第351話 第二のエデンで高級エロを様


「お、なんだあの人だかり」



 もう樹木が紅葉し始める季節。


 朝食を終えた俺は、愛犬ベスと散歩に出かけた。




 自然と足が向くのは健全だと公園とか港方向なのだが、下心ありだとこちらに来てしまうな。


 港街ソルートンの中心にある高級商店街がある方向。


 その手前あたりにある路地。宿ジゼリィ=アゼリィから中心街に向かうには、ちょうど近道になるんだ。


 この狭く怪しい雰囲気の道の先には、男達のパラダイスであり聖地であるエロ本屋さんがある。


 何度かアタックしてみたが、結局一度も入ったことのない桃源郷。



 以前アプティが自分でお金を稼いで俺にプレゼントを贈ってくれたが、中身はここのエロ本屋さんのエロ本だったな。


 なんで男の俺より女性のアプティが先にエデンの園に入ってんだよ、と。


 貰ったエロ本は、宿リニューアル時に作った俺の部屋の飾り棚に置いてある。ああ、一度も開いてじっくり読んだことはない。


 興味ないのかって? バカ言え、読めるんなら今すぐにでも熟読するっての。美しい裸様の横に書いてある意味不明なポエムだって暗記出来るほどにな。


 でも……読めないんだ。


 だって仕方ないだろう、ロゼリィによって紐で頑丈に結ばれているのだから。


 封印を解こうものなら、鬼のオーラを放つロゼリィに朝までコースで説教されるんだよ。それだけはどうしても避けたい。こえーし。



 一瞬、なにもかも忘れて奇声あげながらエロ本屋さんに突撃入店してやろうかな、と思ったがやめた。


 ブラックリストにされて、入店禁止にされたらたまらん。俺だっていつかエデンにあるという実を食べてみたいんだ。


 以前、エロ本屋さんの前でセレサとオリーブに遭遇したこともあるし、うかつに近付くのはやめておこう。




 後ろ髪を引かれる思いを振り切りそのまま中心街のほうへ行くと、なんだか人だかりが出来ている。



「新規開店デュアメロディ本日オープン! さぁ見ていって損はないよー!」



 よく見ると、人だかりの中心に小奇麗な恰好をした女性がいて、なにやら宣伝チラシを配っている。その後ろには、確かに派手に装飾されたお店があるな。見たことのないお店だ。


 ちょっと遠くから見ていたが、人が多く集まりチラシを受け取りはするものの、すぐにバツが悪そうにその場から離れていく人がほとんど。


「……もしや……エロいお店か……?」


 俺は急に興味が湧いてダッシュで近付く。


 第二の聖地になるやもしれん、エデン誕生の瞬間に立ち会えるとか最高じゃないか。



「お、犬連れたお兄さん、さぁ見ていってくれ!」


 店員と思われるお姉さんに近付くと、パっと俺に笑顔を向けてきた。


 うん、素晴らしい営業スマイルだ。でもエロいお店なら、もっと静かに宣伝したほうがいいと思うんだが。


 あと女性店員さんがいると、俺みたいな臆病君は買いにくい。


 笑顔で渡されたチラシをワクワクしながら見ると、そこにエロいワードは微塵もなく、とんでもない値段が表記してあった。


「千Gに、い、一万G……な、なんだこのボッタクリ……」


 俺は慌てて口を塞ぎ、チラシに書かれた値段を再度確認する。


 何度見ても千Gとか一万Gの値段設定の商品が売られている。


 千Gって俺感覚で十万円、一万Gって百万円だぞ。


 商品名だけじゃ何が売っているか分からんが、この値段見たら普通の人は逃げていくわな。



 しかし……懸念すべきは、その値段に見合うエロい商品だった場合、だ。



 百万円のエロい商品とか全く想像つかないが、それは俺の人生経験が浅いからだろう。


 俺が目指す格好いい紳士なら、きっと瞬時にそれを理解し、落ち着いた動作で迷わず一括購入しているはずだ。


 俺はまだまだガキで、精神はなかなかその域には達せていないが、お金ならあるんだ。


 宿ジゼリィ=アゼリィの増築でソルートン側にあるお金はかなり使ってしまったが、それでもまだ残っている。それに俺はジゼリィ=アゼリィの正社員で、毎月結構なお金を頂けているし。




「あの……その、この一万Gの商品はどういう気分が味わえるのでしょうか……」


 俺はモジモジしながらも、勇気を持って小声で百万エロの詳細を聞いてみた。


「お、いい角度の質問だねお兄さん。もしかしてこれ系の愛好者かい? そうだねぇ、今までに感じたことのない衝撃と開放感、かねぇ。さらに言うなら、貯まっていたものを一気にぶち撒ける一瞬の快感とその手に響く充足感、ってとこかな!」


 俺は言葉を失った。


 今までに感じたことのない衝撃と開放感が体を突き抜け、それとともに貯まっていたもの一気にぶち撒ける一瞬の快感と手に伝わる充足感……だと? 


 すごい……すごいぞ! そんな物がこの世界にはあるのか! 


 良かった……異世界に来れて良かった。そんなエロい物が売っているのか……それもうエロ本いらないじゃないか!


 買おう、それ買おう。きっと俺に必要な物はそれなんだと思う。


 俺ももう十六歳、大人の階段を登り始めてもいい頃合いだと思うんだ。


「そ、それ……み、見せて下さい!」




 店内に入ると、出来たばっかりという雰囲気となんとなく塗料の匂いがする。


 チラっと見渡すと、色んな種類の商品がたくさん並んでいる。


 アンティーク調のランプだったり、送風機みたいな物とか。


 多分、ランプを灯すとエロいヴィジョンが次々と頭に浮かび、目から入ってくる光の刺激で恍惚の気分になれるに違いない。


 送風機っぽいのは……とてもエロい風を全身で感じられるんじゃないかな。


 奥にあるのは……あれ、見たことあるぞ。


 ジゼリィ=アゼリィにもこないだ導入した魔晶石コンロっぽい物が見える。壁際に並んでいる巨大な箱は……これ魔晶冷蔵庫、か? 


 あれ? よく見たらエロい物が一個も置いていないぞ。



「お待たせいたしました。こちらがご注文のネロアルージという魔晶銃になります!」


 さきほどの女性が笑顔で奥から持ってきてくれたのは、黒光りする銃。



 え、あれ、おかしいぞ……じゅ、銃? 


 全身を突き抜ける百万エロは?


 

 つか、こっちの世界に銃ってあるんかい。







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