第358話 火の国エキサイトツアー3 デゼルケーノ食べ物事情様
「いいですか、そういうものが無い方がより心は豊かになるのです。ですが欲を無理矢理押さえ込んでいたら、いつか爆発してしまいます。そういう時は本に頼らず私のところに来ていただければ……」
ローエンさん、ジゼリィさん他、イケメンボイス兄さんや正社員五人娘に見送られ宿を出る。
早朝六時。
ソルートン北側の馬車乗り場を出発。
いつもの高級五頭立てサスペンション付き酔わない馬車。値段はお高いが、乗り心地はこれが一番いいんだ。
お昼休憩の宿場までノンストップでロゼリィの説教を受ける。
ああああ、早くいつもの宿場つかねーかな……。
「うん、これこれ。いつ来ても変わらない薄い豆スープと固いパン。ソルートンを出たって感じだ」
昼休憩の宿場に着き、お説教から無事解放され、いつものランチメニュー。
ソルートンから魔晶列車に乗ろうと思ったら、まず馬車で半日かけてフォレステイという街に行かないとならない。
途中で必ずお昼休憩で止まる場所に宿場が集まっているのだが、俺達はいつも同じお店でお昼をいただく。なんかもうクセになってな、この味。
あ、美味しくはないぞ。
ダシも効いているんだか効いていないんだかのうっすい塩スープに、固い豆が数粒浮いているのみ。パンはこのスープないと固くて噛めないレベル。
もはや岩。
でもこのなんとか工夫して食べる感じが、適度な満足感を得られるというか……。
バランス調整失敗したまま実装されたゲームイベントを、文句言いながらなんとか試行錯誤を繰り返してクリアするあの感じ。
店員のおばちゃんにも顔を覚えられ、いつもの、で通じるようになっていた。
足元で愛犬ベスがリンゴを雑に頬張っているが、それこの中で一番美味しいやつなんだぞ。
「社長さ~……奢ってもらっておいてなんだけど~当時はお金が無かったから選択肢がなかったで納得出来るけどさ~、今社長お金あるじゃん。なんでこれ……」
右に座った水着魔女、ラビコがブツブツ言いながらスープをすする。基本、旅では俺が全てお金を出す。俺の目的に付き合ってもらうわけだからな。
確かに他の、もうちょっとお高いお店に行けば、茹でた芋みたいのとかがある。
素材まんまだが、変に調理しないほうがこの異世界はご飯が美味しいとかいう謎の逆転現象が起きるんだよな。
「なんだラビコ。お前は世界を巡った冒険者なんだろ? こんなのまだマシなほうとか以前言ってたろ」
「いやまぁコレは見た目がグロくないからマシなんだけど~デゼルケーノに行く前に、せめてペルセフォスでは美味しいの食べておきたいな~と思ってさ~」
そういやデゼルケーノってご飯マズイんだっけ。
「火の国デゼルケーノは~トカゲやらカエルやらヘビの丸焼きとかさ~魚の目玉料理とか~覚悟しとくんだね~あっはは~」
う……味はともかく、見た目グロ系はさすがに苦手だぞ。
左隣りのロゼリィも、それを聞いて顔が青ざめる。正面のアプティは、基本紅茶とアップルパイ以外に興味はないご様子。
生きる為だけに食うご飯が終わり、馬車はフォレステイへと向かう。
「見えたね~フォレステイだよ~」
出発から十二時間後の午後六時過ぎ、俺達は魔晶列車の東側終着駅がある街へ到着。駅から見える巨大な石造りの倉庫群が印象深い。
馬車を降り、日も落ちオレンジの魔晶石ランプが灯る街中を歩く。
台車にうず高く積まれた荷物を運んでいる人がたくさんいるなぁ。ソルートンは海の物流がすごいが、ここは陸の物流が動いていると感じる街だ。
この街は木材の商売で成り立っているところで、街中に木の香りがする。
街の南側に広大な森が広がっていて、そこから木を伐採し、加工し販売している。家具とか木製食器とかのお店がよくあるな。ゆっくり見て回ったら結構楽しそう。
「そういえばラビコ。ローエンさんが言っていたが、デゼルケーノは武器とか防具も売っているとか」
ここは木材の本場だが、デゼルケーノは金属の本場らしい。
ソルートンや王都ペルセフォスでも普通に武器は売っているが、本場はそりゃーすごい物が売っていそうだぞ。
「ん~? ああ、あるよ~。デゼルケーノは過酷な場所だからさ~求められる冒険者のレベルも高いのさ~。金属加工の本場でもあるし、レベルの高い冒険者が集まる国だから、当然世界最高レベルの逸品が揃っているよ~。ま、社長は装備出来ないだろうけど~あっはは~」
高レベル冒険者が集まる国……。なんかすごそうだぞ、デゼルケーノ。
装備は出来なくても、コレクションとしてザ・勇者みたいな装備が欲しいな。コスプレじゃない本物が買えるんだろ?
ちょっと厨二心が踊る国だな、デゼルケーノ。
勇者装備が買えるのなら、毎日丸焼きヤモリも我慢出来そうだ。
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