第364話 火の国エキサイトツアー9 花の国を抜け火の輪くぐり入国様


「暑いな……」



 ペルセフォスで一番人気のリゾート地、ティービーチでの二時間の停車を利用し、俺達はお風呂施設に行った。


 行く直前にものすごい精神的ダメージを負ったが、俺はそんなことでヘコたれるレベルの童貞ではない。今でも思い出すと軽く涙が出るが、頑張って生きていこうと思う。


 つーか、ほとんど全てのフィーバータイムをアプティに見られていたのかよ。





 燃料補給とお風呂休憩を終えた列車はドンドンと南下をしていく。


 ティービーチあたりから緯度的に暑い地域に入ったので、もう上半身裸でも暑いぐらいの気温。ベスは暑かろうが寒かろうが、いつも元気。我が愛犬は無敵である。



 よし、女性陣も暑さで薄着になってきたぞ。


 ラビコなんて水着だし、アプティなんてバニー姿である。


 いや、この二人はいつもこの格好か。


 となると見るべき対象は、普段滅多に柔肌を見ることの出来ないロゼリィへと向く。


 ロゼリィはいつも肌の露出がほとんどない格好だからなぁ。


 旅先で暑いところに行くとやっと薄着が拝めるレアイベントである。このチャンスは絶対に逃せない。



「ん~? ね~社長~なんで部屋の冷房装置弱めてんの~? あっついんですけど~」


 水着魔女ラビコが列車内ロイヤル部屋の暑さに気付いたようだ。


 ロイヤル部屋には魔晶石で動く冷暖房装置が付いていて、ある程度温度をコントロール出来る。俺はその装置の前にどっかり座り、冷房の効き目をわざと弱めている。


「いいだろ、暑い地域なんだから、その暑さを楽しむのも旅だろ」


「ふ~ん……」


 ラビコが不満そうに口をつぐみ、じーっと俺を見てくる。


「そんな小細工しなくたって、ロゼリィに言えば普通に下着姿ぐらいなら見せてくれると思うけど~?」


 ぶっふ。わざと暑くしてロゼリィの薄着を拝もう作戦モロばれかよ……。


 なんでラビコってこう、俺の考えていることすぐに言い当てるんだ。


 ああ、そうか……それだけ俺が単純だってことか……。



「えっ……し、下着姿ですか!? そ、それは恥ずかしいです……せめて水着でしたら言ってくだされば……」


 俺とラビコの話を聞いていた白いワンピース姿のロゼリィが、もじもじと恥ずかしそうに身体を揺らす。うーん、くっそ可愛い。


 今度また海とかに行くことがあったら、間近で見せてもらおう。




 さて列車はティービーチを午前十時頃出て、半日後の夜二十二時に花の国フルフローラのビスブーケ駅を通過。


 ここも以前アンリーナの船で来たな。


 花の国は本当に美しい国で、街中がその名の通り花で溢れている素敵なところ。


 緑豊かな地域で、丘陵地帯となっているので風景がとても立体的。花畑や茶畑が重なるように見え、もう夜も遅いのだが、綺麗にライトアップされていてとても幻想的。


 日中の太陽降り注ぐ花畑もいいが、夜の暗闇にライトアップされた景色も趣がある。



 確か以前来た時にラビコが、王都フルフローラには夜になると淡くピンクに光る桜だかがあるとか言っていたな。ライトアップではなく、花自体が自然発光しているとか。


 元日本人として桜と聞いて黙ってはいられない。いつか絶対見に来てやるのさ。


 

 ロゼリィが花好きでこの国に来ると嬉しそうにするのだが、一番興奮して窓の外を見ているのは紅茶好きバニー娘アプティさん。


「……マスター、紅茶の生まれし聖地です。奇蹟の場所です」


 と、無表情ながらも興奮した様子で俺を窓際に引っ張っていく。


 ここは花の国だが、紅茶の世界的産地でもある。


 アンリーナのホテルやジゼリィ=アゼリィもここから紅茶を仕入れているぞ。ガウゴーシュ農園とグリン農園のみんなは元気かなぁ。


「……マスター、巡礼を……」


 すまんなアプティ、今回は止まることなく通過してしまうが、また観光で来ような。頭を撫で、過ぎ去っていく花の国フルフローラを悲しそうな目で見るアプティをなぐさめた。





 列車は海岸線をなぞるように南下。


 今日はもう寝るが、朝起きたらそこはもう火の国デゼルケーノらしい。


 来る前にさんざんラビコに煽られたが、さてどのくらい危険な場所なのか。あといい加減固いパンと茹でたカラフル豆以外の物が食いたい……。









「起っきろ~! 丸焼きになるぞ~! あっはは~」



 むぉぁ……な、なんだ……身体全体が急に重くなって、顔面に柔いものが……。


 目を開けるが真っ暗。


 なんだ? まだ夢でも見ているのか。


「……ん、なんだこれ……ってラビコが乗っかってんのかよ!」


 ソファーですやすや寝ていた俺の顔面に、水着魔女ががっつり覆いかぶさっていた。頬に当たる柔らかい物を無下に押し返す勇気は俺にはなく、ラビコと俺の身体の隙間から窓の外が見え……。



「うわっ! し、白い炎が……!」


 走る列車の窓から見えたのは噴き上がる白い炎。


 ゴツゴツした黒い岩肌の至る所から白い炎が勢い良く上がり、そのうちの何本かがこの魔晶列車の遥か上を飛び越え、海に向かってプロミネンスダイブ。


 まるで火の輪くぐり状態でこの魔晶列車が進んでいる。



「うわあああ! な、なんだここ……だ、大丈夫なのかラビコ」


 朝何時か知らんが、ちょっと寝起きなぶんマジで怯えた声が出てしまった。つか、普通に恐ろしい光景だって。


「あっはは~そんな怯えなくても~。たま~にアレが列車に直撃して大惨事になるけど、百年に一回クラスの確率さ~」


 って事故あったんかい! 


 列車でプロミネンス火の輪くぐりとか、素晴らしく異世界です! ありがとうございます!











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