第270話 紅茶巡り紀行 8 目的達成ラベンダルからビスブーケへ様
「うわわっ、すっげぇ! ホテルローズ=ハイドランジェのご招待券……! 今年もあの豪華ホテルに泊まれるのか!」
「いつもお世話になっています。こちらをお使いになって、お疲れになった身体に癒やしと英気を」
紅茶選びも終わり、時刻は午後六時。
空は茜色から暗闇へと変化していく。
このあたりは広い農園が多くあって、街灯があまりないので夜は本当に真っ暗になりそうだなぁ。
アンリーナが例のホテルチケットを、ガウゴーシュ農園のスタッフ分手渡している。すっげーな、あれ結構な額になるよなぁ。
ササリアさんとガウゴーシュ夫妻が大喜び。
「すまんねぇ、アンリーナさん」
「でも、毎年スタッフ全員分貰えているけど、いいのかい?」
ガウゴーシュ夫妻が結構な額の物だと分かっているようで、おどおどと聞いてきた。
「もちろんですわ。皆様からご提供いただいている紅茶の価値はそれ以上の物です。これからも末永くホテルローズ=ハイドランジェをよろしくお願いいたします」
アンリーナが深々と頭を下げる。
それを見たガウゴーシュ夫妻とササリアさんが慌てて頭を下げ返す。
今気付いたが、アンリーナは毎年このルートを回っているのか。
でもこれはホテルローズ=ハイドランジェの紅茶だけのお話。
他にも食材や調度品……その他もろもろ、お世話になっているところがいっぱいあるんだよな。
他にも化粧品の販売関係先、さらには魔晶石の販売関係先……こりゃあアンリーナが忙しいわけだ。
アンリーナが世界の地理や事情に詳しいのはこういうことか。
仕事の挨拶周りだけでも世界を巡らなければならないもんな。
なんかすげぇな、アンリーナって。
「フォァ! し、師匠? ああ、なんと大きくて優しい手……」
気付くと俺は普通にアンリーナの頭を撫でていた。
アンリーナの商売関係のスキルの高さはとても尊敬に値する。
ラビコの頭の回転の早さ、魔法の能力、人としての考え方。
アンリーナの商売能力、手際の良さに素早い行動力。すごいなぁ……なんか尊敬できる人が側に普通にいるって、すっごい幸せなことだと思う。
ロゼリィはその優しい心で俺を癒やしてくれるし……たまに鬼は怖いけど、それは俺が何かやらかした結果だしな。
アプティは……俺を勝手に裸にむいたり、勝手にベッドに潜り込んできたり。えーと、なんだろう……いや、何度も命を助けてもらっているぞ。アプティがいなければ俺、何度も命を落としているだろうしな。
本当に俺、異世界に来てよかった。俺の周りにいてくれる人を見るだけで、心からそう思う。
誰が俺をここに呼んだか知らんが、感謝だ。
「ヌッフフフ……ヌフ……」
ガウゴーシュ農園のみんなに見送られ、俺達は馬車でラベンダルへと戻ることに。もう暗くなってきたぞ。
「ヌフッフ、師匠の愛の撫で撫でが……」
正面に座っているアンリーナが変な声をずっと漏らしているが、どうしたもんか。
二十分後、ラベンダルに到着。
時刻は午後六時二十分過ぎ、もう日も落ちて暗闇の世界だ。
駅前はさすがに商店が多くあり、観光客もいるので明るく賑わっているが、ちょっと目を郊外へ向けるとそこは真っ暗な世界。
街の周囲は花畑や紅茶畑になっているので街灯もなく、本当に暗い。
あの辺、夜に歩くのは怖そうだなぁ。
「皆様お疲れ様です。これにて私の挨拶回りは終わりとなります。お付き合いいただきありがとうございました」
ラベンダルの駅にてアンリーナが俺達に頭を下げる。
「や、やめてくれアンリーナ。お礼を言うのはこっちだ。ありがとうアンリーナ、おかげで美味しい紅茶がたくさん手に入ったよ」
実際アンリーナがいなければ、花の国フルフローラをアテもなくうろうろ歩き回って途方に暮れていただろうし。人脈って大事だなぁ。
「いえいえ、師匠の為でしたらこのアンリーナ=ハイドランジェ、使えるものは全て使ってでもご期待に応える所存ですわ。それに王都のカフェ計画は我がローズ=ハイドランジェも一枚噛んでいますので、資金を投入するのは当然ですわ」
ありがてぇ話だ。よし、俺ももっとがんばらないとな。
そう言いながらアンリーナが列車の時刻を確認。さっと走ってチケットを買ってきてくれた。
「皆様、お疲れでしょうがもうひと踏ん張りです。すぐに列車でローズアリア経由でビスブーケへと戻ります。今からだと夜の七時半には到着出来ますわ」
すぐに移動か。
俺達は六時四十分発の列車に乗ることに。
ここから三十分でローズアリア、さらにそこから二十分でビスブーケに着く行程。
アンリーナがいるとのんびり見て回る感じではないが、さっさと迷わず移動出来ていいな。
今回は旅行ではなく紅茶探しの旅だからな。
のんびり見て回るのはまた次回にしよう。
とりあえず紅茶探しの旅は目的達成。
あとはソルートンへ向けて帰路につく。
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