第255話 花の国フルフローラへ 6 ホテルローズ=ハイドランジェ様


「ぅおおお……! おおお……!」



 ──天国、──楽園、──理想郷……俺の貧弱な言葉なんかじゃこの光景は伝えられないな。



 早朝六時にソルートンを出港。


 八時間後の十四時にペルセフォス王国最南端、ティービーチと言う街のすぐ東にあるカエルラスター島に到着。


 来る前から聞いた話で予想はしていたが、現実は予想以上でした。



「ぉおお……」


「社長~雄叫んでないでさっさとホテル行くよ~」


 アンリーナの船を降り、馬車乗り場に行く途中に見える砂浜。


 そこは思わず言葉を忘れ、脳が原始に戻ってしまうほど奇跡の場所だった。


 ラビコに後ろをせっつかれるが、俺は頑張って抵抗しゆっくり歩く。



 白い砂浜、青い空、輝く太陽。


 そしてそこにいらっしゃるたくさんの水着の女性達……! 


 当然半裸の男もいるが、俺、除外ワードで視界からそういうのを消すスキルがあるんだ。


 いや、あったように思う、いやあってくれ……ここ異世界なんだからそういうのくれよ。



 俺の行動に気付いた女性陣の目が本気になってきたので、素直に歩くことに。




「いやー南国って感じだなぁ。湿度がすごいし、肌に当たる日の光がジリジリくるぜ」


 風がドライヤーのような温風。


 もう半裸で歩きたいぐらいだ。


「暑いですねー、この服装はきついかもしれないです」


 さすがのロゼリィも厚めの生地のロングスカートに長袖では暑そうだぞ。さぁロゼリィ、早く……早く薄着か水着……!



「皆様、こちらの馬車でホテルに向かいますわ。どうぞお乗りになって下さい」


 アンリーナが馬車の前で手を振っている。


 馬車の車体にはバラのマークが入り、ローズ=ハイドランジェの文字がバッチリ書かれているぞ。


 すげぇ、ホテルローズ=ハイドランジェ専用お迎え馬車かよ。



「ホテルはすぐそこの赤い大きな建物になりますわ。歩いても行けますが、ホテル利用者の方は無料のお出迎え馬車がありますし、せっかくなので乗っていきましょう」


 アンリーナが指す方向を見ると、紅に近い赤でカラーリングされた大きな建物が見えた。


 窓ガラスが大きく取られ、南国の暑い太陽の光を反射させている。もう、見ただけで高級そう……と思える建物だぞ。


 周囲に他にもホテルはあるが、アンリーナのホテルの建物が一番でかい。




 専用馬車に乗って数分でホテルローズ=ハイドランジェに到着。


 馬車がホテルの入り口に近づくと、ささっとホテルの制服なんだろう身なりの良い服を着た男性が近づいてきて馬車のドアの前につく。


 軽くノックをし、ゆっくり音がしないように実に丁寧にドアを開け、営業スマイル。


「お待ちしておりました、アンリーナ様。本日はごゆるりと普段のお疲れを癒やされていって下さい。ご友人の方々もホテルローズ=ハイドランジェをお楽しみください」


 さらに何人ものホテルマンが集まり、アンリーナに頭を下げる。


 うっへ、さすが経営者の娘さん。待遇がすげぇ。


「荷物をお願いしますわ。こちらの方々は私のとても大事な友人達です。失礼のないようにお願いします」


 アンリーナを先頭に馬車を降り、中に入るとずらっとホテル社員さん達が整列し頭を下げている。


「うわわ……私場違いです、場違いです……」


 後ろに続くロゼリィがびびって震えだした。



 ホテルは窓が大きく取られ、とても開放的な吹き抜けのロビー。


 あちこちにソファーが置かれ、高級そうな花が飾られていたり、よく分からないがお高そうな絵画が飾られていたりする。


 中にいる他のお客さんはどう見てもお金持ちの人ばかりで、着ている服がまず違う。ドレスだったりスーツだったりで、ジャージ着てホテル入ってきた自分との差を感じるぜ……。


 いや、大丈夫。ここはリゾート地、海のすぐそばにあるホテルなんだ。中には水着で来るお客さんだっているんじゃないか……な。いねーな。


「今日はよろしくお願いしますわ。準備は出来ていますでしょうか」


「はっ、全て完了しています」


 アンリーナがイケメンホテルマンに何やら聞いている。




「では皆様、十四階が今日の宿泊先になりますわ。こちらの魔晶リフトにお乗り下さい」


 アンリーナが指した先に何やら俺のいた世界で見慣れたものが。


 箱型の乗り物で、上下に稼働し人を運搬する。これ、エレベーターだ。


「魔晶リフトと言う装置になります。階層の高い建物には便利な装置ですわね」


 ほう、魔晶石の力を利用したものなのか。そういやペルセフォス王都の高級ホテルにもこれ、あったような。


「うわわっ……浮いてます、浮いてます! 初めて乗りました……」


 乗って行く階の数字をアンリーナが押し、魔晶リフトが稼働。するとロゼリィが慌てて俺の腕を掴み、不思議そうに足元を見ている。


 まぁ、確かに浮いているように感じるか。俺は日本でよく乗っていたので、なんとも思わんが。


 ホテルは十五階建て。最上階はカエルラスター島の素晴らしい景色を楽しめる高級レストランがあるそうだ。



「十四階は最上級クラスとなっています。本日は私の特権を使いまして、本フロア全て貸し切りとなっています。他のお客様はいらっしゃいませんので、ご自由にどちらのお部屋でもお好きにお使い下さい」


 魔晶リフトで十四階に到着。


 アンリーナの特権でこの階全て貸し切ったとか。それ普通にやったらどんだけお金かかるんだ。



「うっは~さっすがアンリーナ。やることが本物のお金持ちだな~あっはは~。なんかアンリーナの本気具合いがビリビリ伝わってくるな~」


 ロゼリィが言葉を失って棒立ちしている横で、ラビコが余裕の笑顔。


「もちろんです。私の師匠への想いはこんなものじゃないですわ。今日は地の利を全て使わせていただきます」


 アンリーナが自信満々の笑顔。


 やべーな、庶民の俺とロゼリィがついていけないレベルだ。



 本物の金持ちってのはやっぱすげーな。一夜成金の俺とはレベルが違うぜ……。





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