第288話 ジゼリィ=アゼリィ王都進出計画 4 王都到着でラビコ歓迎儀式と夜空に響く打撃音様


 列車は順調に進み、朝、夕方の停車で駅売店から食料補給。


 みんなで無言で食うあのパンな。




 そしてフォレステイを出発して二十四時間後の午後十九時半、ついに列車は王都ペルセフォスへと入っていく。



「うおおおおおおおお」


 これで三回目だろうか、来るのは。


 しかし今回初めて来たシュレドは大興奮。



「すげえ! 人がたくさんいるぞ! うはは! これが王都か……ここでお店開くのか……!」


 シュレドが子供のように列車の窓に張り付き、夜の王都の光景を目に焼き付けている。


 日が落ち、暗くなったとはいえ、王都は建物や街道が魔晶ランプで照らされとても明るい。


 人も多く歩いていて、初めて見たときはそれだけでなんかワクワクしてきたな。



「あああ! すげぇ、すげぇよ旦那! 俺が王都ペルセフォスにお店……うおおお、いまだに信じられねぇ!」


「お、落ち着けシュレド。厚い胸板が頬に痛い」


 大興奮したシュレドが勢い良く俺に抱きついてきた。


 彼のその鍛え上げられたブ厚い胸板が、俺の頬に容赦なく押し付けられる。


 シュレドは黒いブカブカのズボンを太い紐でベルト代わりに結び、上半身は裸、背中に黒いマントに頭にシルクハットという不思議なファッション。


 全身オレンジジャージの俺に言われたくはないだろうが、結構奇抜。


 背が高く、全身鍛え上げられた筋肉で覆われていて、パッと見は完全に俺より強いやつに会いに行く状態。


 その彼に、俺は熱い抱擁をされている。


 抵抗は出来ない。俺、筋肉無しの貧弱君だし、そして太い腕が首にキマって……ゴッフ。



「シュレド~それ以上は社長が落ちちゃうよ~」


 ベッドに座り、ニヤニヤと肩肘付けた水着魔女ラビコが笑う。


「うぉ、す、すいません旦那! つい嬉しくて……」


 ラビコの一言で我に返ったシュレドが慌てて俺を開放してくれた。


 あぶねぇ、童貞の向こう側の世界が見えそうだったぞ。



「……お、落ちる……」


 その光景をロゼリィが口をポカンと開け、顔を赤らめてボーッと見ていた。何を想像しているんだ、ロゼリィ。






 ベスをカゴに入れ、少ない荷物を抱え俺達は王都ペルセフォス駅に降り立つ。


 ついたぞ、王都ペルセフォス。



 相変わらず綺麗でデカイ駅だ。直結で大型商業施設があるので、夜十九時半過ぎでも駅は大混雑。


 俺達はいつもの軽装。必要な物は出先で買えばいいしな。


 シュレドはイケメンボイス兄さんにお祝いで貰った、イケボ兄さんがずっと使っていた包丁を大事にケースに入れ抱えている。それ以外の調理道具は王都で揃える予定。




「集合! ラビコ様に道を作れ!」


 混雑する駅を歩いていたら、背後から笛が鳴り、ドカドカと重鎧を着た騎士が走って集まってきた。



 すぐさま騎士たちが混雑する駅内に整列し道を作る。

 

 次々と騎士達が剣を掲げ、向かいの騎士の剣と交差させ、重い金属の音が連鎖するように鳴り出した。うっは、すっげぇ。さすがラビコの扱いは王都では半端ねぇな。


「な、なんすかこれ! なんかのお祭りっすか!?」


 シュレドが目を見開いてその光景を見ている。ああ、俺も最初ビビッたし、普通はそう反応するよな。

 

「あ、そ、そうか……ラビコ姉さんはペルセフォス国王と同等の地位と権力を持っているんでしたっけ。うわ、俺今まで無礼なことばっかしてましたわ! すんませんラビコ姉さん!」


 思い出したようにシュレドがラビコに頭を下げる。


 昨日深夜までその権力者とバカ笑いしながらお酒飲んでいただろ。



「あっはは~これはこれは王都の皆さんこんばんわ~。しばらく王都に滞在しますので、よろしく~。騎士の皆さんお疲れ~、はいっ握手握手~」


 驚き頭を下げるシュレドをなだめ、ラビコが笑いながら道を作ってくれている騎士達に手を差し出し、一人ひとり丁寧に握手していく。


 迷っていた騎士達だったが、ラビコと握手をし、照れたように握手をした自分の手を見て嬉しそうにしている。



 ラビコはどうも王都の騎士達に大人気らしいしな。


 昔はいつもムスっとしていて、愛想悪い感じだったようだが、逆に喋らないほうがラビコはかなりの美人さんで通るからな。


 褒めているんだぞ、これ。


 なんか俺はいっつもニヤニヤ企んだ笑顔のラビコしか知らないから、話で聞く昔のラビコが信じられない。


 まぁ、今のほうが楽しそうだし、それでいいだろ。




 多くの王都民の視線を集め、俺達は騎士達に守られながら外へ出る。



「相変わらずすごいな、ラビコの歓迎儀式は」


 俺がボソッと言うと、ラビコがニヤニヤしながら右腕に抱きついてきた。


「あっはは~だろ~? どうだい社長~私の偉大さが少しは理解出来たかな~? なんと、今ならそんな偉大な大魔法使いと結婚出来るチャンスが! まずは無料で一週間お試しで自堕落な新婚生活を王都で送ってみよう~あっはは~」


 お前この世界の住人だよな。


 なんでなんたらショッピングみたいな宣伝文句知っているんだよ。こっちでもそういう商売あるのかよ。



 じゃれるラビコに怒りゲージ満タンのロゼリィ(UR)が左隣りで青く輝きだしたところで、上空にリズミカルな打撃音が響き出した。


「な、なんすかこの近づいてくる不気味な音……王都ってこんなに不可思議なところなんすか!」



 王都の夜空を見上げ驚くシュレドだが、俺にはなんとなく音の正体が理解出来た……。










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