第292話 ジゼリィ=アゼリィ王都進出計画 8 紫花火とカフェジゼリィ=アゼリィ到着様


 案一、とりあえずこの場から逃げる。


 答え、全員に追っかけられて大惨事。



 案二、ハイラの飛車輪で逃げる。


 答え、サーズ姫様の飛車輪で追い詰められて撃破される。




 夜のペルセフォス王都。


 駅前でのことなので、周囲にかなりの人だかりが出来てきている。


 そりゃあそうか。この国のお姫様に、権力者ラビコ、さらに新星のごとく現れレースで優勝したハイラ。


 この三人が同時に集まっているわけだ、注目も集まる、と。


 周囲にどこまで会話が聞こえているか分からないが、揉めているのは一目で分かりそう。


 


「ラビコ! あれ頼む、魔法の国で見せた花火みたいなやつ! お店宣伝のパフォーマンスってことで逃げる!」


「ん~? まぁ、そうだね~集まった人の視線を上に向けて、この場は退散が正解っぽいかも~」


 さすがにラビコも周囲の人だかりを気にしていたようだ。


 理解が早くて助かる。案一、案二は却下なので、今思いつく作戦はこれしかない。頼むぜ、ラビコ。



「あっはは! 我が名は大魔法使いラビィコールである! お城の前に出来るカフェの宣伝だ、皆期待して待て! おらよっ、前座パフォーマンスだ!」


 キャベツを杖に刺し、人が変わったような言葉遣いでラビコが紫に輝くオーラを纏う。



 杖を上空にかざし、紫に輝く球体を連続で何個も打ち上げ、それが綺麗に並んで形を作る。


 魔法の国セレスティアで見せてくれたやつだ。セレスティアの魔法使いさんが見せてくれたやつも綺麗だったが、ラビコのは迫力と勢いがすげぇよな。


「おおお、すっげぇ! 旦那見ろ、ハートの形になってるぞ! すっげぇ!」


 それを見たシュレドが上空を指差し大興奮。


 初めて見たら、これは本当に綺麗で感動するからなぁ。


 なんかまた魔法の国のイベントが見たくなってきた。


 あれは寒い雪の夜に見るからいいんだよなぁ、カボチャの魔法使いノギギにもまた会いたいな。



 周囲の人もペルセフォスの夜空に打ち上がった紫の輝きを見上げ、拍手が起きだした。


「おお、なんと美しい」

「さすがラビコ様だ、派手でいて美しい」

「ああ、お城の前に作っているカフェか。そういやもうすぐ開店なのか?」

「なんかすっごい美味しいらしいよ、楽しみー!」



 よし、みんなの視線が上を向いたぞ。チャンスだ。


「うむ、綺麗だな。そしてやはりラビィコールは君の言うことは素直に聞く……む?」


 サーズ姫様もラビコのパフォーマンスを見て油断していたので、ささっと近づき軽くふんわりと頭を撫でた。これならあまり人に見られていないだろ。


「おお、これこれ。君に頭を撫でられると、とても落ち着くんだ。君の体温と優しさがしっかり伝わってくる」


 これでサーズ姫様も落ち着いてくれたようだし、さっさと移動だ。


 俺はサーズ姫様と演舞を終えたラビコの手を引っ張り、無理矢理移動開始。


 このメンバーだと、この二人を抑えればトラブルは激減する。



「あっはは~さすが社長~上手く誤魔化したね~。お店の宣伝も出来たし、いいんじゃないかな~。でも~この作戦を実行できるのは~このペルセフォスという国で私と変態姫を同時に引っ張れる社長ぐらいだよ~あっはは~」


「ははは、そうだな。しかしこんなに情熱的に手を握られると、こちらもその気になってしまうぞ。この私を強引に引っ張れる男は君しかいない、そして引っ張った先には……期待していいんだろう?」


 なんか二人が言っているが、気にせずこの場から逃げるぞ。


 残りのメンバーにもついてくるように目配せ。



「ま、待ってくださいー」

「…………」

「ふ、服が……」

 

