第254話 花の国フルフローラへ 5 カエルラスター島到着とばらまかれる餌様


「そういやロゼリィ、船酔いは大丈夫なのか」



 時刻はお昼。


 あと二時間ほどでカエルラスター島に着くというところ。


 泊まっている部屋がある五階の船首側にあるレストランでお昼をいただいている。


 さすがにアンリーナお抱えのシェフ。出て来るパン一個にしても美味い。



「はい、この船はほぼ揺れないので大丈夫です。ふふ、とても快適に船旅が出来るとか、乗り物酔いしやすい私からしたら夢のようです」


 さっきは部屋で日記を書いていたみたいだし、本当に大丈夫そうだな。ロゼリィすげぇいい笑顔だ。


 まぁ、もしかしたら最近俺に連れ回されてあちこち行ったから、乗り物慣れが来たのかもしれないな。



「ヌフフ……さぁ師匠、私を褒めて下さって構わないんですよ。このグラナロトソナスⅡ号は現在の持てる技術全てを注ぎ込んだ傑作。そこらの船との違いが身にしみてお分かりかと」


 アンリーナが立ち上がり、自慢気に胸を張る。チラチラと俺を見て何かを待っているな。


 うん、ロゼリィが笑顔なのは間違いなくアンリーナの船のおかげだ。

 

「すごいぞアンリーナ。世界はアンリーナを中心に回っているんじゃないかな。美人、金持ち、気立てが良い、服のセンスも商売のセンスもあるマルチプレイヤーとか、世界の男達が放っておかないぞ」


 思いつく限りの褒め言葉を並べ、アンリーナの頭を撫でる。


「ヌフッ、やりましたわ……師匠のハートを全て握りました! これはホテルでの甘い夜に期待が高まるばかりです!」


 ホテルか、一体どんなプランを用意しているのやら。



「…………」


 そんな雑談をしながら昼食を楽しんでいたら、バニー娘アプティが窓の外を無表情にじーっと見ているのに気がついた。


 そういやソルートンで、海が見える景色が好きとか言っていたか。


 船の向こうは見渡す限りの大海原だし、アプティにはたまらない光景なのかもしれん。





「皆様、あちらがペルセフォス王国、大人気リゾート地カエルラスター島になります! もう遊ぶ為に特化した観光地でして、一度訪れたら帰りたくなくてこの地に住んでしまう方も多くいるという奇跡の島!」


 昼食後、二時間ほどで島が見えてきた。


 デッキに出て興奮した様子のアンリーナの横でカエルラスター島を眺める。


 以前ケルシィに行く途中に同じく観光に特化した島、フラロランジュ島に行ったが、雰囲気は近い感じ。


 明らかに違うのは巨大な建物の多さ。


 ペルセフォスの王都に近いクラスの建物密集具合いだろうか。


 カエルラスター島の向こうに見える陸地がティービーチという地名の街だそうだ。


 あちらもかなりの大きさの建物が多く見える。ティービーチとカエルラスター島、この二つを合わせると相当の規模の街になりそう。



「すごいな、遠くから見て分かるぐらい活気が溢れている。賑やかな街っぽいし、確かにここに住みたがるのは分かるなぁ」


 しかしリゾート地に住むとかどんだけ大富豪だよ。


 土地とか生活費の相場はいかほどなんだろうか。俺の持っているお金でも余裕で生活出来るんかね?


「あっはは~ティービーチとカエルラスター島、ここは王都クラスの設備が揃っているんだ~。人も多くいるし、住んでも仕事には困らない場所だよ~」


 水着魔女ラビコが軽く解説してくれた。


 ほぅ、人が多くいるし、ここにもジゼリィ=アゼリィ進出とか……いやいや、まずは王都のカフェに集中だな。


 今回来たついでに色々見て、今後の参考にさせてもらおう。


 アンリーナのホテルもあるみたいだし、話を聞いてみるか。



「……奇跡……そう、あの島は私と師匠の始まりの島。二人が出会い、友情が愛情に昇華し心も身体も繋がる……」


 アンリーナの話が続いていた。


 にしてもしれっと嘘が入っているぞ。俺とアンリーナが出会ったのはソルートンの安くて美味いうどん屋だ。


 そういや最近あそこ行っていないなぁ。




 アンリーナの豪華高速魔晶船がカエルラスター島の港に到着。


「船はここに停泊させておきまして、我々はカエルラスター島にあるホテルに宿泊となります。ホテルに荷物を置きましたらその後は各自自由行動となりますので、存分にカエルラスター島をご満喫下さい」


 アンリーナがラビコ、ロゼリィ、アプティにチケットを配る。


「そちらが我がホテル『ローズ=ハイドランジェ』のロイヤルフリーパスになります。ご宿泊中はホテル内の施設は全て無料でご利用になれますので、ご自由にご活用下さい。レストランでも好きなだけ食べることが出来ますわ」


 ろ、ロイヤルフリーパス……す、すごいな。アンリーナのホテル内なら基本無料か……。


 どういう施設があるか分からないが、アンリーナのホテルならかなりいいものが期待できそう。



「ど、ど、どどうしましょう……温泉とかエステとかデザート食べ放題……ああああああ」


 チケットを渡されたロゼリィが、どう使うかの想像だけで向こうの世界に行ってしまった。



「さっすがアンリーナだね~気前が良すぎるな~。ま、二人の邪魔はするなっていう餌まきかね~あっはは~」


 ラビコがチケットをひらひらさせながらニヤニヤ笑う。


「な、なんのことでしょうラビコ様。私は友である皆様にぜひ我がホテルの良さを知っていただきたく──」


 図星を突かれたアンリーナが焦ったように弁明をする。


 いつも思うがラビコって勘というか、状況把握とその裏読みが半端ねーな。


 こういう人を頭がいいって言うんだろうなぁ。


 側にいると頼もしいが、相手側にいたらやっかいそう。このラビコと対等に交渉出来そうなのってアンリーナ以外だとサーズ姫様ぐらいだろうか。


 やはり世界規模で活躍する人ってのは共通項あるもんだな。



 アプティは渡された意味が分からず、チケットと俺を交互に見ている。


「アプティ、それはホテルのレストランで紅茶、アップルパイなんかが食べ飲み放題になる魔法のチケットだ」


「……紅茶飲み放題……アップルパイ食べ放題……マスター、これすごいです……ぜひご一緒に……」


 軽く説明をすると、理解をしたアプティがちょっと嬉しそうに俺に近づいてきた。


「おっと……残念ですがご周知の通り、ここから先は師匠と私のオンステージになりますので、ご遠慮下さい、ヌフフ」


 俺とアプティの間に素早く入ってきたアンリーナがニヤァと悪魔のように笑う。




 なんにせよカエルラスター島に着いた。


 花の国フルフローラに行く前に、ペルセフォス王国一番人気のリゾート地ってのを満喫するぜ。







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