第324話 アプティの感謝の気持ちが詰まった大切な贈り物様


「…………終わりました……」


「え、もう終わったのかい!? おお、本当だすごいなアプティちゃん!」



 よく知らんがアプティがお仕事をしたいとのことで、冒険者センターで適当に出来そうなものを受けてみた。




 一件目。ソルートン港で船の荷降ろし作業手伝い。



「お昼までに終わればいいか、と思っていたんだけど、まさか開始十分で終わるとはなぁ! な、アプティちゃん、よかったらうちに来ないかい?」


「……いえ、私にはマスターをお守りする使命がありますので……」



 午前十時から作業開始。


 泊まっている大きな運搬船から荷物を荷台車や手渡しで運ぶ作業。


 以前俺も漁船から物運ぶのやったことあるが、あれはキツかったなぁ。



 なんか心配だったので、愛犬ベスを引き連れアプティを見守ることに。


 屈強な海の男が二人で持つような大きく重そうな荷物を、アプティが片手でひょいと持ち上げ瞬間移動でもしたかのように港の倉庫へ次々と運ぶ。


 す、すげぇなアプティ……。


 海の男達に喝采を受け、一件目のお仕事終了。


 午前十時からお昼までかかる予定が、十分間で百Gゲット。


 いとも簡単に一万円分稼ぎやがった。




 二件目。屋台のお手伝い。



 時刻はお昼。


 冒険者センターの前の道には多くの屋台が並んでいる。


 そこの麺を鉄板で焼いて何か辛めのソース付ける、まぁ見た目辛そうな焼きそばを売るお仕事。



「……おいしい……よ?」


「うおおおお! バニーちゃーん! サービス満点じゃねーか!」

「十個くれ! 十個買ったから握手を……!」


 アプティが屋台のお店の前で無表情で看板を持つと、冒険者センターに集まる屈強な男達が辛い焼きそばを次々に買っていく。


 バニー姿で、ちょっとかがむとその豊満なお胸の谷間様が見えるからな、アプティは。


 なんか俺はイライラしながら見守ることに。


 よく分からないが、十個買えば握手が出来るというルールらしい。


 店主さんよ、ちょっとうちのアプティを軽く扱いすぎじゃ……。


「おお、すまんねオレンジの英雄さん。お仲間の美人さんが来てくれて助かるよ。ほら、これでも食ってくれ。わはは、ジゼリィ=アゼリィのあの味にはほど遠いがね」


 大爆笑しながら五十代ぐらいのおっさんが、不貞腐れて座ってた俺に差し入れを持ってきてくれた。愛犬ベスにもリンゴをくれた。


 ま、まぁ、アプティにはあとで丹念に手を洗ってもらえばいいか。 


「屋台の焼きそばか。ちょっと祭りっぽい雰囲気で美味そうだな、どれ……」


 うっへ、辛い。以上。


 なんのダシも効いていない、ただただ辛い焼きそば。


 舌に来る刺激で胃に流し込む食い物。こんなもん十個も食ったら舌やられんぞ……。




「助かったよアプティちゃん。ほらお給料だ」


「……嬉しい……」


 お昼から一時間で一日分の焼きそばが売れ、材料切れでお店終了。


 貰ったお金は七十G、俺感覚では七千円ゲット。


 

 そのまま冒険者センターのトイレでアプティに手を洗ってきてもらう。


 全くあいつら、汚れた手でアプティの手を触りやがって……。




「……マスター。お金が得られました……それでは行ってきます」


 トイレから戻ってきたアプティが、お金の入った袋を大事そうに握りしめ、どこぞへと走っていった。


 さて、働いて得たお金で何を買うのやら。


 そういや以前、ロゼリィに怒られて化粧品買っていたな。


 何か高級な化粧品でも欲しかったのかね?



 つーか別に冒険者センターにこなくても、宿でなんかお仕事もらえただろうに。


 それこそローエンさんに頼めば、喜んで何かお仕事をもらえたと思うが。



「ま、いいや。帰るか、ベス」


「ベスッ」


 冒険者センターの前でアプティを見送り、愛犬ベスの頭を撫でる。






 夕方、いつもの席に座って本日のディナー、お刺身盛り合わせセットを頂いていると、そこへアプティがふらっと帰ってきた。


「お、アプティおかえり。セレサー、アプティの分も頼むわ」


「はーい、了解です隊長!」


 側に居た正社員五人娘の一人、ポニーテールが大変かわいらしいセレサにもう一個セットを頼む。



「……マスター。買ってきました……」


 アプティが何やら紙袋を小脇に抱え、俺の側に来る。


 無表情のままその紙袋を押し付けてくるが……なんだ?



