第366話 火の国エキサイトツアー11 立地条件の厳しい街と恐怖のごはん様


 朝八時、火の国デゼルケーノのフォアジス駅に停車。


 魔晶列車の補給と、お客さん向けには朝休憩。


 天気快晴、クソ暑い。




「俺、降りたくないぞ」



 ここに来るまで、火の国の危険な状況を目の当たりにしたばっかだからな。


 砂漠に火山にマグマロード。おまけに地面のあちらこちらから噴き上がる白炎ときたもんだ。


 絶対に観光する場所じゃあない。



「十分間ぐらい停まるみたいね~。頑張れば少しぐらい街の雰囲気味わえるけど~?」


「いやだ。危険な上、少し動くだけでも汗かくような灼熱なんだぞ。十分間とか走って動かないとダメな時間配分になるだろ」


 ただ呼吸しているだけでじんわり汗をかくような温度。


 ラビコが窓の外を指して言うが、この状況で走ろうものならヘタしたら命に関わるぞ。火の国には入ったばかりで身体が慣れていなんだ。せめて一日はいないと、この暑さに身体がついていかない。



「あ~らら、すっかり怯えちゃって~あっはは~。まぁ火の国を味わうのは、目的地の王都デゼルケーノに取っておこうかね~。ちなみにここはフォアジスっていう街で~南にはちょっとした森があるのさ~。王都デゼルケーノの南側にも森があるけど、この国の環境じゃ~森でもないと街なんて発展しないのさ~」


 ほう、砂漠に火山に噴き上がる白炎の国といえど森はあるのか。


 ラビコにチラと地図を見せてもらったが、海岸線に沿って何箇所かに小さいながら森がある。


 この国の街は、火山や白炎の影響からなんとか逃れ生き残った森の側に作られているようだ。



「って、この国の街ってほとんど海岸線にしかないんだな」


「森が海の側にしか残ってないからね~自然とそうなるよ~。でも命知らずの冒険者によって開拓された内陸の街もあるのさ~」


 ラビコが地図を見ると、確かに内陸も内陸、砂漠のど真ん中や火山のすぐそばに小さいながら街の表記がある。


 なんでこんな場所に作ったんだよ……。


「成り立ちは大昔にロマンを求めた冒険者達が、まだ見ぬ財宝なんかを探しにいったときの拠点が発展して街に~って感じかね~。危険な場所なのに、未だに残っているのは~危険を推して行く価値があるからなのさ~。そういうところには大抵とってもいい温泉があるってね~あっはは~」


 ロマンを求めた冒険者の街、か。


 ちょっと面白そうだが、俺が危険地域に踏み入る理由にはならん。誰がいくか、そんなとこ。



 しかしいい温泉と聞いたロゼリィが、バチっと目を見開いて興味ありげにこちらを見てくる。


「……ど、どれぐらいの危険度なのでしょうか……?」


 うわ、ロゼリィがラビコに質問しだしたぞ。絶対いかねーってば。


「ん~私とアプティがいればなんとかなると思うけど~? 変態姫とか、ハイラがいれば余裕だね~だってあいつら飛べるし~」


 そうか、そういやラビコはキャベツ状態なら飛べるもんな。アプティも自慢の脚力を活かせば、結構な悪路や高低差だろうがビョンビョン跳んでいける。


 つーか、それぐらい人並み外れた能力ないと危険なのかよ。


 それ聞いて確信したが、絶対に行かない。


 すまんな、ロゼリィ。俺は大事な仲間をみすみす危険な場所には送り込めない。



「危険なとこにある温泉だからさ~静かでいいとこだよ~。人の手もあまり入っていない、自然な感じの作りでさ~大自然に開放的に入る感じかな~?」


 ラビコよ、大自然とは言うが、それは緑豊かな心安らぐ風景ではなく、生命の危険を感じる火山に砂漠に白炎なんだろ。


 命諦め入浴なんて、どんな見返りがあろうと入りたくはない。


 絶対に。


 絶対にだ。



「でさ~さすがに施設は整っていないから~着替える場所もない野ざらしで~しかもなんの仕切りもない男女混浴なのさ~あっはは~……」


「行こうラビコ。なにかあっても俺が守る」


 聞いたか紳士諸君。


 服を脱ぐところからお風呂に入るところまで、全て見ることが出来る……ではなくて、このデゼルケーノでしか味わえない野性味溢れる力強い風景を見て感じながら入る、逆に今生きていると実感出来る素晴らしい温泉があるそうだ。


 異世界の全てを見るには避けては通れないんじゃないかな、うん。


 え、手のひら返ってる? ああ、俺の手は常にくるっくるだ。



「ぶっふ……社長さ~セリフは格好いいけど~その何考えているかひと目で分かるニヤけた口元はどうにかならないのかい~?」


 おっと、つい少年の異世界への夢と期待とピュアな想いがビジュアルとして脳に鮮明に浮かんでしまったか。


 このR-18な想いをお見せ出来ないのが残念だ。



「じ、冗談だって。街付近でもこの危険度の高さなのに、わざわざ危険度メーター振り切れている内陸にはそうそう行かねーって。混浴ならもっと安全な場所にもある」


 もちろん、もちろん冗談だとも。


 ちょっとマジで危険な国なので、皆のテンションが下がっていないか心配して言った、場を盛り上げるための自己犠牲精神である。紳士諸君には伝わっていただろうがね……ね?



 アホなトークで十分間が過ぎ、列車が動き出す。


 チラと街の様子を見るが、地面は一面砂。あちこちから白い炎が噴き上がっているが、歩いている人のほとんどが気にもしていない様子。


 マジで日常の光景なのかよ、これ。



 服装も他の国とは違い、灼熱の太陽を緩和するためか、帽子やフードをかぶっている人がほとんど。あとやたらにゴツイ格好をした冒険者が多い。どう見ても高レベル系。


 俺みたいな都会育ちのもやしっ子が長生き出来る場所じゃないぞ、ここ。




 朝ご飯は駅に降りなかったので、車内販売所特製不必要に固くしたパン。アプティが気を利かしてか自分の為か、ソルートンから持ってきてくれた紅茶がなければ食えたもんじゃねぇ。



「あ~夜二十二時にはデゼルケーノに着くけど~砂混じりじゃないパンを食べられるのもあとお昼の一回だけか~。みんなトカゲとカエルを食べる覚悟はついたんだよね~? あっはは~」


 ラビコがパンをひょいっと食べきり、俺達に不気味な笑みを浮かべてくる。


 え、それあれだろ。まーたラビコお得意の大げさ表現でピュアメン俺をビビらせよう作戦だろ?


「ま~目を閉じて食べれば鶏肉っぽいかな~。今食べている物の形を一瞬でも想像したら負けだね~あっはは~」


 や、やめろよ……マジなのか、それ。美味しくないのは慣れたが、形とか……。


 俺とロゼリィが目を見合わせブルブルと震え出す。



 街中に噴き上がる白炎もアレだが、必ず食べるご飯はリアルに恐怖を感じるぞ、デゼルケーノ……。









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