第310話 謎残る女性店員様
「オウセントマリアリブラ。もうラビィコールから聞いているかもしれんが、以前共に行った魔法の国、セレスティア王国の国宝とも言えるアイテムなんだ」
サーズ姫様が真面目な顔で語る。
「かつての大魔法使いであったマリア=セレスティア様が作ったという魔法の本。これ自体に魔法効果があるわけではなく、本来書き込んで使うアイテムなのに、未使用の状態で数百年間保管されていたことが価値を高めている」
そのへんはラビコとアンリーナに聞いた内容だな。
「てっきり俺でも魔法が使えるようになるアイテムかと思いました……」
だっておかしいだろ。俺は異世界に来たんだぞ。
なのに魔法の一つも使えないって変だって。
ついにその覚醒イベントが来たと思うのが普通だろ。
「まぁ、魔法の本ということで噂が独り歩きしていることもあるな。魔法を覚えるためにこれに書き込んで修行する、がこれを使えば魔法が使えるようになる、と捉える人もいるようだな。残念ながら、これにはそういう力は無いよ」
サーズ姫様の言葉に、水着魔女ラビコが俺を見てニヤニヤ笑っている。
くそぅ、カモン、マジカルイベント。
簡単にこれを手に入れた経緯をサーズ姫様に伝える。
これが本物だっていうなら千G、日本感覚で十万円出して買った価値があるってもんだが……これ、本物だけど、ただのメモ帳っぽいしなぁ。
そんな高価で扱いにくいメモ帳はいらん。
「なんとも……にわかには信じられない話だ。ソルートンの魔法アイテムを扱っているお店で買ったと。そしてもう一度訪れたら売ってくれた女性はいなかった、と」
サーズ姫様も俺の話を聞いて判断に困っている感じ。
まぁ、ありえない手に入れ方だろうしな。
魔法の国の国宝クラスの本を千Gで買いました、なんて。
「ラビィコール。本当なのだな、この話は」
さすがにサーズ姫様が不安そうにラビコに確認を取り出す。
街の人である俺よりは信じられるだろうしな、ラビコは。
「そうみたいだよ~。私は二回目に社長と一緒にお店に行っただけだから~その店員には会えなかったんだけどね~。社長はウソは言っていないさ~あっはは~」
女性を見たのは俺だけなんだよな、そういえば。
「そうか……しかしオウセントマリアリブラが盗まれたなど聞いたこともないし、なぜこれがここに……」
顎に手を当て、サーズ姫様が唸り始める。
これが本物ならセレスティア王族の所有物となる。
それがなぜか国外のお店で売られていた。
どういうことなのかね。
なんにせよ、俺では扱いに困る。
「それでこれをどうしたらいいか分からず、サーズ姫様にご相談を、と思いまして」
そんなすげぇ物だっていうなら、お城で預かってもらったほうがよさそうだが。
「うーん、先程言ったことは私の憶測、としてくれ。さすがに一見で本物か判定できる知識がないのでな。よく似た本、として扱いたい。すまないが、これを本物として預かってしまうと色々問題が……な」
あれ、サーズ姫様が歯切れ悪く困り顔だぞ。
「あっはは~ペルセフォスとしては友好国であるセレスティアとのトラブルは避けたいしね~。さすがにセレスティアも国宝扱いのオウセントマリアリブラが盗難にあっていたかも、とは言えないっぽいし~。社長は何も知らずに買ったってのは、このラビコさんが証言してあげるから~国家間のトラブルに発展しない所有者である社長が持っているのが一番かもよ~?」
紅茶を飲み干したラビコがニヤニヤとサーズ姫様を見ている。
え、これ盗難品なの?
「いや、先程も言ったが、盗難品ではないと思う……が、その売ってきたという女性の身元は確認したい。こちらでソルートン付近を探してみよう。しかし女性を見たのは君だけとなる。出来たら君もソルートンに戻ったときにそれとなく探ってみてくれないか」
なんかよく分からないが、しばらく俺が持っているのがいいそうだ。しかしそんな貴重な物、ちょっと扱いが面倒だなぁ。
「もし盗まれた物なら~こっそり探しているかもしれないし~。それをペルセフォスがホラ出てきたぞ~って渡して内緒にしたかったセレスティアの面子潰すわけにもいかないし~」
お城二階に借りている客室に戻り、本を丁寧にカバンへしまう。
ラビコが言うには、これがペルセフォスから出てきたことが問題なんだと。
門外不出のセレスティア王国の国宝オウセントマリアリブラ。
王族に受け継がれ、国内どころか、城内からも出たことがない物らしい。
それがなぜかペルセフォスにある。
関係が悪い国同士だと、なんでうちにあるはずの国宝がお前のとこから出てくるんだよ、さては盗んだのか? とか揉め事になることもあるとか。
幸いペルセフォスとセレスティアは友好国であり、さらに個人的にサーズ姫様とサンディールン様は仲がいい。
大きな問題になることは無いと思うが、なんにせよあるべきところに返すのが一番だよな。
サーズ姫様がそれとなくサンディールン様に聞いてみるとか。
答えが出るまでこの本のことは内緒にして欲しいとさ。
「あれ、じゃあ俺が支払った千Gってどうなるんだ。魔法も使えない、しばらくしたらセレスティアに返す。俺払い損じゃんか」
せめて何か起これよ……。
「世界の宝、オウセントマリアリブラ。本来はセレスティアの王族しか見ることも触ることも出来ない代物です。それをこうして手にとって見ることが出来たのです。千Gの価値はあったかと思いますわ、師匠」
しかしなぁアンリーナ。
言ってしまえば大昔の超高価なメモ帳だろ、これ。
俺が期待したのはマジカルボーイ爆誕イベント、なんだよな。期待と現実の乖離が半端ない。
「その女性の店員さんはどういった方だったのですか?」
ハイラはお仕事中でいないので、安心して宿の娘ロゼリィが俺の左腕に抱きついてきた。
うーん、そんなにじっくり見たわけじゃないし、それほど顔も見えなかったしなぁ。
あ、胸の膨らみは普通ぐらいだったかな。安心してくれロゼリィ、今のところ君がナンバーワンだ。
「えーと……フードかぶっててよく見えなかったし、店内も薄暗くてなぁ。なんとなく俺と同じか一個上の年齢かな、と思ったぐらいかなぁ。見た目の特徴は」
探している人は女性である、ぐらいしか言えてないな、これ。
あかん、もう一回会っても分からなそう。
「ふ~ん、私なんとなく分かっちゃったかも~。オウセントマリアリブラを持ち出せる人を考えて、社長と年齢近いだと消去法で答えが出るな~。ま、単なる憶測だし~変態姫が聞いて答えが出るまでは黙っておくかな~あっはは~。それよりお腹すいたな~もうお昼近いし、お店の現状確認兼ねてカフェ行こうよ~」
ラビコが俺の右腕に抱きつき、ぐいぐい引っ張る。左右の腕が至福のひととき。
え、あの店員が誰か分かったのかよラビコ。
俺にはさっぱりだが。
「うーん、まぁこれについて俺がどうこう考えても進展はないしな。よしお昼食いに行くか」
俺がそう言うと左右のラビコとロゼリィが笑顔で返事をし、アンリーナ腹に抱きついてきて、アプティが俺の尻をつかむ。
どう考えても四人のうち一人おかしい行動だが、気にしたら負けかな。
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