第304話 ようこそ、カフェジゼリィ=アゼリィへ! 3 ラビコの開店花火演舞様


「シュレド、準備はどうだ」



 オープン直前、俺は厨房に入り料理人シュレドに声をかける。



「おう、いつでもいいぜ旦那! 揃えてもらった調理スタッフは超優秀、接客スタッフも最高級、旦那達のサポートは最強の援軍ときたもんだ! 食材も良いもの揃ってるし、在庫も完璧。何百人だろうが何千人だろうがかかってこいってんだ、うはは!」


 シュレドが力強く決めポーズ。うん、笑顔とやる気が溢れているぞ。


 よし、行くか。




 俺はスタッフ全員を集め、ついにカフェジゼリィ=アゼリィの開業を告げる。



「いいかみんな、俺達は王都の人達に美味い物を食べて欲しくて今日ここに集まった。美味しい物は人を笑顔にする。美味しい物は人を楽しい気持ちにすることが出来る。お客さんのお腹を満たし、美味しい気持ちで心を満たす。そんな幸せな時間を提供するのがカフェジゼリィ=アゼリィである! しかも安くだ! お値段控えめ、でも味は最高級、そしてサービスも最高級の物を提供する!」


 この一週間、毎日スタッフ全員にシュレドの料理を食べてもらった。


 このお店の料理の美味しさは体感で分かっているはずだ。


 自分が美味しいと思う物は、みんなにも食べてもらいたいと考えるはず。


 それをお客さんに伝えて欲しい。


「ありがたくも外に並んでくれているお客さんの数を見て欲しい。はっきり言って今日は休む暇もないと思ってくれ。相当つらいと思うが、見返りはあるぞ、みんな! オープニング記念期間中はスタッフさんに二倍の日給を約束しよう! 金なら手に入る、さぁみんな働くぞ! 目指せ大金、手に入れろ高額給与!」


 最初真面目に聞いていた雇われスタッフさんが、俺の後半のセリフで大興奮。


「おおおお! 本当ですかオーナー代理!」

「やったぁ! じゃあがんばっちゃいますね、私」

「二倍……! お給料でいい服買えちゃうー!」


 よし、金の力は偉大である。



「あ~あ……前半は格好良かったのになぁ~後半で目がお金のマークになってるよ~」


 水着魔女ラビコがやれやれと溜息ついているが、これは商売人アンリーナと事前に決めていたんだ。

 

 当日発表すれば驚くだろうし、それがオープン直前の独特の緊張を解ける魔法の言葉になるんだよ。


 やる気も一気に出してくれるだろうし。




「ラビコ。準備はいいか? カフェジゼリィ=アゼリィ開店の合図を頼むぜ」


 全員が持ち場につき、あとはお店の大きなドアを開ければ開店となる。


 そしてパフォーマンスとしてラビコに例の花火をお願いした。


「あ~はいはい。よくもまぁ色々と考えつくもんだよ~。じゃあ派手に行きますかね~」




 二階にあるテラス席。


 建物から飛び出すように作られたバルコニーに、メイド服姿のラビコを送り出す。


 俺はラビコの後ろで待機。



「よぅお前等、今日はよく集まった。すっげー待ち時間あるだろうが、我慢しろ! その代わり、大魔法使いラビコ様が良いもの見せてやる!」


 バルコニーにラビコがキャベツブースト状態で登場。


「おおおおお!」

「ラビコ様だ!」

「本物……! 本物のラビコ様だ!」

「なんとお美しい……こんなお側で見ることが出来るとは!」

「ラビコ様ー! 素敵ですー!」


 集まったお客さんがラビコを見て拍手喝采。


 さすがに人気と知名度がすげぇな、ラビコは。


 二階から見るとよく分かるが、お店の周りが人で埋め尽くされている。


 警備さんがうまく列を誘導してくれていて混乱は起きていないが、これ本当に数千、数万人規模いるんじゃねーか……?



「あっはは! 美しいラビコ様はお店の中にいる。今日は特別にお前等に会ってやるから、行儀よく来い! ルール守らねぇ奴は消し炭にしてやるからな! おらよっ、カフェジゼリィ=アゼリィ本日開店だ!」


 キャベツの刺さった杖が上空に向けられ、ラビコの体から輝く紫の光が溢れ出す。


 轟音と共に紫の光の球が連続で打ち上げられ、遥か上空で爆発。


 周囲が紫の光で包まれ、そこにハートの形が浮かび上がる。


 相変わらず派手で迫力があるな、ラビコの魔法は。


「すげぇ!」

「綺麗なハートですー!」

「これだけでも並んだ価値がある!」


 みんな空を見上げ、ラビコの派手なパフォーマンスに満足してくれたようだ。




「よし、戻るぞラビコ。お店を開ける!」


「あっはは! あ~なんか興奮してきた……おい、みんなが見てる前でしちゃおう」


 なんか変な方向に興奮したラビコが抱きついてきた。


 やめい! 本当に見られてるって! 俺は慌てて杖に刺さったキャベツを引っこ抜き、ラビコの頭を撫でて落ち着かせる。


「あ~……あっはは~。ちぇ~王都民に私達の愛を見せつけようと思ったのに~」


 ここはエロいお店じゃないっての。




 ラビコを引っ張り、急いで一階入り口へ。


「よし、行くぞみんな! カフェジゼリィ=アゼリィ、本日開店だ!」


 俺の合図でお店の大きなドアが開かれる。




「いらっしゃいませ、ようこそカフェジゼリィ=アゼリィへ!」



 スタッフさんの元気な声が響き、ついにお店の営業開始。


 長い戦いが始まるぜ。




 お客さんが店内に入り、驚きと大歓声が響く。


「さ、サーズ様……! ほ、本物!?」

「うおおお……サーズ様が……!」

「いやぁー!! すごい! サーズ様がいらっしゃるなんて!」



 カウンターで待ち受けているのはこの国のお姫様であるサーズ様。



 本当にいいのか、かなり迷ったが、本人がやりたいと聞かなかったしな。


 まぁ、隠密騎士リーガルもいるし大丈夫だろ。


 そのリーガルは、サーズ姫様の後ろで半裸のヒラヒラ衣装で真面目な顔しているが、とても護衛には見えないな。



「リーガル。すまんがサーズ姫様の護衛を頼むぞ」


 俺がささっとリーガルに近寄り小声で話す。


「ああ、任せてくれ。ちょっとこの服動きにくいが……まぁなんとかなるさ」


 リーガルがなんともイケメン王子フェイスで応えるが、どう見ても変態さんだなぁ。


 俺が用意した服だけど。


「お前は女性サービス担当も兼ねているんだからな。その辺も頼むぞ。あんまりサーズ姫様のメイド服姿で興奮すんなよ。さっきサーズ姫様のお尻見てイケメンフェイス崩してたけど、あれやめろ。女性向けに、ずっと王子フェイスでいろよな」


 さすがにいくらイケメンといえど、エロい顔でいられたら敵わん。


 お前は常に王子たれ。



「な、ななな……! 僕はそんなふしだらなことはしていな……!」


「……ああ、でもサーズ様がとても……いい……」


 俺が小声でリーガルがエロい顔で呟いた言葉を感情込めて言うと、王子ががっしり俺の手を握ってきた。


「わ、分かった! 君の言うことはなんでも聞く! 頼むからそれは内緒にしてくれ!」



 リーガルが落ちた。ちょろいな。


 たっぷりと女性サービスを頼むぞ、半裸王子。







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