第271話 紅茶巡り紀行 9 光る桜情報と夜の港様
花の国フルフローラにある紅茶の産地ローズアリア、ラベンダルと巡り、俺達は美味しい紅茶を手に入れることが出来た。
王都に開くカフェで出す紅茶はこれで大丈夫だろう。
選んだ紅茶の味はアプティのお墨付きだし、産地もアンリーナのホテルでも出されているレベルのしっかりしたもの。
「このラベンダルから魔晶列車に搭乗、ローズアリア経由でビスブーケへと戻ります。お時間は五十分ほど、午後七時半に到着予定となっています」
目的を達成した俺達はアンリーナの指示の下、ラベンダルの駅で魔晶列車に乗り込み、すっかり夜になった風景を車窓から楽しみつつビスブーケへと向かう。
今回は観光ではなく紅茶探しの目的で来たから、あまり他に目を向けられなかったなぁ。それはちょっと残念だった。
「余裕があったら、今度観光でこの国に来てみようか。なんかのんびり回ってみたいと思ったんだけど……」
「はいっ! 私賛成です! お花で満たされた街と景色は私大好きです!」
俺が言うと、宿の娘ロゼリィが目を輝かせ食い気味に賛成を表明してきた。
どうやら絵本のような雰囲気はロゼリィにとって憧れらしく、移動中も終始笑顔で車窓を見ていたからなぁ。相当花の国フルフローラを気に入った模様。
「そうだね~今回は紅茶が目的だったからローズアリアから西に向かったけど、南に行くとこの国の王都フルフローラがあるからね~。王都には多くの桜が植えられていて~綺麗なんだ~」
向かいの席に座る水着魔女ラビコが、足を色っぽく組み替えながらニヤニヤ言ってきた。おお、なんとエロいんだ。
そして桜とな。
こっちにも桜があるのか。元日本人としてそれは見に来たいなぁ。
「この国の桜はちょっと特殊でさ~咲く花が魔力を帯びていて、夜になるとピンク色にほのかな光を放つのさ~。その木がたくさん植えられているロゼオフルールガーデンはとっても幻想的だよ~」
魔力を帯びていて光る桜。
なんとも異世界チックじゃないか。それはぜひとも見たいぞ。
「私も知っていますわ。数回見たことがありますが、あれはいいものでした。日も落ちた暗闇の中、幻想的に光る桜の花。その柔らかな光が愛する二人を優しく包み込み、自然と見つめ合う──そして二人は互いを求めるように激しく──! ──!! ──!」
アンリーナが一見有意義な情報と見せかけて、いつもの妄想話に花が咲きだした。花だけに。
……たまにはいいだろ、ダジャレだよ。
そしてロゼリィが目を見開いて食い入るようにアンリーナの話を聞いている。
俺は後半の話から聞き流したから内容は知らん。
桜の木ですら魔法が使えている世界だってのに、なんで俺は何も使えないんだよ。
ラベンダルからローズアリア、そして列車は花の国フルフローラ最大の港町ビスブーケへと入っていく。
「さぁ皆様ビスブーケ駅に到着となりますわ。お忘れ物のないようにお気をつけください」
アンリーナが座席をチェックし、荷物の確認。
「グラナロトソナスⅡ号が港に泊まっていますので、まずはそちらに向かい出発の時刻を調整いたしますわ」
そうだった。ここまではアンリーナの船で来たんだったな。
時刻は午後七時半。そのままソルートンに向けて出港するのだろうか。愛犬ベスを入れているカゴを抱き、下車。
ビスブーケ駅を出て、十分ほど歩くと港へ到着。
夜でもかなり人が多くいるな。さすが花の国最大の港町、か。
ビスブーケ港で一番目立つ巨大な船、アンリーナのグラナロトソナスⅡ号。
速度が通常の船の二倍近く出せる、アンリーナご自慢の豪華高速魔晶船。
何度も乗せてもらっているが、本当にこの船すごいよな。近くに停まっている船と比べるとよく分かる。大きさ、設備、武装の数が素人の俺が見てわかるぐらい違う。
この船のおかげで早く、安全に移動が出来ているんだ。ありがたいことだ。
「皆様、軽く船内にて夕食をいただきまして、午後十一時にソルートンへ向けて出港となりますわ」
船内にてアンリーナがクルー達と相談し、時間が決まった。そういや夕飯食べてないんだよな、助かる。
どう考えても街で食べるより、アンリーナお抱えのシェフが作るご飯のほうが美味いからな。
「アンリーナ。夕飯後、出発までの時間街に出ていいかな。お土産を買いたいんだ」
移動移動で紅茶を探す以外、何も出来ていないんだよな。当然お土産も買えていない。さすがに手ぶらでは帰れないぞ。
「ああ、さすがです師匠……。花の国フルフローラ最後の夜に熱い思い出を私とお作りになりたいと……! 分かりました、それでは食後は夜の港街デートですね!?」
えーと、お土産を買いたいんだ。
俺、ちゃんと言ったよな? まぁ、いいか。
帰る前に花の国フルフローラ最大の港街ビスブーケの夜をみんなで満喫しよう。
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