第311話 お手伝いと世間体ブロークン様


 お昼、お城の前に出来たカフェジゼリィ=アゼリィにてランチメニュー、新鮮野菜のサンドイッチとたっぷり煮込んだオニオンスープをいただく。




「さすがシュレド。スープが美味いな。柔らかい玉ねぎだけじゃなく、軽くほぐした鶏肉と底の方に歯ごたえのある根菜が入っているのが実に食べたという満足感がある」


「サンドイッチもとても美味しいですね、なんかこのお店にいると王都な感じがしないです。ソルートンにいるような気になれますね、ふふ」


 俺とロゼリィが頷き合う。


 外観もソルートンのジゼリィ=アゼリィにそっくりだし、味もシュレドが作っているからなぁ。安心の味。



「そうですわね、王都でこの味を出せるお店は貴重ですわ。しかもお値段が安いですし、これなら行列が途切れないのも当然かと」


 世界を巡る商売人、アンリーナも納得の味。


 紳士諸君、王都を訪れの際は、ぜひともカフェジゼリィ=アゼリィへご来店を。



「……紅茶が美味しいです、マスター」


 正面に座るアプティも無表情ながら、嬉しそうに紅茶を飲んでいる。


 アプティは美味しくない物食べると震えだすけど、流石にシュレドの料理は安心して食べているな。





 お店は朝の開店から行列が途切れず、外で販売している持ち帰りパックが飛ぶように売れている。


 時間に余裕がある人は店内飲食の列に並び、時間はないけどここのお店の物が食べたい人が物販のほうに並んでくれている様子。



 ああ、悪いがオーナー代理特権を使わせてもらったぞ。


 普段開放していない三階の少人数パーティー用の場所を、予約席として開けてもらった。並ばずに入ったりしたが、俺、オーナー代理だしな。



「うっま~うっま~。ソルートンと変わらない味が王都でもいけるようになったのか~こりゃいいね~」


 右に座ったラビコも笑顔でランチセットを吸い込んでいる。


 ラビコがお店に来た、ということでお店が騒ぎになったが、ラビコは軽く笑顔で手を振りお客さんの声に応えていた。


 ソルートンではそうでもないんだが、やはり王都ではラビコの人気と知名度はすごいな。



「悪いなラビコ。おかげでお店の名前も売れたようだし、お客さんの反応が段違いだ」


 いくら安くて美味しいお店といえど、来店して食べてもらわない限りそれは伝わらないからな。


 知名度アタックはお客さんにお店に来てもらう、いいキッカケになったようだ。


「なんのなんの~これも全て社長の為さ~。我が夫の為に動くのはあったりまえさ~あっはは~。まぁこの大魔法使いラビコさんを雇うには、一日一万Gは必要なので~社長にはそれなりの見返りを期待しちゃいますけど~あっはは~」


 ぐっ……そういや出会った頃、傭兵代で一日一万G要求されたな。


 一万Gって百万円だぞ、そんなん毎日支払えるかっての。絶対踏み倒すからな。





 昼食後、並ばず入った分みんなでお店のお手伝い。



 ロゼリィはお客さん案内。


 ラビコとアンリーナが店内物販のカウンターで売り子。


 アプティは紅茶ポットを実に丁寧に、残像が見える速度で配膳している。



「ほいっ、ほい。はいピッカピカー」


「だ、旦那……! い、いいんすか皿洗いなんてやってもらって……。オーナー代理じゃないすか、旦那は」


 そして俺は皿洗いをしている。


 シュレドや調理スタッフさんに止められたが、これぐらいしか俺出来ないんだよ。


「いいって、ほらシュレド、新しい注文来てるぞ」


「あ、す、すんません。立場上、ほどほどで切り上げて下さいよ旦那! 怪我でもされたら、ローエンさんとジゼリィさんとボー兄さんに会わせる顔がないっす」


 シュレドが慌てて持ち場に戻り、調理を始める。



 お手伝いもあるが、俺が皿洗いをやっているのはお客さんの食べ残し状況が知りたかったから。


 王都での人気の味付け、食材、分量を測りたいんだ。



 いくら美味しくても残さなきゃならない量は出しちゃだめだし、あー美味しかったと思える分量を上手くバランスとらないとならん。


 そのへんは元々シュレドは上手いんだが、それはソルートンでの感覚で、まだ王都の人の感覚に慣れていないだろうし。



「ふーむ、お肉より野菜物のほうがよく出ているなぁ。あとは甘いデザートか」


 やはりというか、女性のお客さんが多く、野菜物が人気。


 ローズ=ハイドランジェとのコラボメニューがかなりの注文数だし、ナルアージュさんが作ったデザートが大人気。


 逆に油が多めの物、カロリー高めのものがあまり出ていない。


 お城の目の前なので、男性騎士さんが来るとお肉がよく出るのだが、それは夕方以降。お仕事上がりに寄ってくれている様子。


 日中は野菜物、デザート。夜はお肉系。


 うまくメニューを時間で調整しないとなぁ。



 あとスイートスターという、食べられるお花が好評。


 飾りでお皿の脇に乗せたり、香りと見た目を楽しむようにお水に入れて出しているのだが、それを見たお客さんの驚きと笑顔がすごい伝わってくる。


 うん、大成功だな、これ。ありがとう、グリン農園さん。




「ナルアージュさん、ちょっといいでしょうか」


「はいっ、どうしましたかオーナー代理っ」


 デザートを作りながら元気にナルアージュさんが振り返る。


 俺はデータではなく、皿洗いで気がついた人気の傾向と、時間でのメニューバランスの調整を相談。


 あとアルバイトさんの追加雇用をお願いした。



「はいっ、アンリーナ様からアルバイトさん追加のお話を聞いていましたので、募集のチラシを作っているところです。メニューバランスですか、なるほど。確かに売れるからと、そればかりでは多くのお客さんのご希望に応えられないですね。全てのお客様が満足出来るメニューを、しっかり作っていかないといけません。了解しましたっ」


 いい声でナルアージュさんが返事。


 うん、シュレドにナルアージュさんがいれば、このお店は大丈夫そうだぞ。




 さて、お店は順調。本の相談もサーズ姫様にした。


 あと王都でやるべきことは……ああ、アレがあった。




「アンリーナ。その、相談があるんだが」


 俺はローズ=ハイドランジェ商品の物販コーナーにいたアンリーナに近寄り、小声で話す。


「ヌッフォ! し、し師匠の甘い吐息が耳に……! な、なんですか師匠! ついにこのお店の売上データを引っさげてお父様に私との結婚のお話をしたいと!? ええ、ええいいですとも、このアンリーナ=ハイドランジェ、すぐにでも師匠とお父様の説得に……!」


 耳元で小声で話したら、アンリーナがよく分からんメーター振り切って大興奮。


「残念ながら体は……その、みなさんより控えめですが、師匠を愛する気持ちは誰よりも……! 私の体は師匠を愛する為にあるのです! もう、師匠のお好きなように調教を……!」


 調教ってなんだよ! 俺は慌てて暴走したアンリーナ口を塞ぎ、大人しくさせる。


 やべぇ、結構お客さんの注目が集まってしまったぞ。

 


「え、結婚」

「結婚に調教……?」

「あんな小さな子を無理矢理調教して結婚?」


 ……おい、ついに王都でも俺は世間体を諦めねばならんのか?








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