第290話 ジゼリィ=アゼリィ王都進出計画 6 お姫様と二つ名様

 

 アンリーナからカフェの建物がほぼ完成したと手紙が来たので、俺達はペルセフォス王都にやってきた。



 相変わらずのラビコ歓迎儀式があり、おかげで混雑する駅をスムーズに出れた。


 しかし駅を出た途端、王都ペルセフォスに不気味な音がリズミカルに鳴り響き、流星が俺を夜空へと誘う。



 

「あ、サ、サーズ様……ち、違うんです! これは私がお風呂上がりに慌てて出てきたからで先生は……」


 ペルセフォス王国を代表する戦力、空飛ぶ車輪こと飛車輪に乗ったハイラが俺を迎えに来てくれたのはいいんだが、彼女の着ている服はなんとバスタオル一枚のみ。


 下着すらつけていない状況。


 なんというか、こうしてバスタオル一枚で抱きつかれるのもいいのだが、出来たら下から覗きたい、とか間違っても思っていないからな。




「ははは。知っている、少しからかっただけさ。同じお風呂に入っていた女性騎士から報告を受けた。ハイラインがバスタオル一枚で飛び立っていった、とな。いいか、ハイライン=ベクトール、君は国を代表するウェントスリッターになったのだぞ。多くの人に見られる立場だというのに裸同然で飛車輪に乗るなど……もっと自覚というのを……」


 俺達の上空に浮いていたのは、飛車輪に乗ったこの国の王族であられるサーズ姫様。


 脇に抱えたこの国の制服をハイラにふわっと投げ、服を着るように目配せをする。


 慌てて服を軽く羽織ったハイラだったが、サーズ姫様のお説教が始まってしまい、中途半端な着衣状態の正座で下を向きしょんぼりしている。


 夜空に飛車輪で浮いている状態で正座で説教か。異世界ですなぁ。


 さっきのバスタオル一枚より、普段の服が着崩れ状態のハイラのほうがエロく見えるのは俺が変態だからなのだろう。否定もしない。




「やぁ、すまない。うちの部下が失礼をした。あと、会ってすぐ普通に君に甘えるハイラインがちょっとうらやましく思えてな、君もからかってしまった。ははは」


 ハイラへの軽い説教が終わると、サーズ姫様は思わず見惚れてしまうような笑顔を俺に向けてきた。


「……い、いえっ! お忙しい中サーズ姫様を動かすことになってしまい、申し訳ありません!」


 ぼーっとサーズ姫様を見ていた自分に気付き、俺は慌てて頭を下げる。


 俺とは身分が違いすぎるからなぁ、エロい目で見るのは控えよう。


 サーズ姫様はいつものペルセフォス王国の制服をかっちり着て、ビシっと姿勢良く飛車輪の上に立っている。隙きがないですなぁ、さすがっす。



「出来たらそう畏まらず、私もハイラインのように、包み込むような笑顔で接して欲しいが……おっと、君を独占していたら下のワガママ魔女が杖を構えてしまった」


 下を見ると、水着魔女ラビコがプンスカ怒りながら騒ぎ、杖をこっちにロックオンしている。


 や、やめろラビコ。これ以上目立つと、本当に俺の噂が変な感じで広まってしまう。



 実際、国王同等の権力を持っている大魔法使いラビコ。


 さらに今年の飛車輪レース、ウェントスリッターで劇的な大逆転劇で優勝したハイラ。


 そしてこの国のお姫様であり、国を代表するブランネルジュ隊を率いる実力者サーズ姫様。


 この三人が同時にいるということで、周囲は結構な人が集まりだしてしまった。




 俺はすぐに下に降りるようにハイラに指示。


 サーズ姫様にも降りてもらい、ラビコの頭を撫でて気を静める。




 駅前広場の時計を見ると、時刻は二十時過ぎ。


 そろそろ泊まる場所を確保しないとならん。


 こういうときネットがないと本当に不便だ。ネットか電話があれば、ソルートンから事前に予約出来るんだがなぁ。


 前もって予約が出来ないので、現地に着いてから宿の確保が必要になる。



 あとやっぱり思うのは、サーズ姫様、ラビコ、ハイラ、この三人はタレント性がすごいな、と。


 この世界にアイドルがいるか知らないが、知名度に実力が伴うとすごいんだなぁ。


 これに世界的に有名な魔晶石・化粧品メーカー、ローズ=ハイドランジェ次期代表のアンリーナを足したら、連れ歩くだけで商売できそう。



 どうだろう、無理を承知で彼女等にカフェジゼリィ=アゼリィのオープニングに登場してもらえないか頼んでみるというのは。

 それってかなりなインパクトになると思うんだが。


 ラビコは頼めばやってくれそうだが、この国の王族であるサーズ姫様に騎士のハイラ。この二人は国を守る仕事が優先だろうし……無理かなぁ。




 そういやさっきからシュレドが口をポカント開けてプルプル震えているが、なんだろう。


「だ、だ、だ、旦那……! この人ってもしかしてこの国のお姫様のサーズ=ペルセフォス様……じゃないすか!?」


「ああ、そうだけど」


 シュレドが俺の腕を引っ張り、みんなから少し距離を置く。


 そういや……シュレドに王都にカフェを出せるようになった経緯をほとんど話していないような。


 でもさすがサーズ姫様、ずっとお酒の国ケルシィにいたシュレドでも知っているような有名人だ。


「そうだけどって……何を平然と言ってるんすか旦那! この飛車輪といい、世界でも一二を争う実力者で王族なんすよ! 他国では龍をも落とす『龍騎士サーズ=ペルセフォス』として名が轟いているんすよ!」


 そういや以前、魔法の国に行く前にラビコがそれっぽいこと言っていたような。


 ペルセフォスは別名「龍の国」とかだっけ。


 

 おお、なんか格好いい二つ名だぞ。いいなぁ、龍騎士、かぁ。


 せっかく異世界に来たんだ、俺にもそういうの欲しいなぁ。


 ソルートンで轟いている俺の噂の内容を考えると……そうだな『浮気男、俺』だろうか。


 ……だめだこりゃ。


 単なる誹謗中傷じゃねーか。やめやめ。二つ名いらん。










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