第308話 朝温泉とオウセントマリアリブラ様


「うぃー生き返るぜ」


 翌朝、カフェから歩いて十分ほどのところにある温泉施設で汗を流す。




 結局深夜まで打ち上げは続き、酔ったスタッフを深夜に帰すわけにもいかず、家が近くの人以外はお店に泊まってもらった。



 ああ、お店広いし余裕で寝るスペースはあるんだ。


 男性は一階で雑魚寝、女性は三階の大部屋で寝袋を用意した。


 なんか大人数で寝泊まりとか修学旅行の気分で楽しい。




 朝七時、全員起こして俺がお金を出し、温泉に来た。


 お店は十時からだけど、さすがにそのままはあれなので、みんなを引き連れお風呂。



 一緒に入った男性スタッフ達から、その、オーナー代理はサーズ様とラビコ様とハイラさんとアンリーナさんとはどういうご関係なんですか? と真剣に聞かれた。


 あとロゼリィさんとアプティさんとも、とどう答えたらいいか分からない質問攻めで、俺苦笑い。


 なんて答えたらいいんだよ。



 シュレドが、指輪組であるラビコとロゼリィとアプティとアンリーナは俺の奥さんと適当なことを言い、それを信じたスタッフ達が急に尊敬の眼差しで俺を見てきた。


 すぐに否定をしたが、頼むからそれを広めないでくれよ。


 ソルートンではもう諦めたが、王都では世間体を守りたい。


 

 そして雑談をしていると、みんな口を揃えてラビコに間近で会えてすごく感動したと言ってきた。


 それだけでカフェジゼリィ=アゼリィに来てよかった、と思ったんだと。


 サーズ姫様もまさかお店に来るとは思っていなく、相当感動したそうだが、滅多に王都にいないルナリアの勇者の元パーティーであり、ペルセフォスで国王と同じ権力者である大魔法使いラビコに会えたのは、足が震えるほどの感動だったとか。


 何人かが、こっそりとラビコに近づき髪の毛の香りを楽しんでしまいました、すいません。と懺悔してきた。


 俺に言うなよ。俺はラビコの夫じゃねーし。



 まぁ確かに経歴だけ聞くとラビコってすごいもんな。


 実際側にいると、単なるトラブルメーカーなんだがね……。



 そして今年の飛車輪レースで優勝したハイラ。


 あのレースを見ていたスタッフさんも多くいて、前評判最下位からの大逆転劇は見ていて感動したらしい。



 で、そのペルセフォスを代表する三人とお知り合いの俺は何者なの? ってことか。


 まぁ、そうだわな。


 俺がルナリアの勇者クラスのすごい人なんじゃないかと、スタッフ間で噂していたんだと。

 

 風呂上がり、脱衣場で俺の冒険者カードに書かれている『街の人』とそこに押されたかわいいスタンプをスタッフに見せると、みんな呆けた顔になっていた。


 すまんな、リュウル様に続き、憧れを抱いていたスタッフさんの夢を壊して。




 お風呂上がり、朝番スタッフさん以外は帰宅。


 ハイラはさすがに今日からはお仕事だそうで、慌ててお城に走って行った。



 俺達はお店に戻り、シュレドとナルアージュさんとスタッフさんで開店準備。



 今日も朝から結構な行列が出来ていて混雑の予感。


 頑張れよシュレド、ここはお前のお店になるんだからな。


 シュレドは王都での住む場所をまだ見つけていないようで、しばらくはお店三階の休憩室の一室を占拠するそうだ。


 住むとこ探す余裕なかったしな、そこは仕方ない。





 午前十時、カフェジゼリィ=アゼリィ開店。


 あっという間に席が満席になり、スタッフ達の戦いが始まった。


 お客さんを見ていると、リピーターさんが多くいる様子。


 ジゼリィ=アゼリィの味を気に入ってくれた人が多いのはありがたい。



 少しだけお店を手伝い、混雑するお店を出る。




「あれれ~いいのかい~結構な混雑だよ~?」


 水着魔女ラビコが混み合うお店をチラチラ見ながら聞いてきたが、いつまでも俺達がいれるわけじゃないからな。


 ここからはスタッフさんで頑張ってもらわないとならん。


「ああ、シュレドとスタッフのみんなを信じよう。あと、もうちょっとスタッフさん増やしたほうがいいかもな。アルバイトさんをいっぱい雇いたいところだが、そのへんはナルアージュさんに任せようと思う」


「分かりましたわ、あとでナルアージュに伝えておきます。混雑もすごいですし、人件費を惜しんでいては良い人材は育ちません。相場より高めでいい人材を募集しましょう。予算はたっぷりありますし」


 俺の言葉に商売人アンリーナが答えてくれ、ノートにカリカリとメモを書き始めた。頼むぜアンリーナ。



 ベスをカゴに入れ、防壁迷路をぐるぐる周り、お城に借りている二階の豪華な客室へ戻る。ラビコがいるから基本城内はフリーパス。


 荷物を取りに行くんだ。


 王都に行くからと、ソルートンから大事に持ってきた物が俺のカバンに入っている。




 マリアリブラ。



 王都に来る前に、ソルートンの骨董屋的な魔法アイテムショップから買ったものだ。


 その後訪れたら、俺に本を売ってくれた若い女性店員はいなくなっていて、見たことないおじいさんが店員としていた。


 おじいさんはそんな女性は知らないしそんな本も取り扱っていない、と言われた不思議な出来事。



「ああ~これね~。どうするんだい? お城に預けるの~?」


 俺がカバンから取り出した豪華な装丁の本を見て、ラビコが思い出したように言う。


 なんか相当の貴重品らしいし、どうしたもんか……。


 まずそれを相談したい。



「うわっ……師匠これ、マリアリブラ……! しかも本物……の未使用品! どうしたんですか、これ……え、でもこれナンバリングがないですわ。どういう……」


 本を見たアンリーナが大興奮。


 さすが商売人、これが何か分かるのか。


 ナンバリング? なんだ、普通は番号がふられているのかよ。


 じゃあそれが無いこれは偽物なのか?



「そうさ~そこがこれの面白いところでさ~。ナンバリングが無いのに本物……ってことは~マリア=セレスティアが新人魔法使いに配った物じゃあない。これは自分の子供に特別に渡した物で~代々セレスティア王族に伝わる門外不出の本物中の本物、オウセントマリアリブラになるんだよね~あっはは~」


 ラビコがニヤニヤ笑っているが、オウセント……? なんだそりゃ。


 そういやこれ、やけに特別な感じがしたが、自分の子供に向けた物だったのか。


 そりゃあ想いは強く残るだろうな。



「あわっ、わわ……そ、そそそそそれはもう国宝レベルどころか、世界の宝……し、師匠……どうやってこんな貴重な物を!?」


 アンリーナが面白いぐらいガクガク震えているぞ。



 そんなすげーもんなのか? これ。









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