第302話 ようこそ、カフェジゼリィ=アゼリィへ! 1 ロゼリィの演技と人脈作戦様


 俺達が王都に着いてから一週間後。


 準備も整い、ついにお店オープンの日を迎えた。




 昨日までは、俺達と接客スタッフさんでアンリーナが事前に用意していてくれたチラシを王都中で配り、宣伝。


 調理スタッフは、シュレド、ナルアージュさんとメニュー開発と手順確認。


 スタッフさんはとりあえず今いる人数で回すが、状況に応じてアルバイトさんを大量に雇う予定。


 その際は、ぜひあなたもご応募を。




 なんとソルートンのイケメンボイス兄さんから大量の荷物が届き、何かと思い開けると箱いっぱいに詰まった小分けクッキー。


 仕事の合間に、ソルートンスタッフ総出で作ってくれたそうだ。


 手紙によると「お手伝いに行けなくてゴメン。微力ながら援軍を送るよ。宣伝か来店特典で配る用にどうぞ」とありがたい内容。やっぱあの人神だわ。





「接客スタッフのみんな、お会計後にジゼリィ=アゼリィからクッキーを一人一袋、さらにローズ=ハイドランジェからはサンプル小瓶のシャンプーを一人一個渡して欲しい」


 イケボ兄さんのご厚意をお会計後のプレゼントとして、ありがたく使わせてもらいます。


 ローズ=ハイドランジェからは、オープンに向けて宣伝用サンプルが大量に届いた。


 これはアンリーナのお父さんからの支援らしく、その物量が桁違い。


「さすがお父様ですわ。これは本気具合が伺えますわ」


 アンリーナも驚く量。なんと届いた個数は一万オーバー。……ぱねぇ。


 

 そしてお店からは、オープン記念の初日のみのサービスとして、三人以上のグループ来店で四、五杯は飲める紅茶ポットを無料提供。紅茶には自信があるんだ。ぜひ飲んで欲しい。




 現時刻は午前九時、一時間後の午前十時にオープンとなる。


「あー緊張してきた……」


 皆準備で走り回る中、俺が外に見えるお客さんの大行列にお店内で震えていると、宿の娘ロゼリィが俺の手を握ってきた。



「あなたと出会って数ヶ月、ソルートンのお店はずーっと横ばいの売上だったところ、急に右肩上がりで売上を伸ばし、気付けば王都に支店が出来てしまいました」


 元々そこそこの売上あったっぽいけど、ジゼリィ=アゼリィは。イケメンボイス兄さんの覚醒がでかかったよなぁ。


「しかも多くの皆さんのお力を借り、ここまで豪華で大きなお店……。ここには皆さんの暖かい想いが詰まっています。その想いは決して一人では放てない、とても強い光。そしてその中心には皆さんの信頼という光を集めた一人の人物がいるんです」


 ロゼリィが自然に微笑み、俺の左頬に優しく口付けをしてきた。


 あまりに突然だったので、俺無抵抗の口半開き顔。



「最初はなんだか不思議な人だな、と思っていましたが、気付けばずーーっとあなたを目で追うようになっていました。あなたは今後、どれほどの光を集めるのでしょう。どれほどの人を笑顔に出来るのでしょう。私はそれを見届けたい、ずっとあなたの一番側で見ていたい。私はあなたの側で笑顔でいたい……それが私の星の願い」


 忙しく準備で走り回っていたスタッフさんが足を止め、こちらを見て拍手をし始めた。やべぇ、すっげぇ見られてるってロゼリィ。


 ナルアージュさんも興奮してこっち見てるし、アンリーナが激怒寸前で震えているんだけど。



「あなたには到底及びませんが、私も頑張りますので、出来たらあなたの横に置いて欲しい。あなたを支えたい、あなたの力になりたい。怖かったら、辛かったら頼って欲しい。あなたの側には必ず私がいます」


 ロゼリィが真っ直ぐに俺の目を見てくる。


 ちょ、どうしたんだよロゼリィ。



「……ふふ、どうでしょう。震えはとれましたか? 緊張したら、それ以上の驚きを与えるといいと聞きましたので演技で……やってみました」


 ロゼリィが急に舌をペロリと出し、笑う。


 な、なんだよ演技かよ……マジでびびったぞ。でもおかげで緊張がとれたわ。


「あ、ありがとうロゼリィ。一気に緊張がなくなったぞ」




「ふ~ん……演技でこれだけ多く人がいる中でキスねぇ。そんなことが出来る子だったっけ~?」


 ラビコが着替えを終え、ホールに出てきた。


「まったく、油断出来ないな~最近のロゼリィは~。隙あらば本音で社長口説き始めるし参るな~ってことで社長~私も私も~!」


 セリフの途中で急に笑顔になり、ラビコががっしり抱きついてきた。

 

「ロゼリィが左なら私は右かな~ほいっと」


 羽交い締めにされ動けないでいると、ラビコが俺の右頬に口付けをしてきた。


 や、やめろ! 童貞の俺にはそういう冗談が一番対処出来ねぇんだって!


 ラビコがニヤニヤ笑い、口を離す。



 周囲のスタッフのどよめきが大きくなる。


 そらーそうだろう。


 ラビコって言ったら王都では権力者であり、相当の人気と知名度をを誇る大魔法使いだし。


 おい、これ収集つけれんのか……お店オープン一時間前にトラブルはごめんだぞ……。



「で、では私もですわ……! ここで遅れを取るわけには……!」


 アンリーナが猛然とタックルしてきたが、俺の危機を察したアプティがそれを制止。ナイスだアプティ。



「ははは、やるではないかロゼリィ殿。なるほど、彼は話の流れですれば自然と出来るのか、いや参考になった」


 ラビコに続いて着替えを終えたサーズ姫様が嫌な笑いでホールに現れた。


 途端にスタッフ達に緊張が走り、姿勢良く立ち、頭を下げる。



「ああ……出遅れてしまいました……まさかロゼリィさん、私達が着替えで出れないこのタイミングを狙っていたんじゃ……」


 ハイラも着替え、ブツブツ言いながら俺の左腕に絡んでくる。



 ラビコ、サーズ姫様、ハイラが着ている服は、とても可愛らしいメイド服。


 アンリーナの知り合いの服屋さんで特注で作ってもらったものだ。


 いやぁ、素晴らしい……特に胸の露出具合が多めなのと、スカートが短めなのが最高。


 誤解はよしてくれよ。ちょっと露出多めのメイド服を選んだのはサーズ姫様だ。




 ロゼリィの俺の緊張をほぐそうとした迫真の演技にはびびったが、とりあえず、俺の人脈フル活用のプロモーションを始めるぜ。









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