 ベスのリードを持ってくれているロゼリィとアプティが慌てて走る。


 ハイラも服をしっかり着てからダッシュ開始。


「うははっ! なんか楽しいぞ、王都!」


 シュレドも上空の輝きを名残惜しそうに見ながら笑顔で走り出す。


 そして愛犬ベスが俺達が走り出したことに大興奮。ロゼリィでは抑えきれない脚力で爆走。


 瞬時にアプティが無言で駆け出し、ベスを抱え持ち上げてくれた。


 乗り物移動でずっとカゴに入っていたので、走りたい欲が爆発したっぽい。助かるぜ、アプティ。




 ラビコの放った魔法のおかげで、人々の視線は上に向いた。


 その隙きに混雑する駅前を抜け、お城方向へ走る。





 だいぶ駅から離れ、人も少なくなってきたので走りを止め一旦休憩。


「全員いるな? ……ロゼリィ、大丈夫か? だめそうなら俺が背負うか?」


 はぐれることなく全員いることを確認。


 だが冒険者ではない宿屋の娘、ロゼリィがかなり無理したらしく、ゼヒーゼヒー肩で息をしている状態。


 シュレドも冒険者ではないが、いたって平気そう。どう見ても格闘家で、無敵時間ありの打ち上げる龍の拳を放てそうだからな。



「だ、大丈夫です……あ、いえ、うそです! 無理です! もう倒れる寸前です。あああ、足が痛いなー」


 ロゼリィが周りに遠慮して大丈夫と言ったが、何か閃いたらしく、突如棒読みセリフになった。


 大丈夫そうだが、かなり息切れしているし背負うか。


「走らせたのは俺だ、俺が責任を取る。ほら、来いロゼリィ」


 地面に膝をつき、背中をロゼリィに向ける。


 以前漁船で隣街に行った時、着いたはいいが、ロゼリィが船酔いのグロッキーで動けず一回背負っているし遠慮はいらんぞ。


 そしてロゼリィを背負うのは、別の意味で俺に見返りがある。


 紳士諸君なら分かるだろうが、内緒だぞ。


「やった! お、お願いします!」


 笑顔になったロゼリィがすぐに俺の背中に抱きついてきた。


 おおおおお、おお……これはなんたる質量……伝われ、この想い……言葉はいらない。



「……社長~もしかしてロゼリィを背負うために、わざと走らせたわけじゃないよね~?」


 んなわけないだろ。


 ラビコがジト目で見てくるが、俺はそれを跳ね除け立ち上がる。


 腰辺りに来るロゼリィのお尻の感じ。そして肩にのしかかる二つの柔き物達。これはいとおかし。



「ふむ、なるほど。こういう攻め方もあるのか。いや、参考になる。四方を塞ぎ、逃げ場なく追い詰めるほうが好きだが……なるほど、彼の優しさに付け込むわけか」


 サーズ姫様がなにやら感心したように見ている。


 「先生、飛車輪に乗っていただくということも出来ますが」


 ハイラがとても真っ直ぐに余計なことを言ってきたが、却下。


 背負わなきゃ感触が楽しめないだろ。




 俺が持てない荷物をシュレドに持ってもらい、そこから五分ほど歩くと、巨大なお城の手前にある美術館みたいな見た目の施設、ペルセフォス国立図書館が見えてきた。


 何度見ても歴史を感じる立派な建物だよなぁ。


 夜でライトアップされて、余計に綺麗。



 その向かいの空き地だった場所に、見慣れない大きな建物が出来ている。



「おお……これか、これがそうなのか」


 外見はソルートンのジゼリィ=アゼリィと同じ雰囲気。


 建物は……三階建だろうか、かなり大きいぞ。


 向かいの図書館に負けない豪華さと大きさ。


 なんか想像していた物よりかなり立派。ソルートンのジゼリィ=アゼリィもそこそこの大きさなのだが、これはそれより巨大。



「うわっ……すごいです! うちのお店より大きいですよ、これ!」


 背中のロゼリィが大興奮。

 おお、いいぞロゼリィ。動いてくれるとより例の物が背中で暴れていい感じ。


「……社長さ~ロゼリィに甘すぎじゃないかな~。私だってそこそこ大きいんだし~対等に扱って欲しいな~ってことで、次私~」


 ラビコがずーっと右側を歩き、ジト目で見ていたが、どうやら順番待ちをしていたらしい。


 悪いがもう着いたし、腕も痛いので俺タクシーは終了だ。


 実は貧弱なんだよ、俺。千五百メートル走が六分後半かかるぐらいにな。



「これが……これが俺のお店……すっげぇ……」


 シュレドが胸に手を当て、感慨深そうに建物を見ている。


 頼むぞシュレド、このお店の成功はお前の腕にかかっているんだからな。



 ロゼリィを下ろし、飛びかかってきたラビコを抑え、シュレドの肩を軽く叩く。


「さぁ、やってやろうぜシュレド。王都民が声出して驚くような美味いもんを出すお店を、な」










 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る