第303話 ようこそ、カフェジゼリィ=アゼリィへ! 2 売り子三人娘の知名度アタックと半裸王子様


 カフェジゼリィ=アゼリィ、オープン当日。



 お店の前には、チラシ宣伝や噂を聞きつけて集まってくれたお客さんで大行列が出来ている。


 お店外の混雑対策にアンリーナが警備を雇ってくれていて、相当の数のお客さんではあるが、混乱は起きていないようだ。




 今回俺が仕掛けた作戦は知名度アタック。



 水着魔女ラビコに頼み込み、カウンターでの物販の売り子をお願いした。


 中にいればお客さんとはカウンター越しになるので、触られたりとかの心配もそれほどないだろう。


 彼女はペルセフォス国王と同権力を持ち、ルナリアの勇者のパーティーメンバーとして長年活躍したことで知名度、実績はペルセフォスどころか、世界中で知られているそうだし。



「あっはは~まぁ我が夫の頼みだしね~。ド~ンと妻の器量の良さってのをたまには見せとかないと~」


 すっごいニヤニヤしながら受けてくれたが、後から変な見返り寄こせとか言うなよ。



 ラビコの了承が得られたのでチラシ配りのときに、あのラビィコールがお店で店員をする、と宣伝しておいた。


 これにはかなりの王都民が食いつき、一度間近でお目にかかりたいと期待してくれる人多数。

 

 並んでいる人の中にはラビコ目当ての魔法使いさんや、騎士と思われる人が高級なカメラ片手にわくわくしているのが分かる。



「ラビコ。悪いな、お前の知名度を俺に貸してくれ。写真は撮らせてもらえるのか?」


 いつもラビコは水着にロングコート姿なので、はっきり言って露出多めのメイド服は逆に肌の露出が減っているんだがね。


 まぁ……ラビコは元がかなりの美人さんなので、本人には言わないが、メイド服姿、すっげぇ可愛いぞ。


「いいよ~せいぜい普段より露出の少ないメイド服姿撮って、夜に使えばいいさ~あっはは~」


 ……紳士諸君。よろこべ、ラビコ様公認だ。




「ははは、あのラビィコールが写真に笑顔で応えるか。数年前の国の広報用の写真を撮るのに、当時どれだけ苦労したか……」


 サーズ姫様が溜息をつきながら、鏡に写った我が姿に見惚れている。


 そういや花の国フルフローラのガウゴーシュ農園で、ササリアさんが雑誌のラビコの写真見せてくれたな。すっげぇつまんなそうにムスっとした顔してたわ。


「しかし……これはいいものだな。初めて着たがこういう服があるのか。なかなかに男の視線がすごいぞ」


 サーズ姫様がヒラヒラがついた短いスカートが面白いらしく、何度もひるがえす。


 おお……見えそうだぞ! もう少……いってぇ!


「さすがにサーズ様相手にそれは命知らずな行動ですよ、師匠。ヌヌゥ……胸さえ大きければ私だって……!」

 

 ビシっと質の良いスーツを着た商売人アンリーナが俺の腕をつねる。いてて、い、いいじゃないか少しぐらい……。




 ラビコがお店で売り子をする、という噂はあっという間に王都に広まり、それはお城のサーズ姫様の耳にも入ったそう。


 すぐにサーズ姫様に俺がお城に呼び出され、さすがに国王と同権力を持つラビコにそういうことはさせないで欲しいと怒られるかと思ったが……。


「ついにお店のオープンが近いそうだな。私も絶対行くぞ。しかし、聞くとお城内でも君のお店は相当に期待している者が多く、都民もお店の話でもちきりでな。これは当日はかなりの混雑になると思う」


 ハイラも言っていたが、お城でもかなりの話題になっていたのか。


 ありがてぇ話だ。


「王族専用スペースがあるとはいえ、そこに並ばずに入るのも気が引けてな。オープン当日の混雑時は利用を控えたい。そこでだ、客としてではなく、関係者としてお店にいればいいのではないかと」


 最高にいいこと思いついた子供のような表情で言われたが、どういうことだ。


「私もその売り子とやらをやりたい。がさつでワガママなラビィコールなんかより、よっぽど使えると思うぞ。ははは」



 と言って、サーズ姫様自ら売り子をやりたいと言ってくれた。


 これはすごいことなのだが、さすがにこれは混乱を生みそうなので事前宣伝出来ないし、当日サプライズゲストとして来てくれたことにしよう。






「今日はありがとうございますサーズ姫様。まさかこんな見世物状態のことをやってくれるとは……」


 俺は目一杯頭を下げ、お礼を言う。


「ははは、構わないよ。こうして直に国民の声を聴くのもいい機会だしな。それに君にはいくらでも貸しを作っておきたいんだ。いざってときはこれを使って脅し……いや、囲い込み……追い詰め……ははは、私も緊張で言葉がおかしいな。いつか確実に利用させてもらうよ、はは」


 ……おい、すっげぇ腹黒いこと聞こえたが。


 緊張で言葉の選択ミスっただけだよな? 俺の未来は明るいよな?




「せんせーい、ホラホラ、私も見て下さい。胸とか結構見えそうなんですよ」


 騎士ハイラが大きな胸を強調するポーズ。


 おおお……なんと柔らかそう。胸元が結構開いたメイド服なので、かがむと男にはたまらん角度になる。


 ラビコとサーズ姫様が売り子をやると聞いたハイラも名乗り出てくれ、これはありがたいとお願いした。


 ハイラは今年の飛車輪レースで優勝した有名人。


 ウェントスリッターとして、国を代表する騎士になっている。王都民にレースの大逆転劇は話題になり、相当知名度が上がったそうだ。


 騎士学校出身であのサーズ姫様のブランネルジュ隊に入り、さらにはウェントスリッターで優勝。


 この出世物語は学生の憧れとなっているとか。


 なんかハイラの人気は、我が娘が有名になったような感覚でかなり嬉しい。



 そんなワケでここには売り子さんとしてラビコ、サーズ姫様、ハイラがいる。


 これは相当な集客になる。


 そこに世界的魔晶石・化粧品メーカーのアンリーナの知名度も加わり、集まってくれたお客さんは相当なもの。



 警備員さんが予想以上にお客さんが集まったので、ちょっと苦労しているようだが、ご飯はジゼリィ=アゼリィで出すし、お金も奮発するんで頑張ってください!




「…………なぜ僕がこんな恰好を……」


 可愛いメイド三人の後ろで、どこぞのスターのようなほぼ半裸の服で文句言っているのが隠密騎士リーガル。


 サーズ姫様の護衛としてきたそうだ。


 だったらその恰好で立っててくれよ、と急遽買ってきた申し訳程度に見せちゃいけない部分を隠したコスプレパーティー衣装を着てもらった。


 だってリーガルは王子みたいにイケメンだし、こいつ立ってるだけで女性の黄色い声が飛ぶからな。


 悔しいから……あ、俺も緊張で言葉がおかしいな。憎らしいから女性サービスで半裸で立っててくれよイケメン、とお願いした。


「あの時、君を守れなかった責務を果たすのは構わないが……なぜ半裸なんだい。ちょっと恥ずかしいんだが……ああ、でもサーズ様がとても……いい」


 ほう、リーガルでも女性にそういうエロい視線を送るんだな。


 最後小声でサーズ姫様に聞こえないように言ったつもりらしいが、俺にはバッチリ聞こえたからな。


 いつか困った時、脅しに……取引の材料に使わせてもらおう。



 なんとなくサーズ姫様と俺は意見が合いそうな気がするんだが、気のせいか。










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