、砂漠に沈んでいたりしている。


 多分……以前はそっち走っていたんだけど、事故があって手前に分岐路が作られたんじゃ……。


 あああ、おっかねぇ、おっかねぇぞデゼルケーノ!





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る