第357話 火の国エキサイトツアー2 職人の国と予備のエロ本様


「デゼルケーノは火の国と呼ばれていて~火山に砂漠に温泉ってのが有名なんだけど~もう一個呼ばれ方があって、それは職人の国って言うんだ~」




 ラビコは過去に行ったことがあるらしく、詳しく色々教えてくれた。


 でも怖がる俺達をからかう意味で大げさに言ってみたり、ちょっとウソも混ぜたそうだ。行ったことがないので、どれが本当で、どれが大げさに言ったウソかは分からないが。




「デゼルケーノはそこらじゅうで火柱があがっているからさ~それを使って金属加工が盛んに行われているんだよね~」


 その辺で噴き上がっている火柱を利用して金属加工。


 ようするに、金属を溶かすレベルの温度の火柱が街中にもれなく噴き上がっている、と。やっぱ危険地域じゃねーか。


「質のいい火が簡単に手に入るから世界中から職人が集まってきて~気がつけば職人だらけの街が出来て、まとめ上げたのが火の国デゼルケーノってことだね~」


 職人の国、か。なるほど、だからその国ならカメラとかが安く買えるのか。


「荒廃した土地に火山しか無い国だからさ~温泉を充実させて観光客を獲得して~金属加工で作った物を海外に売ることで成り立っているのさ~。鉱石も取れるけど、あまり輸出はしていないね~。自分達で使う金属が足りないぐらいな状況らしいよ~あっはは~」


 物づくりが盛んな国か。


 色んな金属製品や、魔晶石を使って動くアイテムの本場。それはちょっと楽しそうだぞ。なんか電気街っぽい雰囲気を想像してしまう。


 街中に普通に火柱が噴き上がっている電気街。


 ……やっぱ想像できねーわ。


 それ、ゲーム予約特典のポスターとかどうやって持ち帰るんだよ。燃えないように火柱を上手く避けて帰りましょう、ってもうそれがゲームじゃねーか。しかもリアルデスゲーム。



 とりあえず街から出ないで、ラビコの後ろ歩いてりゃ大丈夫なんだろ。


 カメラ買って、女性陣の入浴シーンを撮ったらすぐ帰ろう。







 ──翌日、早朝五時過ぎ宿屋前。眠い。



「デゼルケーノかぁ。危険だけど、楽しい場所だったなぁ。機械とか、武器とか防具とかの製造有名会社がたくさんあるんだよ」


 宿のオーナーであられるロゼリィのお父様、ローエンさんがわざわざ見送りをしてくれた。そうか、ローエンさんもルナリアの勇者メンバーだから、ラビコと一緒にあちこち行ったんだもんな。


「しっかし動きが早いな、あんたは。宿の増築が終わったと思ったら、今度はデゼルケーノかい。まぁ動きがトロいうちの娘にはちょうどいいのかもね。その調子でさっさとロゼリィと子供作るんだよ」


 ローエンさんの奥様ジゼリィさんもいるのだが、これからちょっと危険な国に旅立つ若者にかける言葉じゃないんじゃないですかね、それ。早朝だし。


 子供って……。


 娘であるロゼリィが真っ赤な顔でうつ向いてしまったぞ。



「あっはは~私が側にいる限りそれは絶対にないね~。最悪力ずくで社長は私のモノにしてみせるよ~」


「まさかラビコが本気で惚れる男が現れるとはねぇ。うちの娘とかぶってなきゃ昔のよしみで応援してやるってもんだが、悪いが自分の子供を優先させてもらうよ。腕力は無いが、うちの娘の想う力はラビコの魔力に勝るのさ。痛い目見ないうちに尻尾巻いて撤退してもらいたいね」


 元ルナリアの勇者メンバー、大魔法使いラビコと守りの要ジゼリィさんが本気の睨み合い。マジ怖い……。


 こんなもんの間に入れる奴は、そのパーティーのリーダーだったルナリアの勇者本人だけだろ。



「やめとけラビコ。行く前に揉め事起こすなっての」


「ほらジゼリィ、若者の旅立ちは笑顔で送ろうじゃないか」


 両方は無理だが、頭を撫でることでラビコだけならなんとか。ローエンさんと目を合わせ、無言でうなずき合いジゼリィさんを止めてもらう。


「ちぇ~はいはい分かりましたよ~っと。まぁ、この田舎宿から出てしまえばこっちにはいくらでもチャンスはあるし~あっはは~」


「全く、ローエンはいつも甘いんだよ。こういうのは子供作ったモン勝ちなんだって」


 うーん、二人共止まらないわ。


 あと毎回思うが、ジゼリィさんはそうやってローエンさんをモノにしたんだろうな……。


 ロゼリィの優しい性格はお父さん似ってことかな。怒るとジゼリィさん並の迫力だけど。うん、見事にハイブリットだわ。



「……マスター、本をお持ちしました」


 バニー姿のアプティが背後から俺の尻を軽く触ってくる。ああ、すまないアプティ……けどなんでいつもお尻……。


 ラビコに聞くと、魔晶列車での移動になるのでペルセフォス王都経由になるとか。


 行きはそのまま通過するが、帰りは降りてカフェの状況を見ていこう。


 そのついでに本を持っていって、サーズ姫様に持ち主探しの進展を聞いてみようと思ってな。



 そういや俺も探してみるとか言ったけど、全然探してないや。


 ヒントが少なすぎなんだって……サーチタグが見た目魔法使いっぽい女性、のみだしな。


 国同士の問題になったら面倒だからと俺が預かっているオウセントマリアリブラ。


 魔法の国セレスティアの国宝。こんな扱いに困る物、さっさと持ち主に返したい。



 ……まてよ、オウセントマリアリブラがなくなったら、俺の部屋の飾り棚に置いてある本が一冊になってしまうな。


 それは大変バランスが悪い。あの棚はちょうど二冊でしっくりくる大きさだしな。


 よかった……こんな大事なことに気付けた俺ってすごい。


 これは代わりの本を探さねばならないな。


 まずは火の国デゼルケーノでサーチ。心に刺さるものがなければペルセフォス王都で探してみよう。


 王都はあれだけの人口を誇る巨大都市。エロ本なんてもう選び放題買い放題に違いない。


 俺の部屋に飾る至高のエロ本購入。よし、これはカメラにも勝る大事な目的だ。



 エロ本が二冊もあれば俺の心にも余裕が出来、より大人紳士に近付けるはず。うん、エロ本の予備がある人生って素晴らしいと思う。目指せ左うちわ。



「よし、いざ行こう火の国デゼルケーノ。多種多様のエロ本が待っている!」


 俺が格好良く火の国の方向の南を指すが、メンバーである女性陣が怪訝な顔。


「ん~? なんだいエロ本って~」


「……マスター?」


「……まさか部屋の本、増やすおつもりですか? ふふ」


 ああ、言っちゃった。


 ラビコとアプティは大丈夫そうだが、ロゼリィがエスパー並の洞察力で俺の心を読んだようだ。



「ふふ、ふふふ」


 その優しい笑顔が……怖い──







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