第322話 セレサとオリーブの想いと泥沼様


 王都からソルートンに帰ってきて、ふと思うことがある。


 王都にエロ本屋さんはあったのだろうか、と。




 人口の少ないソルートンにすらあるんだ、ここの数十倍の人口を誇る王都に聖地が無いわけがない。



「俺はなんてことを……」



 顔を手で覆い、俺は自分の行動を恥じる。


 なぜ俺は聖地を探さなかったのか。


 なぜ俺は情報を集めなかったのか。


 あれだけの商品が集まる場所だ。エロ本だって多種多様にあったはず。


 なぜ俺はそれを逃したのか。激しい後悔が俺を襲う。



「どうしたのですか隊長。そんなにエロ本屋さんに行こうとしていた過去の自分を責めないで欲しいのです」


 左隣りを歩く宿の正社員オリーブが俺を慰めてくれているが、行こうとしていた過去の、さっきの自分じゃなくて、王都でエロ本屋さんを探さなかった自分を責めているんだ。


 ああ最低さ、つーかこれが俺の本性なんだよ。


 異世界に来たってそう簡単に自分を変えられるかっての。



「んー、隊長って、そういう本って必要なんですか……ね。私には全く必要なさそうに見えますけど」


 右隣を歩く同じく正社員セレサが困り顔で俺を覗き込んでくる。


 必要だよ、至急必要だ。


 何言ってんだ。


 この異世界に神がいると言うのなら、この世の全ての男子に等しく分け与えるべきなんだよ。エロ本を。


 というか女性と話す話題じゃないな、これ。


 今度宿でたむろってる世紀末覇者軍団と情報を交換しよう。





 とりあえずセレサとオリーブの買い物に付き合うことに。


 ロゼリィやラビコ、アプティやアンリーナ以外とのんびり買い物とか、なんか新鮮な気分。


 せっかくだから色々と聞いてみようか。



「二人はずっとソルートンに住んでいるのかな」


 ソルートン中心街にある高級商店街に向かう途中聞いてみる。


 なにやら正社員になって相当お給料が増えたらしく、今日はちょっとお高い物買ってみましょうというお買い物なんだと。


「はい、私とオリーブ、ヘルブラにアランス、フランカルも全員生まれも育ちもソルートンですね」


 セレサが笑顔で言う。


 そうか、みんなここ出身なのか。


「なのです。だからこの街が蒸気モンスターに襲われた時は本当に怖かったのです。他に行くところもないし、ソルートンという街が好きだから離れたくなかったのです。でも隊長が元勇者パーティーの皆さんと街の冒険者の皆さんの力を結集し、あの銀の妖狐を追い払ったときは本当に嬉しかったのです」


 オリーブがその時のことを思いだしたようで、不安げに俺に抱きついてきた。

 

 まぁあれはみんなが頑張った結果だ。俺一人じゃ何も出来なかった。


「この街はルナリアの勇者さんというすごい人の出身地なのですが、私には街を命がけで守ってくれた隊長こそが勇者様なのだと思えるのです」


 ルナリアの勇者様……か。


 そういや何者なんだろうな、その人。


 今はどこにいらっしゃるのか。一度お会いしてみたいものだ。



「そうなんですよ、隊長! 隊長はとってもすごい人なんです! 街のみんなも本当はすっごく感謝しているし、尊敬しているんです。でもちょっと……その、隊長って女性系の悪い噂が飛び交っていて、両手放しではそう言えないというか……その、あはは」


 セレサが苦笑い。


 ああ、俺ってソルートンじゃ世間体が地に落ちているしな。


 ここからV字回復は無理だろうし、もう諦めたからいいけど。



「でもこうして側にいれば、ああいう噂はウソなんだってすぐに分かりますし、悪いこと言ってくる人がいたらガツンと私が言い返してやりますよ!」


「なのです! 隊長のこと悪く言う人は絶対に許せないのです!」


 握りこぶしを作り、セレサとオリーブが鼻息荒くしているが、俺はその二人の頭を優しく撫で諌める。



「ありがとう、セレサ、オリーブ。俺にはこんなにも頼もしい味方がいるんだな。嬉しいよ。でも、そういう噂は俺の紛らわしい行動が招いた結果だしな。それを二人が受け止める必要はないよ。俺がそういう声もキチンと受け止めて、その上で前に進んで行こうと思う。だって俺はこのソルートンという街が好きだからな」



 世の中全員の人によく思われるとか無理だろ。


 俺はこの街が好きだし、この街に住んでいる人を守りたい。


 だから行動した。


 人に好かれたくてやったわけじゃないよ。


 それにあの時は余裕なくて、手の届く範囲の人しか見れていなかったし。



 俺がそう言うと、二人が顔を見合わせニコっと笑顔になる。


 な、なんだ?


「やっぱり隊長は最高に格好いいです! なんか私のほうが年上なのに、隊長のほうが大人な考えで自分が恥ずかしくなっちゃいます」


「素敵なのです隊長! 思い切ってジゼリィ=アゼリィのバイトに応募して本当によかったのです。人生で最高に素敵な人と出会えたのです!」


 二人が両側から弾けたように抱きついてくる。うへぇ、柔らかき物がモロにくるぅ。





 その後、終始ご機嫌な二人の買い物に付き合うことに。


 ちょっと高級なお店に入り、ハンドバックをお揃いで買おうとしていたので、それを正社員五人娘用に五個俺が購入。この後、宿の拡張でもっと忙しくなるから頑張って欲しいという意味を込め二人に渡した。


 



 宿に帰って早番だったヘルブラ、アランス、フランカルにも渡し、感謝を言う。


 みんなすっごい喜んでくれたが、その光景をじーっと見ていたロゼリィ、ラビコが禍々しいオーラを放って近づいてきたので宿の男湯に逃げ込んだ。



 数分後、普通に男湯に入ってきたラビコに捕まり、もう三個ハンドバックを買う羽目に。



 そしてその光景が、本妻三人に呆れられ、愛人を作り、さらには部下に手を出して泥沼状態と街に噂が広まりましたとさ。








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