第331話 ジゼリィ=アゼリィ本店増築 3 内陸の砂漠に火山と永遠の美肌の湯様


「まったく……油断も隙きもあったもんじゃないです!」



 俺の左隣りに座ったこの宿の一人娘、ロゼリィがプンスカ怒っている。


 なんか知らんが火照ったラビコに絡まれていたら、向こうから圧倒的なプレッシャーの黒いオーラが見えたので、すぐにラビコをひっぺがした。


 あぶねーあぶねー……鬼の覚醒には気をつけないとな。




「ちぇ~邪魔が入っちゃったな~」


 右隣りのラビコが不満げにテーブルに頬杖をつく。


「邪魔って……こんな人が多くいる店内で何をしようとしていたんですか!」


 ロゼリィが言うように、工事で騒音が出ているのにも関わらず、店内のほとんどの席が埋まっている状況。工事期間限定のお安めメニューが結構注文されているな。



「ふ~んだ。好きな男を好きって言って何が悪いのさ~。周りに人がいようが関係ないね~言えないまま後悔するなんて絶対嫌だし、生きているうちにしたいこと全部やってやるのさ~あっはは~」


 ラビコが笑いながら言うが、まぁその考えはよく分かる。


 ……けど、俺の世間体も考えて欲しいなんてワガママを思ってみたりもする。



 とりあえず増築計画はアンリーナがバリバリ指示を出し、基礎工事が進められている。


 完成までにはそこそこの日数がかかるとのこと。一ヶ月ぐらい、とアンリーナが見積もりを出していたな。


 それまではのんびりジゼリィ=アゼリィで過ごすとするか。





「それでラビコ、内陸のお話なんだが」


 時間もあるし、いつかこの世界の全てを見るには避けて通れない、内陸の情報を聞いてみるか。


「ん~? なんだい~どこか行きたいところでもあるのかい?」


 くるっと俺の方を向き、ラビコがニヤニヤと笑う。


 行きたいところというか、なにがあるのかとか、そういう情報が欲しいな。

 

 俺、全くこの異世界のこと知らんし。


「いや、俺って内陸の方になにがあるのかも知らないんだ。有名な地域とかがあるのか?」


「有名な場所ね~……用事がないなら行かないことをお勧めするよ~ま、ラビコさんがいれば問題無しだけど~あっはは~」


 悪いがそれを期待している。


 俺一人じゃ地理分からないし、この異世界の常識も分からない状況だからな。


 旅慣れたラビコがいないと、俺の目標である世界の全てを見るは達成出来ない。用心棒としてもマジ頼りにしています、ラビコ様。



「魔晶列車で行けないってのが大変だよなぁ、内陸って」


 地図を見る限り、魔晶列車はペルセフォス全域をカバーしているわけではない。


 このソルートンもつながっていないしな、列車。


「まず~魔晶列車が通じていないって理由を考えるべきだね~。条件が見合わないのさ~列車の運行に。それは地理的条件だったり、予算だったり。まぁ一番は、安全が保証出来ないってことかな~」


 安全……。


 それは蒸気モンスターだったりの被害ってことか。


「このソルートンは危険とかじゃなくて~当時、それほど目立った街じゃなかったのさ~。基本船での輸送で成り立っていたし、フォレステイまで線路作って予算不足~だったかな~? その辺の詳しいお話は変態姫に聞いてご覧~」


 まぁ、どう考えてもお金掛かるしな。維持費にも毎年予算かかるし、当時は採算が取れないと判断されたのかね。



「じゃあそれ以外の地域、港じゃなくて内陸に魔晶列車が通っていないのは、危険、だからさ~」


 俺がゴクリと喉を鳴らす。


「この世界には、結構危険な場所が多くあってさ~。例えば砂漠地域。さすがに砂の上に線路は無理だね~。底なしの流砂なんてこわーいものもあるし~昼夜の寒暖差で線路が持たないし。あと、そういう底なし流砂がたくさんあるところって、砂に潜っている大型のモンスターがいたりするのさ~。あ~おっそろし~あっはは~」


 お、大型モンスター……うっへ、マジでゲームのお話だな。


 絶対出会いたくないです、はい。


「あとは火山地域かな~、噴火でもされちゃたまらないしね~。温泉は魅力的なんだけど~」


 俺の左で緊張しながら話を聞いていたロゼリィが、温泉と聞き、ズバっと手を上げ震えながら口を開いた。



「その……え、永遠の美肌の湯というものがこの世にはあると聞きました……! 冒険者さんには有名なお話らしく、よくこの食堂でも噂を聞きます……。ど、どこにあるのでしょうか……」


 恐る恐るロゼリィがラビコに聞く。


 ほう、美肌の湯ですか。


 それはそれは……なんとも俺にその美肌が視界一杯に広がるイベントが起きそうな、この世の天国なんじゃないですか? うっへへ。


「あ~。あるにはあるけど~ほとんどが何の証拠もない、単なる客寄せっぽいのが多かったかな~」


 ラビコが過去の旅を思い出すかのように虚空を見つめる。


「永遠、ね~。それに該当するのは一個だけど~、あそこはかなり危険な場所だったような~。命知らずな冒険者が辿り着いた秘境、みたいな~。蒸気モンスターの被害もよく聞くし、火山噴火での被害もよく起きているとか~」


 ごっふ。それマジで危険地域じゃねーか。


 なしなし。


 そういうとこは、吹き上がったマグマを一瞬で固められたり、周囲を冷やすクーラーみたいな氷の魔法が使える奇跡の魔法使いさんとか、暑さと危険対策出来る人がいねーと行きたくないぞ。



 魔晶列車が通っていない場所には、それなりの理由があるってことか。


 そういう危険な場所を避けつつ出来上がったのが、今ある路線ってことなのかね。



 作ったはいいが、色んな被害が起きて廃線になった場所とかもあるんだろうか。



 廃線巡りとかよく聞くが、こっちの世界じゃ命懸けの趣味になりそうな予感。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る