第291話 ジゼリィ=アゼリィ王都進出計画 7 サーズ姫様の告白様
「ざっけんなよペルセフォス組ぃ! いつまでうちの社長に抱きついてんだ~!」
「おっと、君を独占していたら下のワガママ魔女が杖を構えてしまった」
サーズ姫様に言われ下を見ると、水着魔女ラビコがキャベツを杖にぶっ刺しこちらをロックオン。
俺は慌ててハイラに下に降りてもらい、ラビコの頭を撫でる。
「や、やめろラビコ。これからカフェが開店するってのに、変な噂がたつとマズイって」
杖に刺さったキャベツを引っこ抜き、ラビコを優しく撫でると、肩の力を抜き怒りを鎮めてくれた。
周囲に結構な人だかりが出来ていて、すでに手遅れな感じがヒシヒシと伝わってくるが……。
最悪、お店宣伝のパフォーマンスってことにしておこう。
シュレドがサーズ姫様を見て震えているが、そういやあんまり詳しいお店開店の経緯を話していないような。
「サーズ姫様、こちらが今度開店するカフェの料理長シュレドです」
さっさとこの場を離れたほうがよさそうだが、とりあえずシュレドを紹介しておこう。
ハイラが不思議な目でシュレドを見ているし。
「おお、こちらの体格のいい彼がシェフというわけか。はじめまして、私はサーズ=ペルセフォスという。すでに私をご存知の様子だが、あまり王族だからと肩肘張らないでもらいたい。なにせお店が出来たらかなりの頻度で通うことになるからな、ははは」
サーズ姫様がニッコリ笑う。
「お、おおおお、俺……いえっぼ、ぼ、僕は私は王都のカフェで料理を担当するシュレド=ボーニングといいます……! ぅ、うおおおっ、だ、ダメだ旦那……! 王族の人となんてどう話したらいいか分かんねぇ!」
ブルブル震えながら俺は僕は私はと、何人いるんだシュレドは、とド緊張しながら自己紹介。
後半は完全に諦めたようで、俺のほうに駆け寄り、子供のように俺の背中に隠れてしまった。
いや、シュレドは俺より背もガタイもいいから全く隠れてないぞ。
「あっはは~見ろ見ろ~、シュレドの動物的勘が変態の本性を察知したんだよ~。その溢れ出る変態性を隠せていない証拠さ~。行こう社長~こんな変態と一緒にいたら何されるか分かったもんじゃないよ~」
ラビコが笑いながら俺を引っ張って行こうとするが、ハイラがガッツリ俺の左腕を掴んだ。
「……ハイラ~離さないと怒るよ~?」
「いやです。先生のお側にいることが私の役目なんです。一緒にいれなかった分、たっぷり先生にご奉仕するんですぅ」
おお、ハイラがラビコの言うこと聞かないぞ。
これはトラブルの予感。
アプティは興味なさげにしているが、いい加減ロゼリィもムスっとしだしたし、とっとと移動しよう。うん。
「さぁみんな、再会の挨拶はこのへんでおしまい、移動開始! あ、サーズ姫様、アンリーナがいると思うんですが、どこにいるかご存知ではないでしょうか」
ラビコとハイラの頭を撫で、ロゼリィとアプティの頭も撫でる。
シュレドの肩を軽く叩き、愛犬ベスをカゴから出してリード付けて移動……と思ったが、手紙の主、アンリーナは今どこにいるんだろうか。
「アンリーナ殿なら、そのカフェにいると思うぞ。なにやら数週間分の仕事を先に終わらせて、やる気満々でペルセフォスに来て、お城と大型商業施設を元気に行き来していたぞ」
花の国フルフローラからソルートンに帰ってきた時、アンリーナはそのまま船でお仕事があるとどこぞへ行ってしまったが……カフェの為にスケジュールを詰めてくれていたのか。なんかアンリーナには迷惑掛けっぱなしだぞ。
「そうでしたか、ありがとうございます。じゃあ行こうか、カフェジゼリィ=アゼリィに……」
「待って欲しい」
お城の前に作っているはずのお店に行こうとしたら、サーズ姫様が真顔で俺の服をがっつりつかんだ。
「その、こういうのは公平が一番だと思うんだが。ほら、おかしいだろ? 私だけ頭を撫でてもらっていないんだ」
さっきバトル寸前だったラビコとハイラを抑える為に、あとは不満そうだったロゼリィと、ついでにアプティの頭を確かに撫でた。
そういやそれをじーっと目で追っていたな、サーズ姫様。
「いや、その……俺、街の人、です。サーズ姫様は王族。身分を考えると、俺がサーズ姫様の頭をむやみに撫でるのはおかしいかなと……」
俺の行動は間違っていないよな?
「ははは、身分か。銀の妖狐を撃退した英雄様が面白いことを言う。君は今まで誰も成し得なかった強敵、銀の妖狐を殴り説得し追い返した。その功績はこの国にとどまらず、世界から讃えられるべき事実」
いや、俺というかベスが頑張った結果だからなぁ。
あと銀の妖狐のことはあまり思い出したくない。
ニヤニヤ嫌な笑みを浮かべ、なぜか過剰なボディタッチ。思い出すと背筋がゾッとする。
「私は君をとても高く評価している。いや、君はもっと世界から高く評価されるべき男だ。あの銀の妖狐を追い返したという行為が、どれほどの国民の命を救うことになったか。その功績はこのペルセフォス王国に勇気の輝きをもたらし、その光がこの私やハイラにも受け継がれた」
サーズ姫様がぐっと俺の手を握り、熱弁を振るう。
「私は君をとても尊敬している。姉である現国王フォウティアとも相談し、君にはそれ相応の身分を検討しているんだ」
ん? なんか話がでかくなってないか。捨て身で殴っただけっすよ。
「あっはは~それはあれかい~? 銀の妖狐を撃退出来る戦力がよその国に流れないように、私と同じくペルセフォスで社長を飼おうって話かい~?」
ラビコがニヤニヤ話に割り入ってきた。
「はは、体裁はどう捉えてもらっても構わない。だが一つ私情を言わせてもらえるのなら、私は君が好きだということだ。ぜひ私の側にいて欲しい」
サーズ姫様の一言に女性陣が唖然とする。
俺とシュレドが口をポカン。ベスがくしゃみ。
「て、てめぇどういうつもりだ~! うちの社長をからかって遊ぶ気なら許さんぞ~!」
ラビコが慌ててサーズ姫様と俺の間に立ち、威嚇モード。
「遊びではない。以前言ったであろう。私は選ばれるのを待つような奥ゆかしい女ではないんだ。追いかけ外堀を埋め、逃げられないような状況を作るは得意でな、ははは。君は一生のうち、二度と出会えないようなクラスの男と認識している。それを察した女性はすでに多く、ライバルは手強いが私は引かんぞ。本気だ。ピンクのクマに掛けてもいい」
揺らぎのない真っ直ぐな目でサーズ姫様が俺を見てくる。
掛けの対象が意味不明。
おい、カフェ開店の為に来たのに別件で大変な状況になったぞ。
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