第293話 ジゼリィ=アゼリィ王都進出計画 9 最強の味方様
建設中のカフェジゼリィ=アゼリィが完成したとの連絡を受け、俺達はソルートンから料理人シュレドを連れ王都ペルセフォスに来た。
いつもトラブルが起きる道中なのだが、今回はシュレドといういつも居ないメンバーがいるせいか、女性陣が静かで平和に王都に来れたぞ。
まぁ王都に着いた途端、俺がバスタオルの鷹こと、湯上がりに慌てて飛んできたハイラに捕獲され、サーズ姫様に冗談か本気か私の側にいて欲しいとか言われ結局揉め事が起きることに。
みじけぇ平和だった。
ラビコの魔法花火でお店開店のパフォーマンスとその場は誤魔化し、ついに俺達は完成したというカフェジゼリィ=アゼリィに到着。
「旦那! ありがとうございます! ケルシィの田舎で終わるはずだった俺を、こんな大きな舞台に引っ張ってくれた……! うおおおお俺はやるぜ、俺はやるぜぇ!」
出来ていた建物は三階建の巨大なもの。
向かいに建っているペルセフォス国立図書館と比べても、負けないぐらい立派な物。
さすが商売人アンリーナが指揮しただけはある。
「俺はやるぜ!」
予想以上に豪華で巨大な建物を見たシュレドが大興奮で吼え、俺に抱きついてきた。頬に伝わる彼の分厚い胸板、男性特有のゴツっとした骨の感じ。
連れてきた料理人シュレドは見た目は完全に鍛え上げた格闘家で、上半身裸にサラシのような布をお腹に巻いている。
その彼が興奮し、火照った顔で俺に「俺はやるぜ!」と抱きついてきている。
前後無視してここだけ切り取ったら男が男と男の男を状態だぞ。
ほら、ロゼリィが興味津々でこっちを見ているじゃないか。
事情を知っているロゼリィがコレだぞ、通りがかりでこれ見られたらまずいって。
「く、苦しいシュレド。俺、貧弱なんだって! モゲル……」
「あ、す、すんません旦那! つい嬉しくて……あと舞台が予想より大きかったんで、ちょっと不安になっちまって、うはは……」
慌てて俺を離したシュレドが、震える右腕を左でつかみ不安を抑えていた。さすがにシュレドも緊張しているようだな。
それは俺だって同じだ。
新たなことを始めるときって、どうしても悪い方向の考えが浮かんできてしまう。
「大丈夫だ、シュレド」
背の高い筋肉の塊、シュレドの肩を軽く叩く。
「シュレド。お前は一人でここに来たのか? 違うだろ。視野を狭めるな、周りにいる俺達を見ろ、一人で背負うな、一緒に来たんだぞ俺達は。俺、ロゼリィ、ラビコ、アプティ、それにベスもみんな全力でシュレドをサポートする為に来たんだ。それでも不安か?」
俺の声にロゼリィ、ラビコ、アプティがシュレドを見る。
「だ、旦那……奥方さん達も……すいません! 俺、こんなに恵まれているのに弱音吐いたりして……そうだ、俺にはこんな心強い味方がいるんだったぜ!」
「師匠の言う通りですわ。お店というものは一人では出来ません。多くの人の想いと努力が合わさり、それが幾重にも積み重なった物の結晶なのです。そしてあなたの味方はここにもいますわ。さぁ、完成したお店に最後のピースを迎え入れましょう。皆さん、整列ですわ!」
突如背後から声が聞こえ驚き見ると、準備中と書かれた看板がかけられていたお店の大きなドアが開き、暗かった店内に一気に明かりが灯る。
建物からビシっと綺麗な制服を来た人達が出てきて並び、頭を下げる。
「お待ちしておりました。いらっしゃいませ、ようこそカフェジゼリィ=アゼリィへ!」
シュレドが驚き、言葉を失っている。
いや俺もか、ビビったぞ、いきなり暗かったお店が明るくなったんだから。
綺麗に整列し、教科書のように頭を下げている人達。
二~三十人はいるだろうか。全員制服を着ていて、小綺麗な見た目。
整列の中央で、大きなキャスケット帽をかぶった背の低い女性が勝ち気な顔で俺を見ている。
「あ、アンリーナか……す、すごいな、これ」
驚きでまともな言葉が出てこなかった。
さすがのラビコも驚いていたし、ロゼリィもびっくりして俺の左手を握ってきた。
アプティは興味無しの無表情。
「お久しぶりです師匠。手紙の届く期間と、師匠の行動の速さを考慮し、到着するであろうこの日、この時間に合わせ、スタッフ全員に集まっていただきましたわ」
アンリーナが微笑み、並んだスタッフさん達が頭を上げ、キリっとこちらを見てくる。
はは、こりゃーすごい。こんな最強の味方はそういないぞ、なぁシュレド。
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