「おやおや~? 無事に買えたのかい、アプティ~。さ~て何を買ったのかな~」


 俺の右隣にいた水着魔女ラビコがニヤニヤと笑っている。


「よかったですね、アプティ。さぁ、それを渡せば喜んでくれると思いますよ」


 左隣りの宿の娘ロゼリィもニコニコ。


 なんだ? 二人共なにか知っているご様子だが。



「……どうぞ、マスター……」


「お、おう。なんだか知らんがありがとうな、アプティ」


 グイグイと押し付けてくる紙袋を受け取り、アプティの頭を優しく撫でる。


 俺の笑顔を見たアプティが、無表情ながらもちょっと嬉しそうにしている。



「それがさ~アプティってば、こないだハンドバック貰って嬉しそうにしていた五人娘を見て、社長にもああやって喜んで欲しい……とか奇特なこと言い出してさ~相談に乗ってあげたわけさ~あっはは~」


「そうなんです。あなたに笑顔になって欲しい……とアプティから相談を受けたので、何かプレゼントをしてみてはどうでしょう、とアドバイスをしてみました」


 水着魔女こと、ラビコが爆笑しながらネタを明かしだした。


 ロゼリィも笑顔を俺に向けてきたが……そういやアプティが、個性的な髪型の方に聞いて冒険者センターに来たとか言っていたな。


 世紀末覇者軍団とラビコ、ロゼリィに何やら相談していたってわけかい。



 何にせよ、女性に何かプレゼント貰えるって嬉しいなぁ。


 異世界に来てマジで良かった……うう。


 しかもアプティ自ら稼いだお金で買ってくれたとか、これ一生の宝物になるじゃねーか。

 

 考えたらちょっと涙出てきた。



「うっわ~泣くことないじゃんか社長~。よかったね~アプティ~すっごい嬉しそうだよ~あっはは~」


「やりましたねアプティ。心を込めた物なら、きっと何であろうと気持ちは伝わるはずです」


 両脇から慰められつつ、俺はアプティがくれたとても大事なプレゼントを掲げる。



「ありがとうアプティ! 俺はなんて幸せ者なんだ……開けてもいいか?」


「……はい。ずっとマスターが欲しがっていた物です……」


 アプティが無表情でコクコクと頷く。


 俺がずっと欲しがっていた物? そんな物あったっけ。


 まぁいい。アプティがくれた物なら、なんでも嬉しいさ。


「いざっ……!」


 みんなの前で丁寧に紙袋を開け、中身を出す。


 薄いな。本……?



「……ビスブーケの女神マリマリの魅惑のお色気全開ワールド……?」


 あっ…………これ、みんなの前で見せちゃいけないやつで、俺の世間体が地に落ちるどころか、地に潜るやつだ。


 ビスブーケの女神マリマリ……そういや花の国フルフローラの帰り、夜店でその名前を聞いたな。


 へぇ、すっげぇ美人さんじゃないか……はは。


「ぶっ……あっははは~! エロ本じゃんこれ! さっすがアプティ、社長のことよく分かっているじゃないか~。そうそう、社長ってばどこ行ってもこれを一番欲しがっていたもんね~あっはっは~!」


 ラビコが腹を抱えて大爆笑。


「えっと……あ、アプティ? 世界地図じゃなかったんです……か?」


 左のロゼリィが鬼になろうとしたが、アプティが心を込めた物なので、どうしたものかと不発気味に鬼へと変化。


 いてって……すっげー俺の腕つねっているじゃないか。俺なんも悪くないって……。



「……あちらの方々に聞くと、それが一番マスターが喜ぶと聞きましたので……」


 アプティにあちら、と紹介された世紀末覇者軍団がビクンと震え、ロゼリィの放つ悪しきオーラに恐れをなし、蜘蛛の子散らすように食堂から逃げていった。



「……マスター、嬉しい?」


 アプティが何の悪びれもなく、純粋な子供のように聞いてくる。


「う、嬉しい……よ。ありがとう、毎日使わせてもら……いや、だ、大事にしまっておくよ……」


 俺はエロ本を小脇に抱え、アプティの頭を優しく撫でる。


 その異様な光景をラビコが爆笑しながら眺め、鬼にはなったものの、怒りのぶつけどころが分からないロゼリィが、フシューフシュー言って俺の腕をものすごい握力でつかんでくる。



 なぁ紳士のみんな。女性から心を込めて贈られたエロ本って、どうしたらいいの。


 ロゼリィが絶対に怒らない案を考えて俺にテレパシーで届けて欲しい。



 至急、だ。






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