第307話 ようこそ、カフェジゼリィ=アゼリィへ! 6 オープニング期間終了と打ち上げ様


「みんな、お疲れ様。これにてオープニング期間終了だ。明日からは通常営業に……って今日までとあんまり変わんないか」



 カフェオープンから一週間後。



 本日の営業を終え、片付けも終わった午後十一時。


 区切りとしてスタッフ全員に集まってもらった。



 明日からは通常営業に切り替わる。


 といっても、営業時間も変わらないし、メニューもほとんど変わらないがね。


 唯一違うのは、明日からは知名度軍団がいないことぐらいか。


 サーズ姫様、ラビコ、ハイラ、アンリーナがお店でサービスをしてくれる期間は終了となる。




「明日から俺達はいないので、緊張せず伸び伸び働いてくれ」


 一応ジゼリィ=アゼリィオーナー代理の立場の俺に、コラボ先の世界的企業ローズ=ハイドランジェの跡取りアンリーナ。


 雇い主ツートップがいれば、そりゃあ緊張するだろうしな。


 まぁ俺達二人共、スタッフさんより年下なんだがね。



「オーナー代理! 特に緊張はしていませんでした! お二人とも私達にお友達のように接してくれたので、毎日伸び伸びやってました!」


 スタッフの一人、よく通る声の女性がズバッと手を上げ満面の笑みで発言。


 そしてスタッフから笑いが起きる。


 初日こそ全員緊張していたが、次第に俺達の雰囲気に慣れてくれ、スタッフ同士にも横の連携が生まれていた。


 さすがアンリーナがツテで連れてきてくれたスタッフ達だ。もう俺達いなくても、なんともなさそうだしな。



「ああ、確かに伸び伸びやっていたな。あの普段は真面目騎士、リーガルの半裸踊りに誰も動じていなかったしな」


 サーズ姫様の護衛役で来ていた騎士リーガル。


 ただ突っ立ってるなら、女性サービスで申し訳程度に股間とかを隠した半裸服着てくれよ、とお願いした。


 そうしたら、なぜか彼が自発的に過剰サービスを始め、訪れた女性のお客さんのリクエストに応えてエロポーズに不思議なダンスを踊っていたからな。


 後ろで繰り広げられる異空間に、サーズ姫様も結構困っていた様子。



「あー……あれはもう誰も止められなかったですね。てっきりあれもオーナー代理の戦略なのかと思って放置していました。あはは」


 俺の発言にスタッフ全員が大爆笑。


 あ、今はリーガルはいないぞ。


 サーズ姫様も夕飯を食べに来てすぐにお城に戻ったし。



「ナルアージュさん。明日からが本番です。シュレドをお願いしますね」


 一応シュレドが店長的な立場になるのだが、基本彼は料理人で、お店の管理業務はナルアージュさんがやってくれている。


 アンリーナが連れてきてくれた元パティシエの優秀な人で、もはやこの人がいないとお店が回らない感じ。


 シュレドは書類とか全く書けないからな……。まぁ、俺もだけど。

 

「はいっ! おまかせ下さい! このナルアージュ=シート、字の汚いシュレドさんに代わり、全ての書類を書く所存であります!」


 姿勢良くビシッと立っていたナルアージュさんが元気に返事。


 シュレドに一回報告書的な物を書いてもらったのだが、字が芸術的過ぎて読めたもんじゃなかった。


 もはや新たな言語レベル。


「あ、それはその、だ、旦那! 俺、字の練習しますからクビにしないで欲しいっす!」


 シュレドが慌てて俺に泣きついてきたが、いや、字の練習はいらん。


 そこ伸ばすより、料理の腕を伸ばせシュレド。



 疲れているのにも関わらず、スタッフさんが皆笑顔。


 なんかいいスタッフさん揃ったなぁ。これならシュレドを任せられる。




「あ、そうだ。俺はみんなに一つ嘘をついた。これを謝りたい。オープン期間は日給二倍払うと言ったな、あれは嘘だ。アンリーナと話し合ってさっき決めたんだが、三倍支払うことにした。あと、これからオープン期間終了お疲れ打ち上げをやる! 俺とアンリーナのおごりだから好きなだけ飲んで食べてくれ!」


