第289話 ジゼリィ=アゼリィ王都進出計画 5 バスタオルの鷹と獲物俺様


 王都ペルセフォスの夜空に響く重い打撃音。


 驚くシュレドだったが、周囲の王都民はなんとなく察したようで、軽く上空に目をやると、気にせず歩いて行く。



 まぁ、王都の皆さんはもしかしたら毎日この音を聞いていたかもしれないしなぁ。前回に夜はやめるんだぞ、とは言ったんだが。



 抱きついていたラビコがすっと離れ、ロゼリィとアプティも俺から少し距離を取る。


 ベスのカゴをずらし、俺はこれから来るその衝撃に備える。



「な、なんすかこの音……! 蒸気モンスターか何かっすか!? なんでみんな平然とした顔なんすか! ち、近づいてくる……」


 シュレドが音に大慌て。


 まぁ、見ていれば分かるよシュレド。


 俺がこの音の正体を見せてやっから、体張ってな。



 壁を叩く重い音がどんどん近づいてきて、まるで流星のように光を放ち飛ぶ物体が王都ペルセフォスの夜空に現れた。


 その光は壁で方向転換をし、一切速度を落とすこと無く、勢い良くこちらへ向かってくる。


「あ、危ねぇ旦那……!」


「ん、大丈夫。ちょっと離れていろ、シュレド」


 シュレドがその光が一直線に俺に向かっていることに気付き守ろうとしてくれたが、俺は冷静に普通にシュレドを止め、距離を置く。


 さぁ浮くか、王都の夜空に。



「せんせーーい!! やった……! 本物です写真じゃない実物だ!」



 光り高速で飛ぶ物体から風の塊が放たれるが、俺は両手を上げ、バンザイポーズで待つことにする。


 このほうが俺への被害が少なく一番抱きつきやすいのかな、と。


 風の塊が俺の体を包み、Yの字の状態でフワッと浮き、地面から足が離れた。おお、この感じ久しぶり。


 Yの字で浮き上がった俺を見て、ラビコが指差して爆笑。


 ロゼリィが苦笑いのアプティが無表情で、浮く俺を目で追い、シュレドが尻餅ついて口開けてポカン。


 そういや前回は土下座の体勢で浮き上がったっけ。


 今回含め、まともなポーズが一度も無いじゃないか。これは次回までに格好良く浮き上がるポーズを考えておこう。



「せーのっ! いただきまーす!」


 獲物を見つけた鷹がごとく高速で降下してきたソレは、地面に全てのベクトルをぶつけつつ、上昇するために飛車輪から光を噴射。


 下へ向かう力と上へ向かう力が均等になり、重さがゼロになった瞬間浮いた俺を抱え、一気に上空へと加速する。


 光を纏い、空飛ぶ車輪、飛車輪が王都ペルセフォスを舞う。


 周囲の人からだと、流れ星が地面から空へ逆行しているように見えるのではないだろうか。


 いや、そんな綺麗な光景ではなく、単にダイナミック誘拐か。


 ぼーっとその飛行を見ていたが、以前より方向転換の為の壁蹴りにパワーがついて速さが増しているように感じた。成長しているなぁ。



「よぅハイラ、久しぶり」


「先生! ああああ、先生だ……! この抱き心地、優しい声……先生!」



 彼女はハイライン=ベクトール。


 サーズ姫様率いるペルセフォス王国を代表する飛車輪部隊、ブランネルジュ隊の新人騎士。毎年開かれている飛車輪レースの今年の優勝者だ。


 ハイラは元々気弱で、空飛ぶ車輪こと飛車輪を上手く扱えずにいた。


 曲がることが苦手で、カーブのたびに大きく膨らみ出遅れること多々。


 でも直線加速はサーズ姫様をも上回る速度を出すことが出来る。


 そこで俺が曲がらずに飛ぶ方法、とにかく直線で飛び、曲がるときは壁を蹴って無理矢理曲がるバウンディングダンスというものを教えたら、そのままレースで優勝してしまった。


 元々才能あったからな、ハイラは。俺はちょっと背中を押しただけ。




 石鹸の香りを纏ったハイラが笑顔で体をすり寄せてくる。


 ほんのり温泉の香りと、目の前に広がる肌色のパーセンテージ率の高さと二つの柔らかいもの。


 ん?


 なんかおかしいと思い、俺に抱きつき飛車輪を操作するハイラをじーっと見るが……。


「あ、あまりじっくり見られると、は、恥ずかしいですぅ……」


 ハイラが体をもじもじさせ、体をくねらせる。


 バスタオル一丁で。


 しかも見た限り下着という最強の防具は付けていないご様子。



「は、裸じゃねーかハイラ! どういう状況で飛んできたんだよ!」


 俺は慌ててジャージの上を脱ぎハイラにかぶせる。


 え、正直になれ? ああ、そりゃー見たいさ。ハイラの裸が拝めるこのチャンスを逃すのかよ、という意見もあるだろうが……。


 どうせ見れるなら、王都ペルセフォスの上空のあちこちから見られている状況じゃなく、部屋で二人きりでじっくりゆっくり舐めるように見たい。ああ、もちろんさ。


 童貞でいきなり野外露出系デビューはレベル高すぎだって。



「仕事終わりでお城のお風呂に入っていたら、駅の警備の人が走ってきてラビコ様が来ていると廊下で騒いでいたので、もうすぐに飛んできてしまいました」


 ハイラがバスタオル一丁で苦笑い。


 普段のポニーテールではなく、髪を下ろしてロングヘアーの状況。まだ髪が濡れ、肌から湯気が出ている。やばい、すげぇ色っぽい。


 もうちょっと見ていたかったが、風邪引かれたら困るしな。



「はぁ……すぐに戻って服着てこい。風邪引くぞ」


「あ、そ、それはそうですが……ほ、ほら先生、見てもいいんですよ?」


 ハイラが上目遣いでバスタオルをめくり、その美しい素肌を晒してくるが、俺はその手を止める。


「ダメだ、ハイラ。悪いが俺は独占欲が強くてな、お前の体を他人になんか絶対見せたくないんだ。見ろ、派手に飛んできたもんだから、下に人だかりが出来てこっちを見ているだろ。いいかハイラ、お前の体は俺だけの物なんだ。ぐへへ」


 これだけ男のワガママ的に気持ち悪く言えば、俺から一歩離れるだろ。


 そんで下に結構人がいることに気付いて冷静になって、すぐに服取りに帰るだろ。



「は、はいっ! うわわっ、う、嬉しいですぅ! そうです、私は先生の物なんですぅ」


 ハイラがうっとりした目で抱きついてきた。


 あれ? 俺最後気持ち悪く分かりやすく、ぐへへって言ったよな。


 なんで気持ち悪がることなく抱きついてくんだよ、逆だろ。うっふ、胸がモロに当たるぅ……。



「ははは。王都に来たと思ったら、野外でいきなりハイラを裸に剥いてお前は俺の物だ宣言か。いいじゃないか、ぜひとも私にも同じことをして欲しい。私の場合はクマさんを着て迫ってくれるとより効果的なんだが」



 抱きついてくるハイラをなんとか剥がそうとしていたら、上空から上品な声が聞こえた。






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