第328話 増築詳細話と誰が為の俺の部屋様


「それでは師匠との新婚生活計画を進めたいと思いますわ」



 アンリーナが興奮を抑え咳払いをするが、宿増築はどこいった。


 まぁ、いいか。とりあえず話を聞こう。




「師匠に宿増築のお話を頂き、すぐにこちらの宿を建てた業者さんに問い合わせをいたしましたわ」


 この宿を建てた業者、そういや温泉施設増築のときにお世話になったなぁ。ローエンさんのお知り合いなんだっけか。


「図面をご提供頂き、ローズ=ハイドランジェお抱えの業者と話し合ってもらい、今回宿の増築を共同で作業をいたしましょうと話がまとまりましたわ」


 アンリーナが簡単な書類を指しながら説明をしてくれる。もう話が進んでいるのか……うへ、やっぱこういうのは俺なんかじゃなんも出来ないわ。アンリーナ様々だ。



「助かるよアンリーナ。さすが頼りになるなぁ」


「それはもう愛する師匠の為でしたら、このアンリーナ=ハイドランジェ、使える手は全て使ってご期待にお応えいたしますわ」


 俺がお礼を言うと、アンリーナがムフンと控えめな胸を張り立ち上がる。



「……とまぁ、作業をさせていただく業者というのが我々の傘下会社でありますので、お支払いいただけるお金が我が関連企業に入ります。それはローズ=ハイドランジェとしておいしい、と。それとジゼリィ=アゼリィ増築により、ローズ=ハイドランジェ商品が多く販売出来るのでは……という下心もあります」


 アンリーナがちょっと本心を漏らすが、別に構わんさ。


 むしろアンリーナの会社が儲かるなら、それに越したことはない。


「頼むぜ、アンリーナ」


「お任せ下さい師匠。それはもう最高の物を作り上げて、二人の夢の新婚生活を……! ──で! ──と!」


 

 なんか後半からアンリーナの妄想話が始まったが、聞き流した。





 その後アンリーナがこの宿のオーナーであるローエンさんのもとに行き、細かい説明を開始。


 ローエンさんも二つ返事で頷き、ソルートンの宿ジゼリィ=アゼリィ増築計画が決定した。


 出資は俺の王都でのレースのお金と、ジゼリィ=アゼリィからのお金。


 俺のソルートン側の銀行に入れていたお金をほとんど使うが、なんの問題もない。


 まだ王都のほうに結構残っているし、毎月ジゼリィ=アゼリィからお給料をいただけているからな。


 アンリーナ側からも、ローズ=ハイドランジェ商品の売り場強化の名義で結構なお金を出してくれるようだ。





「それでは明日から作業が始まります。勝手ではありますが、こちらで全て設計を終わらせ、もう資材の発注も済み、港の船に材料は全て揃っています。細かな内装はその場で対応いたしますので、遠慮なくご意見を頂きたいと思います。それでは明日の朝、よろしくお願いいたします」


 書類のサインなどが終わり、アンリーナが頭を下げる。


 慌ててローエンさんとロゼリィが頭を下げお礼を言う。

 


 アンリーナは一旦戻って準備をし、明日の朝からまた来てくれるそうだ。




「ついに宿の増築ですか……なんか次々と話が進んで……ああ、が、頑張らないと!」

 

 ロゼリィが頭を振り、ぐっと手を握り気合を入れる。


 まぁアンリーナに頼むと、とんでもない速度で話が進むからな。迷ってる暇なんて無しで、ドンドン進む。


 迷うことがじっくり考えるいいタイミングということもあるが、こうやって目的に向かって脇見せずに進むことも時には必要だと思う。


 ましてや俺、頭悪いし。考えたって無駄無駄。


 今はどんどん進むさ、せっかく異世界に来れたんだし、日本にいたら出来なかったことをやってやるのさ。



「あの……出来ましたらお部屋にはお化粧台が欲しいです……その、大きな鏡がある、白い物が子供の頃からの夢でして……お、お願いしますね」


 俺がぐっと決意の顔で格好良く決めていたら、ロゼリィがささっと寄ってきてボソボソ呟いて宿に入っていった。


 ……部屋に化粧台? なんのことだ?


「ラビコさんはね~そうだな~部屋にバーカウンターとかどうかな? お酒飲み放題のスペースがあるといっかな~頼むよ、社長~あっはは~」


 ロゼリィの言葉の意味が分からず呆然としていると、ラビコも寄ってきて笑いながら俺の肩を叩き宿に入っていく。


「……お部屋に洗濯物をいっぱい干せるスペースが欲しいです、マスター」


 さらにアプティまでもが何事か言っていくが、お前ら……出来上がる部屋は俺の部屋だって言ってんだろ。


 俺の俺による俺のための、俺だけの部屋だっての。


 予想するに、八畳から十畳ほどの部屋に大きな化粧台にバーカウンターに洗濯物を干せるスペースなんて入れたら、俺の部屋がそれだけで埋まるだろ。



 つーかバーカウンターって未成年の部屋に作っちゃいかんだろ。


 悪いがどれもこれも却下だ。あー楽しみだなぁ、俺の部屋。


 どうやって俺色に染めてやろうか、ワクワクが止まらないぜ。






 翌朝、アンリーナが元気に現れ一枚の紙を渡してきた。



 その紙には『愛と夢の新婚生活』と書かれ、真ん中に部屋のほぼ全てを占める大きなベッドが置かれている設計図だった。



 忘れてた、アンリーナの妄想話。


 スルーしてたら設計図が出来上がっていた。








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