 俺の発言に最初不安そうにしていたスタッフさんが、三倍支払うあたりで笑顔に変わり、おごり打ち上げで腕を上げて大騒ぎ。

 

 つっても料理作るのシュレドに調理スタッフさんだけど。




 余っていた材料と、簡単な料理で打ち上げスタート。


 今日、夕方にラビコとアプティを連れてお店を抜け出し、駅の大型商業施設のお店からお酒を買ってきた。それをスタッフさんに振る舞う。


 俺は飲めないけどね。未成年組はジュースに紅茶な。


 オープン期間七日間の売上は、商売人アンリーナがマジで驚くレベルの金額。


 これは日給三倍は払おうと話し、頑張ってくれたスタッフさんに感謝を示すことにした。




「いやぁ~やったね~社長~。カフェ大成功だ~あっはは~」


 水着魔女ラビコがお酒片手に俺の右隣に座り抱きついてくる。


 もう酔ってんのかよ、早くねぇか。カフェ用のメイド服じゃなくて、いつもの水着にロングコートスタイル。


「さすが先生です。王都にこんな安くて美味しいお店作ってくれるなんて……これで毎日先生と同じものが食べられるんですね。つまり新婚生活が始まったと」


 騎士ハイラが紅茶片手に俺の左側に座ってきた。


 後半のセリフは意味分からん。


 結局ハイラは有休使ってずっとカフェで売り子を頑張ってくれた。本当にありがたい。


「すまんな、ハイラ。売り子やってくれて助かったよ」


 優しく頭を撫で、ハイラの苦労をねぎらう。


 ニンマリと笑い、ハイラがメイド服のまま抱きついてくる。


 おお、腕に例の柔らかいものがくる……。右にラビコ、左にハイラ。こりゃすげぇ。



 いつもの場所を取られた宿の娘ロゼリィが不満そうに正面に座り、俺の左右の腕に当っているものをじーっと見ている。


 うーん、打ち上げで鬼にはならないでくれよ……。


 アプティはロゼリィの隣に座り、ウッキウキで紅茶の飲み比べを楽しんでいるな。


 いつもの無表情だがね。ベスは俺の足元でリンゴを頬張っている。



「師匠、やりましたわね。カフェジゼリィ=アゼリィは大成功です。本当に師匠の頭の回転の速さと、人脈の力には参りました。まさかサーズ様を引き入れるとは……」


 アンリーナが隣の席に座り、俺に握手を求めてきた。


 うむ、サーズ姫様が来てくれたのは本当に驚いた。


 売り子も進んでやってくれたし。これは明日にでもしっかり感謝の言葉を伝えないとな。


「ラビコ、ロゼリィ、アプティ、サーズ姫様にハイラにベス、そしてシュレド、ナルアージュさん、スタッフのみんな、全員が頑張ってくれたからな。あと、アンリーナが事前に色々手配していてくれたのがでかかったよ、ありがとうアンリーナ」


 お店の建築全てを手配してくれ、食材仕入れルート確保に人員確保。


 こうしてカフェを営業出来るのは、ほとんどアンリーナの手柄と言っても過言じゃないだろ。


 俺はアンリーナの頭を優しく撫で、お礼を言う。


「ヌッフォ! いえいえいえ! 全ては師匠がこの土地をサーズ姫様からお借りできたからですわ。私はちょっとお手伝いをしただけ。師匠の笑顔のためならば、このアンリーナ、何でもする覚悟はとうに出来ています。ええ、もちろん笑顔以外の見返りも期待していたりしますが、少し、ほんのちょっとこう少しだけ性的なものがいいかなぁと……ヌッヒヒ」



 アンリーナが真っ赤な顔で不気味に体をくねらせたが、この動き、どこかで……ああ、リーガルのエロダンスそっくりだ。









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