第285話 ジゼリィ=アゼリィ王都進出計画 1 王都へ出発様


 奇跡の確率という壁を越え、俺は異世界に来た。



 だがその奇跡とやらはそこで打ち止めのようで、いつまでたっても俺は魔法が使えない街の人のまま。


 なぜか一緒に来ていた愛犬ベスは神の力を手に入れている。



 一方俺は、なんだが濃いぃ靄の先を見ることが出来るとかいう、混浴露天風呂以外どこで使うんだっていう特殊な目を得た。


 これを使ってどうにかエロいこと……いやこの世界の平和の為に貢献出来ないものか、俺は日々考えている。



 えーっと、ローズ=ハイドランジェ次期代表らしいアンリーナと、有名なルナリアの勇者のメンバーだった大魔法使いラビコ、ジゼリィ=アゼリィの一人娘ロゼリィの裸は見た。


 うむ、結構見ているぞ。


 実に異世界に来た甲斐があったってものだ。


 この調子でもっと異性の裸を見る……いや世界の平和の為にがんばろう。




 今は以前から進めていた、カフェジゼリィ=アゼリィ王都進出計画が進行中。


 ペルセフォス王族であられるサーズ姫様に土地を提供してもらったり、化粧品、魔晶石メーカーで有名なローズ=ハイドランジェとのコラボ料理を試作し、紅茶の本場である花の国フルフローラへ行き、美味しい紅茶を仕入れるなど、もう準備は万端だ。


 なんというか、本当に人脈というのは大切なんだなと思い知らされた。


 協力してくれたみんなには本当に感謝しかない。



 ケルシィから連れてきた料理人、シュレドも順調に成長していて、もう神の料理人であられるイケメンボイス兄さんの暖簾分け的な許可は出ている状況。


 さすが実の兄弟、シュレドのレシピの吸収の速さは驚くほどだった。






 そして、よく分からない貴重な本を手に入れてから数週間後。


「ここがフォレステイか! 初めて来たぜ」



 馬車に揺られること半日、俺達はフォレステイに到着。



 昨日アンリーナから質の良い紙を使った手紙が届き、建物はすでに完成、内装も出来、人員も確保済なので王都でお待ちしています、と書いてあった。


 俺は至急ローエンさん、ジゼリィさん、イケメンボイス兄さん、シュレドを集め会議。


「頼むよ、まぁ君がいればなんの心配もないからね。僕等はここのお店を守らないといけないから、娘のロゼリィに君の補助を任せるよ」


「そうだね、いい加減あの子もあんたのお手伝いが出来るようになってもらわないと困るしね。任せるよ。ああ、なんだったらさっさと抱いて子供連れて帰ってきてもいいんだよ」


 オーナーであるローエンさんがにこやかに笑い、奥さんであるジゼリィさんがニヤァと嫌な笑い。


「ついに王都に支店かぁ、すごいな。なんだか短期間で状況が変化し過ぎて理解が追いつかないよ。ああ、シュレドなら大丈夫。なんの心配なく送り出せるよ。逆にいなくなると僕がサボれなくなって残念かな、ぐらいかな、ははは」


 イケメンボイス兄さんがいい笑顔。


 実際シュレドが来てからこのジゼリィ=アゼリィは効率が良かったからなぁ。


 なんせ神の料理人が二人いる状況、料理が提供される速度は今までより段違いに早かった。





 朝六時、宿のみんなに笑顔で送り出され、俺、ベス、ラビコ、ロゼリィ、アプティ、シュレドがソルートンを出発。


 馬車二台に分乗し、半日かけ魔晶列車に乗れるフォレステイに到着。


 現在十九時過ぎ。すぐに魔晶列車に乗り、王都ペルセフォスへと向かう。



 馬車は女性組と男性組で分乗したので、男のほうは俺とシュレドの二人のみ。


 愛犬ベスもいたが、馬車内の長椅子を二人で広々使え、しかも安心して昼寝が出来た。


 なんだか馬車内で寝るとズボンを脱がされるトラウマがあったのだが、今回は男二人馬車だったのでその心配がなくのんびり出来たぞ。




「そっか~そういえばシュレドはずっとケルシィにいたもんね~」


「ういっすラビコ姉さん。ペルセフォスには初めて来たんで、何もかもが新鮮ですごいっす。うはは!」


 シュレドは人のほとんどいない、ケルシィの街で小さなお店を開いていたからな。



「ありがとうございます旦那! 俺なんてあのクソ田舎でひっそり人の来ない料理屋で終わるところだったのを、こんな大きな舞台に引っ張り出してくれた……もう旦那にはどれほど感謝すればいいのか」


 世界最高の料理人になって、でかい街にお店を出すのが夢だった、と言っていたか。


 それなら王都なんて最高の場所だろう。


 ライバルも多いが、シュレドならその全員をぶっ倒してくれそう。いや、腕力じゃなくて料理の実力で、な。


 シュレドは見た目どこぞの格闘家のように筋骨隆々だからなぁ。


 背も高く、顔もかなりのイケメン。


 その上料理のスキルが桁振り切れるほど高いときてる。


 なんで彼女いないんだ、シュレド。




「シュレド、王都はかなり美人が多くいるからな。いい人みつけて、夢だった夫婦でカフェ経営に持ち込んでもいいんだぞ」


 俺が小声でつぶやくと、シュレドが顔を真っ赤にして俺の肩をバンバン叩いてきた。


「うはは……わははは! だ、旦那は気が早いって! まずは彼女見つけるぜ! 旦那が結婚したときぐらいに、俺もそうなれたらいいな、なんてな! わはは」


 俺が結婚したとき? そんなん相当先になるぞ。


 俺は気にしないで、はよ彼女みつけて王都で安定してカフェを経営してくれ。


 あと、その腕力で俺の肩を叩かれると、脳まで振動がきて視界がブレるからやめてくれ。



 シュレドの「旦那が結婚」の言葉に反応した女性陣が、その左手薬指になぜかはめている指輪をザッと掲げてきた。


 ああ、久しぶりに見たな……今はアンリーナがいないから三銃士。





 十九時半、俺達を乗せた魔晶列車がフォレステイを出発。



 さぁ行くぜ、シュレドを連れて王都に殴り込みだ。


 ジゼリィ=アゼリィ王都進出計画。ついにその時がきたぞ。









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