第332話 ジゼリィ=アゼリィ本店増築 4 ロゼリィの決意と部屋の場所様


「ふーむ」



 ラビコに聞く限り、魔晶列車が通っていない内陸は結構危険な場所だと分かった。


 別に今すぐに行くわけではいないが、その時にはロゼリィは……連れていかないほうがいいよな……。冒険者じゃないロゼリィを、俺のわがままで危険な場所に連れ歩くわけにはいかんし。


 砂漠に火山はさすがになぁ……。



「……あなたが何を考えているか分かっちゃいました。私ついていきますよ、どこだろうと」


 真剣な顔で唸っていたら、左隣りに座っていたロゼリィがじっと俺の目を見てくる。



「手の届かない遠くであなたの心配をしたくない……心配するならあなたの横で、一番近くにいたいです。危険な場所なら尚の事、私はあなたの側にいたい……どんなときでも私はあなたと一緒にいたいです」



 ぐっと俺の腕を掴み、決意した顔でロゼリィが言う。


 俺を想ってくれる気持ちは嬉しいが……。



「し、しかし危険な……」


「あっはは~諦めなよ社長~。ロゼリィって結構頑固だし~言い出したら聞かないよ~」


 俺のセリフにラビコがかぶせてくる。



「それにさ、大事な人を送り出して帰って来なかった……なんてなったらさ、それからずっと後悔することになるのさ~。あの人がいない、もう帰ってこない……こんなことなら、あのとき一緒に行けば良かった~ってね……。大事な人と一緒に生き、命尽きるなら、その人の側で終わりを迎えたい。そういう決意さ~」


 決意、か。


 そうか、そこまで想ってくれているのなら、俺はそれに応えねばならないな。



「分かった。俺はこの世界の全てを見たい、そう思っている。その考えを曲げるつもりもないし、諦めもしない。叶えるには当然危険が伴うことになるが、俺はその道を歩む。こんなワガママな考えに誰かを巻き込むことはおかしな話だが、それでもついて来てくれるというのなら、俺はとても嬉しい」


 俺はロゼリィの頭を優しく撫でる。


「共に歩んでくれる人がいてくれるなんて、俺は幸せ者だ。そしてラビコ、その永遠の美肌の湯ってのは混浴なのだろうか。同じ方向を向いてくれる仲間と共に入る風呂なんて最高じゃ……いてって!」


 仲間と共に危険を乗り越え、笑いながら入るお風呂とか最高じゃないか。


 ましてや混浴だった日には……と遥かな妄想を描いていたら、左腕がつねられた。


 あれ、さっきまでの俺へのリスペクト光線はどこへやら。


 ロゼリィが不満そうに俺の腕を軽くつねってきた。



「ぶっ……あっはは~! どうだったかな~? 混浴かどうかは知らないけど、社長にとってはそこが一番気になるポイントだったんだね~あっはは……あ~やっぱ社長って最高に面白いな~。ま、どこに行くにしても~このラビコ様がいるから大丈夫ってね~あっはは!」


 つねられ痛がっている俺をラビコが腹を抱えて笑い、抱きついてくる。


「真面目な決意表明から、いきなり混浴のお話に持っていくとか~真剣に話聞いて損したよ~あっはは。例えエロ目的でも~どんなときでもブレない考えって、逆に安心するよ……あっはは、そうそう、社長ってこうだったってね~」


 ラビコは笑うが、エロは偉大なんだぞ。


 日本でのお話だが、その昔、お高い映像機器の爆発的普及にも一役買ったとか伝説が残っているんだぞ。


 例え危険だろうが、ロゼリィの裸が拝めるのなら、俺は全力でその難関を突破してみせる。愛犬ベスも、俺のその強い想いに応えて力を貸してくれるはずだ。




「あら……? なんでしょう、この不思議な空気は」


 笑いながら抱きついてくるラビコをはがそうとしていたら、商売人アンリーナが紙の束を持って現れた。



「い、いや、なんでもないんだ。なにかあったのか?」


「はい、師匠。こちらが今回の増築の細かな設計図になるのですが、師匠のお部屋はどの客室を買い取るのでしょうか」


 アンリーナが宿二階の図面をテーブルに広げる。


 俺の部屋の場所か……他のお客さんの迷惑にならないように端っこかね、やっぱ。



「えーと、ここ……かな? 廊下の一番奥、川に一番近いこの部屋かなぁ」


「なるほど……! リバーサイドですね、さすが師匠です。やはり新婚のお部屋は雰囲気も大事ですわ。それではここを寝室として部屋をつなげまして、リビングに一部屋、子供部屋に三部屋、でしょうか」



 アンリーナが鼻息荒く設計図に書き込んでいるが、一体俺は何部屋を買い取る大富豪様なんだよ。






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