第294話 ジゼリィ=アゼリィ王都進出計画 10 再会アンリーナと斜め上設定俺様


 準備中の看板がかけられ暗かった建物のドアが突如開き明かりが灯る。



 そこから多くの制服を着たスタッフと思われる人達が並び、挨拶をしてきた。



「ア、アンリーナか……マジでびびったぜ」



 建物内は暗かったし時刻も二十一時過ぎ、ここにいるとは聞いたが時間も時間だし、誰もいないと思っていたので余計に驚いた。 


 建物だけ見て明日、日を改めて来ようと思っていたのだが、手紙の送り主アンリーナが盛大に出迎えてくれた。





「お久しぶりです、師匠。建物はすでに出来上がり、内装も完璧、スタッフもこの通り確保し、教育も終わっております。あとは最後のピースとなりました、シェフを迎え入れることでカフェジゼリィ=アゼリィが完成となります」


 大き目なキャスケット帽をかぶり、いつものごとくぱっと見で質がいいと分かるスーツを着た商売人モードのアンリーナがそこにいた。



 アンリーナ=ハイドランジェ。


 彼女は世界的に有名な魔晶石・化粧品販売を手がける老舗企業ローズ=ハイドランジェ現社長の娘さん。多分俺より一個下の年齢と思う。


 ありがたいことに、今回のジゼリィ=アゼリィ王都進出計画に進んで協力をしてくれた。


 俺は細かい書類のやり取りがよく分からないので、ほとんどアンリーナに任せてしまった。国へのお店建築の申請、業者選定、細かい設備、設計デザイン確認等。


 世界中を飛び回る、忙しいアンリーナにここまで任せてしまってよかったのだろうか。


 何やらこの為に花の国フルフローラから帰ってすぐに仕事に向かい、スケジュールを詰めて空けてくれたようだし。




「さすがだなぁ。まさか内装からスタッフまで揃えているとは、その……色々無理させてしまったと思う。すまなかった、そしてありがとうアンリーナ。君がいなければ王都にカフェは作れなかったよ」


 俺はアンリーナに歩み寄り帽子を取り、ちょうどいい高さに来る頭を撫でる。


「ヌッフォッ……! 褒められました! ええ、そうなんです、私すっごい頑張ったんです。多分、師匠の寵愛を一生受けてもいいぐらい頑張りました。……と言いたいところですが、今回はそちらにいらっしゃいますサーズ様が全面的に協力をしたいと申し出ていただき、大変助かりました」


 アンリーナがそう言い、サーズ姫様に目線を送り頭を下げる。


「ははは。いやいや、私はスムーズに書類申請や細かい許可が下りやすいようにアンリーナ殿を手伝っただけさ。ここの土地の所有者は王族になるからな。何をするにしてもペルセフォス王族のサインが必要になるものだから、それに私がサインをしただけさ」


 そう、このお城の前の土地を無償で提供してくれたのはサーズ姫様。


 アンリーナによると、お城の目の前の好立地。


 付近の相場を考えると本来相当の借地料がかかるそうだ。確か、毎年一軒家を数軒建てることが出来るぐらい、だっけ。それは恐ろしい額になりそうだ……。


 というか、ここは王族所有の土地なので、本来借りることも出来ないんだがね。



「ありがとうございます、サーズ姫様。この恩は一生忘れません」


 俺は深く頭を下げる。後ろでロゼリィも慌てて一緒に頭を下げてくれた。


「ほう、そうか、一生私に愛を誓うと言うか。いいだろう、その愛、受け入れようじゃないか、ははは」


 ん? えーと、この恩は一生忘れません。


 俺ちゃんとお礼言ったよな。



「大体、先程の話の答えを聞いていないんだ。お礼より、まず体を提供……」


「おいド変態。うちの社長が優しいからってあんまり調子に乗るなよ~? 身分の差を考え立場をわきまえた社長が、しょうがなく変態姫に優しく接しているだけなんだからな~」


 企んだ笑顔でサーズ姫様が真っ直ぐ俺を見てきたが、水着魔女ラビコがそれを阻む。


 いや、別に社交辞令でサーズ姫様に接しているわけじゃないぞラビコ。


 俺、普通にサーズ姫様のこと尊敬しているし。あとすっげぇ美人だし。



「ははは、そうかな? 私は何度か頭を撫でて貰ったが、彼はとても優しく暖かく撫でてくれた。あれは当人に優しさの心が無ければ出来ないことだ。彼は見せかけではなく性根で優しさの心を持っている、私はそう感じたが?」


「ぬ、煽ったのに……ち、変態のくせに察しがいいじゃないか。そうさ~うちの社長は優しさと愛で満ちている男なのさ~。でも~それが向けられ、受け取れる女性には条件があるのさ~。これがないとね~あっはは~残念ながら変態にはその資格すらないってことさ~」


 ラビコがニヤニヤしながら左手薬指に付けている指輪をかざした。


 それに呼応するように後ろでロゼリィとアプティ、アンリーナも左手をかざす。


 あああああああ、いやーな予感。



「ア、アンリーナ、その、とりあえず顔合わせはこのへんで、スタッフさんには帰ってもらってくれ。明日から正式にお店に入って、開店準備なりを始めようと思う。皆さん夜分に集まっていただき、ありがとうございます! 詳しい話は明日からとしたいので、今日はお疲れ様でした!」


 俺はこれから起こるトラブルを察し、これ以上揉め事を王都の人に見られたらソルートンの二の舞いになると、スタッフさんに帰ってもらうようにお願いした。


「そうですわね、お時間もお時間ですし、今日はこのへんにしまして、明日からということにしましょう」


 アンリーナがスタッフに指示を出し、今日は帰ってもらうことに。




「だ、旦那……その、旦那って何者なんすか……。本当はどこぞの王子とかで、今は身分を隠してる、とかじゃないんすか? 絶対おかしいですって、ルナリアの勇者パーティーと普通に知り合いだし、有名な大魔法使いであるラビコ姉さんを配下にしてたり。終いにはペルセフォスのお姫様と普通に知り合いで好意を寄せられているとか、なんか絵本とか作られた物語の主人公みたいっすよ」


 睨み合うラビコとサーズ姫様。


 その横でアンリーナが集まってもらっていたスタッフに解散の指示をだしていたら、シュレドが小声で話しかけてきた。




 おお、いいなそういう設定。

 


 実は俺、王子様でしたってか。


 残念、悪いが俺それより斜め上の設定なんだ。




 うん、異世界から来た。








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