第352話 魔法アイテムショップとカメラに詳しい女性様
魔晶石を利用したアイテムの販売を手がける高級店、デュアメロディ。
それがこのお店の名前だそうだ。
魔晶石ランプから暖房設備、コンロに冷蔵庫。さらには魔晶石を利用した武器なんかも取り扱っているとか。専門店ではなく、手広く揃えた総合ショップという雰囲気。
なんにせよ、値段がお高い。
可能性を秘めたエロにならいくらでも出せるが、照明機器や使ったことのない銃に百万円は出せん。
「へ、へぇ、これはいい物ですね。伝わってくる圧倒的なパワー、小物の僕にはとてもじゃないけど扱えなさそうだ……はは」
俺は慌てて誤魔化し、持ってきてくれた銃をお断りする。
「そうですかぁ。確かにまだまだ新規カテゴリーの状態なので、なかなか万人に扱える物じゃないのが難点なんですよー。お兄さんは冒険者なのかな? いつかこれを自在に扱えるときがくることを信じていますー」
女性店員さんがさっきの営業スマイルで答えてくれる。
この人いい人だぞ……これは……入ったからには何か買わないといけないような感じに思えてきた。うん、これがセールストークってやつか。
一瞬とはいえその気にさせられたし、適当に安い物でも買ってお店を出るか。
「うーん、うーん……」
他のお客さんに迷惑がかからないようにベスを抱き、コンビニぐらいの大きさの店内をぐるぐると見て回るが、本当に高い。安くて千G、十万円かぁ。
アンティーク調のベッドサイドランプみたいのが唯一、買っても使いそうではあるが。
「あれ、カメラがある」
ランプ売り場の奥に何台か綺麗な装飾の施されたカメラが売っている。
そういやあったな、カメラ。
ジゼリィさんが一台持っているのと、ペルセフォス王国のお姫様であられるサーズ姫様が持っていたな。相当の高級品とか聞いたが、いくらぐらいなんだろうか。
そっと近付き値段を見てみる。
「い、一万G……」
最低でも一万G、百万円。
お高い物は五万Gとかする……五百万円だぞ、五百万円。なんとなく立ち寄ったお店で気軽に買える値段じゃねーって。
待てよ、俺。
ラッキーなことに、俺の周りには結構な美人様がたくさんいらっしゃる。そういやあちこち旅をしていると、結構な頻度で柔肌シャッターチャンスがあったな。
今まではこの目にじっくり焼き付けていたが、カメラがあれば写真として形で残せるってことじゃないか。ロゼリィの裸……それには値段なんてつけられない。それを撮れるのなら、百万円なんてはした金なんじゃないか。
まぁ……実際撮ったら犯罪だし、俺の若さが暴走でもしなければやらないとは思うが。……思うが、未来のことなんて誰にも分からないものさ。
「でも旅の思い出を撮るっていう健全モードでは使えるか。しかし一万G、ねぇ」
「あー、これな。装飾の分が値段に乗っかっちまってっからな。見た目とか気にしねーんなら、他国の専門店とか行ってみ? もうちょい安いモデルあったぞ」
俺が一番安いモデルを手に取ろうとしたら、横に女性がスッと入ってきた。
店員さんではない、見たことのない女性。同い年ぐらいか?
