第323話 港街ソルートンで人探しとアプティのお仕事探し様


 港町ソルートン。



 大陸の東端にあるそこそこ大きな街。


 魔晶列車が通っていないので、基本船での流通が盛ん。


 海を挟んだ東側にあるお酒の国ケルシィや、南にある花の国フルフローラなど、多くの拠点から毎日頻繁に船が出入りしている。


 港がない内陸の街よりとても品揃えがよく、人の活気もあるぞ。


 さすがにこの国の王都ペルセフォスに比べたらあれだが、街の広さ、人口の多さはそこそこだろうか。



 せっかく運良く転生して来れたんだ、いつかこの異世界の全てを見たいと俺は目標を立てている。


 だが、この異世界に来てどれぐらい経つかは知らんが、地味に住んでいる街であるソルートンですら全部を見たことがない。



「世界を見るにしても、まずは地固めだな」


 宿ジゼリィ=アゼリィを中心に考えると、東側に安めの商店街、その北側が街の中心部になり、高級商店が建ち並んでいる。


 安めの商店街の南側が港で、船が着くとすぐに物が市場を兼ねた商店へと運ばれる。


 ジゼリィ=アゼリィの前の道を東へ歩くと、その安めの商店街に着くのでよくお世話になっているな。


「散歩行ってきまーす」


「はーい、気をつけてくださいね」


 宿のカウンターにいたロゼリィに声をかけ、愛犬ベスの散歩がてら街を見て回ることに。



 時刻は午前九時過ぎ。


 水着の大魔法使いラビコはまだ寝ているご様子。基本彼女は用事が無ければ午後から動くタイプ。


 まぁ、大抵夜遅くまでお酒飲んでいるからな。朝は苦手なんだろ。




 宿を出て、ベスのリードを引っ張りなんとなく東の安めの物がある商店街へ。


 小さなお店が所狭しと建ち、午前十時の開店に向けて準備が進んでいる。



 そういやこの商店街の端っこの怪しいお店で本買ったな。


 オウセントマリアリブラ、だっけ。


 かなりの貴重な物らしく、サーズ姫様に相談したら、その女性店員を探してみてくれないか、と言われていたか。


「探す、つっても……もうお店にはいなかったし、店主のおじいさんもそんな人は知らない、とか言っていたしなぁ」


 見た目の特徴は、黒いフードをかぶった俺より一個上ぐらいの女性。以上。


 うん、これ何のヒントにもならんな。


 こんな少ない情報で人探しとか不可能だろ。



 周囲の人を見てみるが、お店の開店を待つ買い物客やお店の関係者。商品を一生懸命運んでいる運搬の人。ぐらいしかいない。


 思い出してみると、なんとなく……魔法使いっぽい恰好だったろうか。


「うーん、冒険者だとしたら、街の中心にある冒険者センターに出入りしていないかな」


 この街の冒険者かどうかは知らないが、仕事を受けるために一度ぐらいは寄っているかもしれない。


 行ってみるか。



 安めの商店街から北へ向かい、ソルートン中心街の高級商店が建ち並ぶ地域へ。


 その一歩手前あたりに冒険者センターがある。


 お金が無いころ、よく来たなぁ。なんだか懐かしい。


 とても大きな建物で、冒険者さんがお仕事を受けたり、冒険者としての素質を測ってくれる場所。あ、ちなみに俺の判定は街の人、な。戦力無し、だと。か、悲しくなんか……ない。


 建物の中にはお仕事を受けるカウンターに掲示板、他にもちょっとしたトレーニングルームや、喫茶店、売店などがある。


 朝早くから夜遅くまで開いているので、常に冒険者さんで混雑している場所。


 付近には武器屋さんや防具屋さんなどがあり、ザ・異世界といった雰囲気。


 俺は結構好きな場所だ。




「すいませーん」


 俺はお仕事の相談が出来るカウンターのお姉さんに話しかけ、人探しをしていると聞いてみた。



「えーと、そうですねー……。黒いフードをかぶった十七歳くらいの女性ですかー……。はい、よく見ますよ。と言っても、毎日何十人も見ますね。盗賊から魔法使いまで、そういう恰好をした人はたっくさんいます、ね。あはは」


 お姉さんが困った顔で答えてくれた。


 さすがに範囲が広すぎか、そのヒントだと。


 掲示板に貼られているお仕事募集の紙を見ている人だかり。そこにもフードをかぶった女性が多くいる。


 他に特徴もなかったしなぁ……。八方塞がり、か。



「……ん?」



 掲示板を見ている人だかり。その中に見知った人影をみつけた。


 バニースーツを着た露出多めの恰好に、頭に飾りのウサギの耳とお尻に飾りのキツネの尻尾みたいなのを付けた背の高い女性。


 俺はツカツカと歩き、その女性に近付く。



「なにしてんだ、アプティ」


 そういや朝からいなかったな、アプティ。こんなとこに来ていたのか。


「……あ、マスター……。その、宿にいた個性的な髪型の方に聞きましたら、ここに来ればお仕事がもらえると……」


 アプティがクルっと俺のほうを向き、無表情で答える。


 個性的な髪型……世紀末覇者軍団のことだろうか。


 お仕事……なんでアプティが?


「お仕事って……あ、そうか、定期的にあげているお小遣いじゃ足りないのか。それはすまなかった。言ってくれれば増額したのに」


 アプティの正体は人間ではなく、蒸気モンスター。よく分からんが側で俺を守ってくれている。


 一応定期的にお小遣いは渡していたが、足りなかったのか。


 蒸気モンスターとはいえ、アプティも女の子だしな。何か必要だったんだろう。



「……いえ、私がお仕事で稼いだお金じゃないと意味がないらしいのです……」



 アプティが稼いだお金じゃないと意味がない? どういうこった。








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