第312話 ジゼリィ=アゼリィ本店増築相談と求む常識人様


「このアンリーナ=ハイドランジェ、師匠の愛でしたら例え痛みであろうとも、喜んで受け入れる所存でありまして……ぜひともこの私を調教……」



 お店を手伝ってもらっているアンリーナに小声で相談しようとしたら、なぜか俺の世間体が地に落ちた。



「あっはは……! あっはは~!」


 アンリーナの隣りにいるローズ=ハイドランジェ商品の売り子をしてくれていたラビコが、腹を抱えて大爆笑。


 頼むからフォローしてくれ……ってラビコにそういうのを求めるのがお門違いなのか。


 ラビコは基本、面白い方向へ持っていこうとするからな……。



 この窮地を救ってくれるのは一人しか居ない。


 俺は目を閉じ、右手を格好良く上げパチンと指を鳴らす。


「カモン、アプティ。アンリーナ様がお疲れのようだ、三階に運んでくれ」


「……お呼びでしょうか、マスター。こちらの興奮気味のちびっ子様を運ぶのですね、了解しました」


 ブンッ……と輪郭をぶらしながら、バニー姿にうさ耳飾りをつけたアプティが瞬時に俺の横に現れ、よく分からない演説を始めたアンリーナを小脇に抱える。



「あ、ちょっと……ちびっ子ってひど……放しなさい怪力女! これから師匠と……ひっ!」


 目の前にいた二人が一瞬にして消え、アンリーナの声が三階から聞こえだした。


 さっきお昼を食べた、三階にある少人数用のスペース。そこに瞬間移動したらしい。

 

 うーん、まぁアプティは蒸気モンスターだし……なんでもありか。



「二人共、お手伝いご苦労様。ちょっと話があるから三階に集まろう。接客スタッフのみんな、後は頼むぞ」


 ラビコ、ロゼリィの手を掴み、スタッフさんに声をかけ三階へ行くことに。



「ふふ……力強い手です」


「あっはは~最近社長ってば、普通に手を握ってくるようになったな~。これはヘタレ卒業も近いのかな~ラビコさん期待してるよ~」


 なんか二人が言っているが、気にせず二人を引っ張り階段を登る。





「それで、相談とはなんでしょう師匠」


 紅茶ポットを頼み、一口飲んで落ち着いたアンリーナが俺を見てくる。


 さっきの急激なメーター振り切りはなんだったんだ。


「うん、とりあえずこれで王都のカフェ計画は落ち着いたと思うんだ。オープン数日で予想以上の売上を出し、お客さんの評判も上々。見ていたらリピーターさんも多くついたようだし、アルバイトさんもこれから追加で増員する。あとはシュレドとナルアージュさんに任せようかな、と」


 サーズ姫様にハイラ、ラビコ、アンリーナの知名度アタックで集客に成功。


 二日目からは外でお持ち帰りパックの販売を始め、あまり長く並ばなくてもこのお店の味を楽しめるようになった。


 それでも店内で食べたいと並んでくれているお客さんの列は解消出来ず、あとはスタッフ増員で解決するしかない。


 そこはナルアージュさんにアルバイトさんの追加をお願いしたし、しばらくすれば落ち着くんじゃないかな。



「そうですわね、もうこれ以上ないというぐらいの売上を叩き出しています。どこまでこのペースが続くか分かりませんが、多少落ちたとしても短期で投資額を回収出来そうな勢いかと。はっきり言いまして、大成功ですわね」


 アンリーナが笑顔で語る。


 世界的企業、ローズ=ハイドランジェの跡取りアンリーナがそう言うんだから間違いないだろう。


 実際売上すごいんだって。



「それで、お次は前々から考えていたソルートンのジゼリィ=アゼリィ本店を強化しようと思う。あっちも食堂の席数が足りなくて毎日列が出来ているんだけど、並ぶんならいいや、と思ってお店に入ってくれないお客さんをかなり逃してしまっていると感じるんだ」


 王都のカフェは新しいから、話題のお店なんだし並んででも入ろうと思ってくれるお客さんが多い。


 でもソルートンのほうはもう落ち着いてしまって、並ぶんならいいや、とお店を通り過ぎていく人を結構見た。



「解決策として、一階の食堂の座席数を増やしたい。厨房も拡張したいし、あといい加減借家暮らしはやめて、二階に俺の部屋を作ろうかと……」


「素晴らしいです! もうふらふらした生活はやめて、ソルートンのジゼリィ=アゼリィで若旦那として定住。それは私と一緒になるということですよね!」


 話の途中で、急に宿の娘ロゼリィが満面の笑みで立ち上がり拍手。


 いや、そこまでの進展は考えていないが……。


 もうずっとジゼリィ=アゼリィに部屋借りているし、お金もあるし、ならもう俺の部屋作っちゃえばいいんでね? ってやつ。


 オーナーであるローエンさんには話して許可はもらっている。


 というか、王都に来る前にロゼリィに話したら、今みたくあさっての方向に突っ切って曲解した話をローエンさんにされて大変な目にあったんだよな。



「それは師匠と私の新居……! 申し訳ありません、まさかそこまで考えて下さっていたとは。そうですわね、結婚がゴールではない、そこから始まる生活こそ二人の愛のスタート……!」


 その話、続くのかよ。


 アンリーナの中では調教されて結婚、そして新居が……まで人生設計が順調に進んでいるらしい。



 ラビコは興奮するロゼリィとアンリーナを見て面白いことが起きた、とニヤニヤ。アプティは紅茶を無心で飲んでいるし、愛犬ベスは足元であくび。



 気付いたんだが、俺のパーティーってまともな人いないんじゃ。


 俺が唯一まとも……いやまてよ、俺の元の世界に残るありがたいお言葉、類は友を呼ぶ理論だと、その変人集団のリーダーっぽいことやってる俺が一番まともじゃないのか……?



 えーと、現在カフェでアルバイトさんを募集しているが、もしよろしければ常識人の方、履歴書の備考欄に『当方常識には自信あり、パーティー参加希望』と書いて送ってくれないだろうか。


 全俺が君の参戦を待っているぞ。









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