さっきの女性店員さんは他のお金持ち紳士のほうの相談に乗っている。冷蔵庫買うのか、あの紳士。
「よう。ちーっす」
横に並んだ女性がチラと俺の顔を見てニヤーっと笑い、右手を挙げ挨拶をしてきた。
はて、誰だろうか。随分軽いノリだが。
魔法使いのような黒いフード付きローブを羽織り、肌の露出多めのパンク風の格好。
背中には杖があり、チラッと見える腰のベルトがやけにゴツイ。頭にこれまたゴツイゴーグルを付け、髪はセミロングぐらいで、一部が長かったりしている。自分で切っているのか、ボッサボサの髪で、お世辞にも手入れが行き届いているようには見えない。
美人さんなのにもったいないなぁ。
「ち、ちーっす……お詳しいんですね……」
とりあえず適当に返事。
「あー? 詳しいってかよ、あっちこち見てきた経験の差じゃね」
あっちこち。まぁどう見ても冒険者な格好だしな。
各地を転々とする流浪の冒険者さんなのか。歳近そうなのにすごいな。
なんか口は悪いが、ちょっと格好いい。
「経験の情報ですか、すごいなぁ。僕もこの世界の全てを見たいと思っているんで憧れます、そういうの」
「……ぶっ……ニャッハハ! この世界の全て……! この街この地方、この国あの国じゃなくて、いきなりこの世界の全てと来やがったか!」
に、にゃ? 女性が堪えきれない感じで大げさに笑う。
そんな変なこと言ったか、俺。そういやラビコもこれ言うと、驚いたように笑うんだよな。
なんというか、この人ヤンキーっぽい。
「ニャハハ……ニッヒヒ……あー腹いてぇ。すっげぇな、お前。いきなり世界とか普段の視野の広さやべぇって! これが凡人とのレベルの違いってやつか? 本人は剣も使えなければ、魔法も一切使えねぇ。たいして強くねぇくせに、なぜか周りに実力者が集まるときた。この図式を成り立たせてよ、保つ方法が知りてーなぁ。王の眼の持ち主だからとか、そんなつっまんねー理由じゃねーとアタシは思っているんだ、ってこの子が噂のベスか! コイツ、困り眉毛がかっわいいじゃねぇか。ニャハハ!」
急に饒舌に喋り始めたと思ったら、まるで俺のことを側で見ていたかのように語り始めたぞ。豪快に笑いながら、俺が胸に抱えている愛犬ベスの頭を撫でてくる。
随分俺のことに詳しいが、警戒したほうが……いいのか?
しかし撫でられているベスは普通にしているな。
「ニャッハハ、あー……もっと話してぇけどよ、保護者っぽい面倒な奴が来たから去るわ。んじゃっ、またな英雄さん……ニャハハ!」
そう言うと、女性は慌ててフードをかぶり顔を隠しお店を出ていった。
よく見たらフードに猫耳の飾りがついてんのな。
全くもって誰だか知らんが、俺が今日知り得た情報はキチンとある。俺だってバカじゃない。
ちゃんと人は見ているつもりだぞ。
──ああ、彼女は猫派、だ。
「英雄さん……」
しかし俺のことを英雄さんと言ったな。どこかでそう呼ばれたことがあったような……。
「あ~いたいた~社長ってばこ~んなお店に来てたのか~。一人でこそこそと出かけていったからラビコさんすぐに閃いたね、これはエロ本屋に行ったってね……あっはは! それで~ここはエロ本屋以上に社長の心をつかむ熱い場所なのかい~?」
猫耳フードの女性が出ていったあと、お店で棒立ちで考え込んでいたら、ラビコが右腕に絡んできた。
俺が一人で出かけたら必ずエロ絡みなのかよ。
健全にベスの散歩だっての。
散歩のついでに確かにエロ本屋に行こうと試みたが、寸前で切り返して新たなエデンの誕生を祝いに来てみただけだっての。
そしてここはエロじゃなくて、魔晶石アイテムのお店でしたってさ。俺、ガックリ。
「ベスの散歩だよ。ついでに新規開店のお店があったから興味で寄ってみただけだよ」
「ふ~ん? ま~エロ本屋に行きましたなんてバレたら~ロゼリィが怖いからね~あっはは~」
ロゼリィはマジでエロに厳しいからなぁ。俺はもっとエロに溢れた異世界生活を満喫したいんだが。
「新しく出来たお店って~デュアメロか~。あっちこちの国でお店だしてる有名店だね~。物はいいんだけど~結構高額なお店かな~。多ジャンルの魔晶石アイテムを手広く販売しているお店だから、とりあえず見たい人にはいいお店さ~」
ラビコがキョロキョロとお店を見渡し言う。なんだ、知名度のあるお店だったのか。
「確かにちょっと高いな。でもさっき詳しそうな人から、カメラとか他国の専門店に行けばもっと安いのあるとか聞いたが……」
「あるよ~。なんだい、社長はカメラが欲しいのかい~? あ~分かった、私達のエロい写真を撮りたいんだな~?」
見事に言い当てられ、俺は黙る。
なんで瞬時に分かるんだよ、この魔女は。
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