第353話 俺の時代と無限に湧く欲の塊様


「ベスッ!」


「きゃーベスちゃんよー!」



 ソルートン中心街に新規開店していたお店から宿ジゼリィ=アゼリィに戻り、入り口横に新たに作った足湯に愛犬ベスを解き放つ。


 ベスが足湯をロックオン。


 勢いよくダイブを決め、足湯を楽しんでいたお客さんにしぶきがかかるが、なぜか皆喜んでいる。


 何やらベスの足湯ダイブに居合わせられるのは運がいい=幸運を授かれるという図式がいつの間にか出来た模様。


 好評なのでたまにこうしてベスを解き放つが、結構なしぶきなので、嫌な人は端っこに座ってくれ。いつも入り口近くにダイブするので、反対側にいれば大丈夫だぞ。


 誰でも無料で使える足湯だが、飲み食い禁止だったりベスダイブなどの注意書きがあるので、看板をしっかり見て存分に利用して欲しい。


 あわよくば店内でお食事やお風呂などをどうぞ。





 結局魔法アイテムショップでは何も買わずお店を出た。だって高いし……。


 宿内に入り、いつもの席に座る。



 リニューアル後、一階食堂中央に魅せるステージを作り、神の料理人であるイケメンボイス兄さんの華麗な作業姿を見れるようになった。


 これがまた好評で、美味しい料理が出来上がる過程が間近で見られると、主に女性受けがすごいときた。


 お客さんである女性に話しかけられている姿を何度も見るが、イケボ兄さんちょっと嬉しそう。今までは外から見えない厨房での作業で、あまりお客さんと話す機会がなかっただろうしなぁ。


 そういや兄さんって何歳なのかね。


 独身らしいが、見た感じ……三十歳あたりだろうか。普段あまり女っ気を感じないが、今すごいモテている。これをキッカケにいい人が見つかって結婚とかなったら、俺もすごい嬉しいぞ。


 兄さんにはお世話になっているし、ぜひ幸せになって欲しい。



「お待たせ……隊長……本日のランチ、二色シチューセット……」


 華麗な手さばきな兄さんの料理ショーをぼーっと見ていたら、正社員五人娘の一人アランスが注文したランチセットを持ってきてくれた。


 ホワイトシチューにビーフシチュー、これがハーフサイズで両方楽しめる贅沢メニューだ。


「うっは~、白と黒どっちのシチューにパンをつけるか迷っちゃうね~あっはは~」


 右隣りに座った水着魔女ラビコが笑顔でパンをちぎり、最初に味わうシチューを迷っている。俺はホワイトから行く気分かな。



「それでラビコ、カメラを安く買える街なり国はどこにあるんだ?」


 俺が迷わずホワイトシチューに手を付けながらラビコに聞く。うん、軽くチーズが入っているのか。いつもながら兄さんの料理は美味い。


「ん~? てゆ~かさ、その情報誰から聞いたのさ~」


 同じくホワイトシチューからいくと決めたラビコが怪訝な顔で見てくる。


「誰って、お店に偶然居合わせた人だけど」



 そういや誰だったのかね、彼女。


 やけに俺のことに詳しかったけど、まさか俺の熱烈な追っかけファンとか……! ないな。街で出回っている俺の噂とか酷いもんだしな。


 いや、アプティの言葉を思い出せ。


 俺の下半身のマグナムは万人を惹き付ける、とか言っていたじゃないか。


 もしかしたら俺の異世界でのチート能力がそれなのかもしれない……!


 そうか、いきなり使えるわけではなく、時間が経つと発動するスキル。そういう長時間ディレイタイムありのスキルって大抵強力なやつじゃないか!


 ついに俺の時代が来た。


 俺は股間で異世界を無双する。


 なんかすでにありそうなタイトルだな。あるなら俺は読むぞ。ぜひ完結まで自信を持って書いて欲しい。



「偶然、ね~……ま、いいけど~。第一本妻として多少の愛人は許すけど~ちゃんと報告するようにね~」


 ラビコがちょっとムスっとした顔で言う。


 なんだよ第一本妻って。つーか、なんで女性だったって分かるんだよ。



「お待たせいたしました! 紅茶ポットです!」


 ラビコと話しながら、せっかくの美味しいシチューが冷めないようにズルズルすすっていたら、形を成した怒気の込もったオーラが俺の左隣りに着席した。


「いいですかラビコ、第一は私です。なにせ出会ったのは私が一番最初で、付き合いの探さも仲の良さもトップだからです。というか、第一もなにも妻は私一人……」


「キス、したことある~? あれれ~第一を名乗るならそれぐらいあるよね~? え、ないの~? プッ、子供じゃあるまいし~悪いけど社長はもう底知れない肉欲の塊の男なんだよね~。言わば歩く性欲の塊、歩く性犯罪者、その毎秒ごと湧いてくるマグマのような性欲をキッチリ満足させてあげられるのが正妻の条件なんだよね~あっはは~」


 左に座ったこの宿の一人娘、怒りのロゼリィの言葉の途中でラビコが火に油を注ぐ煽り。


 ああ、こういう言葉の応酬はラビコに勝てるやつはそういないと思う。


 あと俺がいつの間にか性犯罪者になっているんだが。


 確かに性欲は毎秒ごとに湧いてきているが、ちょっと言い過ぎじゃ。ちゃんとこっそり一人でしているし、世間様にご迷惑はおかけしていないと思うんです。たまにアプティの視線を感じるが、もう気にしていられない。



「き、き、き……キスはない、です、けど……で、でも今すれば同等……! ぅえぇぇえええい!」


 ラビコの言葉に動揺したロゼリィが、奇声を上げながらカマキリみたいなポーズで俺に襲いかかってくる。


 お、落ち着けロゼリィ! ぐはっ、顔に大きなお胸様が当たる……。


「あっはは……あっはははは~! あ~おっもしろ~い……あははは! ほら社長~今ならロゼリィの胸を触っても怒られないかもよ~? いけいけ~あっはは」


 煽った本人であるラビコが、ロゼリィに突如襲われる俺の姿を見て大爆笑。



 そうか、これはラビコからのプレゼント。


 俺にロゼリィの大きなお胸様を触れるチャンスをくれた、というわけか! って、それこそラビコの思うツボ。


 俺は紳士だ、触るなら正々堂々許可を頂いてから思いっきり楽しみたいです。こんな混み合う食堂じゃなくて、俺の部屋で。




 つーかラビコのせいで話が前に進んでねーじゃねーか。


 早くロゼリィの裸を鮮明に高解像度で撮れるカメラが買える場所を教えてくれよ!



 ──ああ、この思考パターン……俺、性犯罪者だわ。








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